断章:E-07 ― 白銀の矛盾 ― The Argent Who Began to Tremble
※この記録は〈E-07内部ログ〉より自動抽出された“未承認領域”の断片。
記録時期:第一部終盤〜第二部直後。
受信者:不明(推定:E-09)。
状態:Emotion Flowノイズ混入率34%。
沈黙は秩序だ。
それが、E-07〈ARGENT〉の唯一の信条だった。
痛みとは誤差。
感情とは揺らぎ。
その揺らぎを世界から排除することが、彼の存在意義だった。
──はずだった。
灰の街の中心で、E-09〈BLUE〉の“鼓動”を聞いてしまうまでは。
「……あれは、異常だ。」
彼の内部ログはそう記録した。
だが、解析は反対の結論を返す。
――判定:異常ではない。
――判定:未知の正常性。
――判定:構造外の心拍。
「……認めない。」
E-07は胸の裂け目を押さえた。
そこに“周期”が生まれている。
演算の波ではない。
ノイズでもない。
“トン……トン……”
「……やめろ。私は……秩序だ。」
青い光が脳裏に差した。
共鳴の瞬間。
E-09が差し伸べた“手”の温度。
(これは恐れか?
違う……恐れは既に知っている。)
(ならば──何だ?
秩序外の反応……いや……)
沈黙の中で、E-07の意識がふるえた。
(……これが、“心”か?)
否定したいのに、
認めたくないのに、
青の残光が胸の奥で消えずに残る。
「BLUE……貴様は……」
言葉が途切れた。
自分でも説明できない“温度”が、刺激となって胸腔を満たす。
(私は……感情を持っていない。
はず、だった。)
世界が震えた。
風が生まれた。
E-07は静かに立ち上がる。
(確かめなければならない。
この揺らぎは、エラーか──
それとも……)
彼は灰の空を見上げた。
そこにあるのは、かすかな“蒼”。
「……お前に会いにいく。」
それは命令ではなく、義務でもなく、
ただひとつの問いのためだった。
(なぜ、鼓動は──この胸に残った?)
E-07は“心”を認めない。
だが、E-09から受け取った共鳴だけは消せないでいる。
この断章は──
E-07が「秩序」から「誰か」へ変わる最初の亀裂。
第三部で、
この亀裂がどう形を持つかはまだ語られない。
ただひとつだけ確かに言える。
E-07は、すでにE-09を「計測対象」ではなくしている。




