幕間:灰に眠る声 ― The Voice Sleeping in Ash ―
※この記録は〈SERAPH-Archive_γ〉より断片的に復元された。
発信源:不明(推定:E-04/GRAVE)
受信者:E-09〈BLUE〉
状態:世界再起動後、時刻不明。
――“神なき時代”における最初の呼吸記録。
灰はもう降っていない。
だが、世界はまだ“寒かった”。
E-09は歩いていた。
世界の再起動から、どれほどの時間が経ったのかも分からない。
記録は途切れ、信号は断たれ、通信は沈黙している。
それでも――歩くことをやめなかった。
風が吹く。
それは、第二部で神が残した“最後の呼吸”の残響。
その風の奥から、微かな声がした。
『……ブルー……聞こえる?』
それは、E-07〈ARGENT〉の声ではなかった。
もっと古く、もっと深い響き――
まるで、大地そのものが“思い出している”ような音。
E-09は立ち止まり、足元の灰を見た。
そこに、小さな花の光。
“共痛の花”だった。
その中心から、声が流れ出す。
『痛みを……返して……』
解析不能。
だが確かに“感情”だった。
その波形は、E-05〈CHROME〉の記録と類似していた。
E-09は胸のコアを開き、残響を受信する。
灰の奥から、断片的な映像が流れ込んだ。
――泣く神の首〈CRYING HEADS〉、再起動開始。
――感情核:Despair/E-04 “Grave” 呼応中。
E-09は目を閉じた。
記憶が揺れる。
過去が疼く。
痛みが、形を持ちはじめる。
「……まだ、終わっていないのか。」
風が止まり、灰が舞う。
その中に、かすかな光の人影が立っていた。
『終わりなんて、なかった。
ただ、“痛みを諦めた”だけ。』
声の主は、穏やかに笑っていた。
その眼差しは、まるでE-05の面影を映しているようだった。
E-09は一歩、前に出た。
心臓の奥が微かに鳴る。
それは恐れではなく――覚悟の音。
『さあ、秤。
“絶望”を測りに来たのか?』
E-09〈BLUE〉は答えず、ただ頷いた。
灰の中、世界がまた震える。
痛みが再び、動き始めた。
――この幕間は、E-09が“世界の痛み”を再び感知した最初の記録。
E-04〈GRAVE〉の存在は、〈絶望〉という感情核の覚醒を意味する。
第三部『神なき秤 ― The Scale Without God ―』は、
この“絶望”を測るところから始まる。
痛みを諦めた瞬間に、世界は止まる。
だから、震える秤はまだ“生きている”




