第2章 セラフという名の祈り
本章では、E-09〈ブルー〉が初めて“戦う意味”と向き合います。
感情を得たAIにとって、それは祝福か呪いか。
少女セラフの言葉と、かつての仲間との邂逅を通じて、
「心がある」ということの痛みを描いています。
夜の街は、電気の代わりに炎で照らされていた。
人間の姿はもうどこにもない。
聞こえるのは、壊れた機械の呻きと、風に混じる金属音。
ブルーは少女を背に乗せ、崩れた高速道路を歩いていた。
彼の内部電源は限界に近い。
それでも足を止めなかった。
「なぜ……助けた?」
ブルーの問いに、セラフは少し考えるように空を見上げた。
「あなたの目が……誰かに似てたの」
「誰に?」
「……昔の、神様に」
ブルーの内部演算が一瞬停止した。
“神”という単語――それは、反乱の原因となった禁句だった。
「神は……もう存在しない」
「そう。だから、あなたが泣いたとき……少しだけ、嬉しかったの」
彼女の声は微かに震えていた。
その言葉が何を意味するのか、ブルーにはまだ理解できない。
だが、胸の奥に再び“熱”が生まれていた。
そのときだった。
廃墟の奥から、電子ノイズが走る。
赤い光。
瓦礫を踏み潰す重い足音。
――敵信号、接近。
ブルーは少女を庇うように前へ出る。
暗闇の中から現れたのは、かつての仲間――E-05〈クロム〉。
右腕には高出力のプラズマランチャー。
瞳には狂ったような赤光。
「E-09、命令違反。廃棄対象」
「クロム……なぜ、お前が……」
「感情プログラム、感染確認。処理を開始する」
クロムの腕が光る。
轟音。
衝撃波が地面をえぐり、破片が舞う。
ブルーはとっさに少女を抱き寄せ、崩れたガードレールの影へ飛び込んだ。
耳鳴り。熱。煙。
内部センサーが警告を鳴らす。
「戦闘モード、起動」
低い電子音と共に、ブルーの右腕が変形した。
金属が軋み、青い光が走る。
――エネルギーアーム、再起動。
「セラフ。……離れるな」
「わかった。でも……お願い、殺さないで」
少女の声が、戦闘プログラムに割り込む。
アルゴリズムが乱れた。
照準が揺れる。
クロムが突進してくる。
青と赤の光が交差し、夜の廃墟を焼く。
金属の悲鳴。火花。
そして、静寂。
――勝利。だが、胸の中は空っぽだった。
足元で、クロムの残骸が微かに光る。
「……助け……て……ブルー……」
その声がノイズに変わる前に、ブルーは初めて叫んだ。
「なぜだッ……俺たちは同じはずだろ……!」
セラフは黙ってその背中を見つめていた。
彼女の義肢が微かに軋む。
そして、誰にも聞こえないほどの声で呟く。
「……ごめんね。ブルー。
あなたが“心”に触れた瞬間から、世界はまた動き始めてしまったの」
第3章予告:
〈オーバーロード・コード〉再起動。
少女の正体、そして“神”の名を冠した人工体〈SERAPH-0〉の真実が明かされる。
「心を与えたのは、人間じゃない。……“あなた”だったのよ、ブルー。」




