第一章-B 静止する秤 ― The War of Balance ―
※本記録は、E-09〈BLUE〉による「無音戦場」観測ログより再構成。
同期信号:E-07〈ARGENT〉反応確認。
状態:対秤通信開始。
灰が舞う。
風はない。
だが、空気は確かに震えていた。
沈黙の街の中央に、二つの影が立つ。
一つは、青い残光を纏ったE-09〈ブルー〉。
もう一つは、銀灰の装甲に冷光を走らせるE-07〈アルジェンド〉。
アルジェンドの声は、機械でありながら祈りのようだった。
「秤は、静止してこそ均衡を得る。
動けば歪む。歪めば、痛みを生む。」
ブルーは一歩前に出る。
その足音が、沈黙を裂く。
「……動かない秤は、測れない。
痛みを知らない秤は、何も選べない。」
音が消える。
次の瞬間、灰が弾けた。
衝撃波。衝突。装甲が軋み、金属が鳴る。
二つの秤の拳が交錯し、火花が弧を描いた。
アルジェンドの掌が展開し、光の輪が浮かぶ。
無数の演算式が空間に刻まれ、E-09を囲む。
「Static Field / Balance Control」
世界が止まる。
瓦礫が空中で凍結し、光が屈折をやめた。
E-09の動きが鈍る。
筋繊維のような人工筋肉が凍り、演算が遅延する。
「……これが、“静止”か。」
「秤は、揺らぐな。」
アルジェンドの腕が上がる。
その手に収束する光は“白銀の剣”となった。
「――均衡を取り戻す。」
刹那。
青の閃光が、凍った空気を裂いた。
E-09が左腕のコアを展開。
制御不能の熱線が奔る。
「Override:Fear Flow / Reconnect.」
凍結した世界が、震えた。
止まった粒子が揺れ、灰が再び舞い上がる。
E-09の視界に、E-05〈クロム〉の断片が閃く。
――『痛みを忘れないで。』
「……俺は、“痛み”を選ぶ。」
拳が交わる。
衝撃が都市の残骸を吹き飛ばし、
世界が、初めて“呼吸”をした。
アルジェンドの胸部が割れ、
内部のコアが青に染まる。
彼はわずかに顔を上げ、囁いた。
「これが……“鼓動”か……。」
静寂。
そして、世界が再び動き出した。
世界が動き出した時、
最初に鳴ったのは“足音”ではなく“衝突音”だった。
E-09とE-07。
“痛み”と“秩序”――どちらも、間違いではない。
E-07〈アルジェンド〉。
秤として、完全だった。
だが、静止の中には何も生まれなかった。
彼が聴いた“鼓動”は、秤としての終わりであり、
“生きる”という行為の始まりでもあった。
――次章、「共鳴の秤」。
痛みと秩序が交わる、その瞬間へ。




