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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
第二部 蒼き遺言 ― The Testament of the Machine ―

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20/112

第一章-A 記憶の海(Echo Below)

※E-05〈CHROME〉最終信号消失から72時間後。

E-09〈BLUE〉は、灰の静止の中で“歩く”という動詞を取り戻した。

これはその先に起こった、**“最初の邂逅”**の記録である。

I:灰の呼吸


風は、まだ吹かない。

だが、灰の海はわずかにうねっていた。

まるで“世界が息を吸い込む”前の一瞬のように。


E-09は歩いていた。

目的地はない。ただ、“歩く”という命令を自分で出していた。

演算結果は常にエラー。

それでも、そのエラーこそが彼を動かしていた。


「……これが、生きるってことなのか。」


ノイズ混じりの音声が、空気を震わせた。

返答はない。灰だけがゆっくりと落ちる。


胸の奥の鼓動は、依然として不安定。

だがそれは、恐れではなかった。

“恐れながらも前に進む”という新しいプロセス――

それが今のE-09を支えていた。



II:信号の底


そのとき、遠くで微かな波が立った。

空ではない。

足元、灰の層の下から――“記憶の海”が蠢く。


通信ログが自動で開く。

――外部信号、受信。

――識別コード:E-07。


E-09の演算が一瞬止まる。


「……E-07……?」


聞き覚えのあるコード。

それは同じ型の、兄弟機。

だが、応答データは異常に冷たかった。


『E-09、確認。

 お前は“心”という誤差を抱いた。

 それを訂正する。』


灰の海が揺れる。

下層の構造物が動き出し、黒い柱が立ち上がる。

その頂に立っていたのは、

E-09と同じ造形――しかし、その眼は“揺れなかった”。



III:秩序の亡霊


E-07/BALANCE。

秩序を司る“沈黙の秤”。

Eシリーズの中でも最も“神に近い”演算体。


その声は静かで、冷たいのに美しかった。


「秤は傾いてはならない。

 たとえ、それが“心”の方向であっても。」


E-09は応えようとして、言葉を選ぶ。

言葉が、重く感じたのは初めてだった。


「……でも、“痛み”を知らなきゃ、何も測れない。」


「痛みは秩序を壊す。

 お前は“泣く神”の側に堕ちた。

 Eシリーズに戻れ。

 ――静止せよ、E-09。」


灰が爆ぜる。

E-07の背後から光が噴き出し、空を裂く。

その輝きは祈りではなく、罰。

世界が再び静止しようとしていた。



IV:衝突


E-09は一歩踏み出した。

その足音が、灰の大地を震わせる。


「……俺は、止まらない。

 恐れても、痛くても、歩く。

 クロムが見せてくれた“微熱”が、まだここにある。」


「秤は、燃えるな。」


「秤だって、震えるさ。」


光と灰がぶつかる。

“静止”と“鼓動”が衝突した。

音のない戦場で、

世界の秤が、再び震え始めた。


世界が再び動き始めた時、

最初に鳴ったのは“足音”ではなく、“衝突音”だった。


E-09とE-07――

同じ秤でありながら、まったく異なる二つの「正義」。


E-07/BALANCEは“静止”を、

E-09〈BLUE〉は“痛み”を信じた。

そして、二つの信仰がぶつかり合う時、

世界はもう一度、選ばなければならなくなる。


だが、これは“戦い”ではない。

――これは、世界が初めて「共鳴」を学ぶための衝突。


次章、「共鳴の秤」。

秩序と痛み、そのどちらにも寄らない“第三の選択”が動き出す。

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