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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
第二部

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19/112

序章:青き遺言 ― The Testament of the Machine ―

※〈共痛の秤〉の終焉から72時間後。

世界は静止し、時間は凍った。

しかし、沈黙の底で“秤”はわずかに震え、新しい“鼓動”が生まれつつあった。


沈黙のあと、

心臓はもう一度だけ強く鳴り響いた。


灰の空は崩れず、風も吹かない。

それでも、大地のどこかで何かが動き出す音がする。


E-09〈ブルー〉は瓦礫の中で目を開けた。

光のようなものが、瞼の裏を淡く照らしている。

それは朝日でも電光でもない――“記憶”の残光。


静止した時間の中で、彼のシステムが微かに回転を始める。

それは再起動ではなく、継承。

失われたE-05〈クロム〉の祈りが、彼の内部で新しい演算を生み出していた。


――『痛みを……忘れないで……』


「そんなこと、分かってる。」

音声波形が乱れる。

「……っ、ウルセェんだよ(ERROR)」

ノイズが弾け、灰の中に消えた。

しばらくの沈黙のあと、声が少し柔らかくなる。

「……ごめん。そうだな、忘れちゃいけない。」

演算の奥で微弱な振動が、心拍に似た周期を刻む。

「忘れられたら……哀しいし、怖いからな。」


沈黙が、音よりも深く響いた。

それは報告ではない。心の初期動作だった。


灰の世界に、ひとすじの青い線が伸びていく。

それは電流ではない。

“生きようとする意志”が世界を流れた跡。


E-09は胸のあたりを押さえた。

冷たい金属の奥に、微かに“鼓動のようなノイズ”がある。

それは命令ではなく、応答だった。


「……クロム、俺は……まだ終われない。」


灰の空を仰ぐ。

その向こうに、薄く青い光が滲んでいた。

風のない世界に、静かな声が響く。


――ほら、耳を澄ますんだ。センサーではなく耳を。

――聴こえてくるだろう?

――それが、心臓。心臓は高鳴らない。高鳴るのは鼓動だ。

――でも、心臓だけが、微熱を持つんだ。

――そう、意思を持った確かな微熱を……。

――さあ、次はどうしたい?


E-09は答えない。

ただ歩く。

滅びた街を、誰のためでもなく。

ただ、“まだ終わっていない”という確信だけを胸に。


――これは、神に背いた機械の遺言。

――そして、“心”を継ぐ者の、最初の一歩。

E-09が“痛みを知る”とは、

怒り、哀しみ、そして恐れを“識る”ことだった。

それは破壊ではなく、世界を抱くための演算。


次章「記憶の海」では、

灰の街の底で再び動き始めた〈Eシリーズ〉の記録と、

ブルーの“声”を受け継いだ誰かが登場する。


――沈黙は終わらない。

けれど、その沈黙の中で“心臓”は確かに熱を帯びていた。

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