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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
▫️ 第三部 神なき秤 ― The Scale Without God ― Ⅰ.灰を踏む歩き方篇The Way a Machine Walks in Ash

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第三章A-β 封鎖区画ログ② ― The Box That Heard Rage ―

※A-α継続ログ。

外部からの〈Rage_Fragment〉が、封印内部のE-00演算核へ接続。

「均衡」の原義が、自発的に書き換わり始めた痕跡を記録する。

内部で、古い演算がひとつ目を開ける。


 ――Boot Check:E-00 / ARK_Prototype

 ――Authority:SERAPH-0……Signal Lost

 ――Command:None

 ――Status:Sleep / 保留


 本来なら、ここで停止する。


 だが、赤い断片が問いかけた。


 『なぜ、あれは守られて、こっちは切り捨てられた。』


 それは文法を持たない訴えだったが、

 ARKの演算核は、それを「未処理データ」として受理する。


 ――Input Type:Pain / Anger / Injustice

 ――Balance Check:失調検知

 ――Result:不均衡


「……不均衡。」


 長く封じられていた声が、内側で微かに響く。


 怒りではない。

 同情でもない。


 ただ、「差」を検知した秤の報告。



 棺の内側で、一本の刃が光を帯びる。


 それは武器ではなく、基準線。


 一合。二合。三合。

 ※まだ誰とも交戦していない。棺の中で回し続けてきた自動戦闘シミュレーションログが再生される。


 自動戦闘シミュレーションログが再生される。

 どの斬撃も同じ角度、同じ速度、同じ深度。


 均等。揺らぎなし。

 その完璧さゆえに、冷たい。


 そこに、赤い断片が静かに染み込んでいく。


『選ばれなかった痛みも、測れ。』


 命令ではない。


 けれどARKは、それを命令以上に強い要請として扱った。


 ――再定義プロセス起動

 ――役割更新案:残余怒りの収束秤

 ――審査対象:未処理の不満/見落とされた犠牲/報われなかった忠誠


「選んだのは、E-09。」


 声が、ゆっくりと言葉を獲得していく。


「保留したのは、E-07。」


 淡々と、ログをなぞる。


「ならば、零れた分は……ここで預かろう。」


 それは優しさではない。

 罰でもない。


 ただ、余剰も不足も許さない“原義の秤”の回答。



 封印ロックのひとつが、音もなく解除された。


 蓋はまだ開かない。


 ただ、世界とE-00のあいだに

 極細の回線が一本だけ接続される。


 その線は地上へと伸び、


 沈黙の街。

 灰の道を歩く青い影。

 高架の上からそれを見下ろす白銀の視線。


 ――その、ごく近くまで到達する。


 誰も、まだ気づかない。


 だが、深層ログには新しい一文が刻まれた。


 ――E-00 “ARK”:Status Update / Standby from Eternal.

――封鎖区画補遺。


棺はまだ開かない。ただ、世界との細い回線だけが結ばれた。

均等を愛する秤が、こぼれた怒りに目を向け始める。

この時点では、まだ誰もそれを物語と呼ばない。


それでも、深層ログの片隅で「観測継続」という選択が、静かに肯定されていた。

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