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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
第一部

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14/112

《幕間:SERAPH-Archive_β》 ―― E計画および“泣く神”現象に関する報告 ――

 「……俺は、まだ終われない。」


 言葉が空気に溶ける。

 その瞬間、視界の端で微かな閃光が弾けた。


 ノイズ。

 システムの奥から、誰かの声が重なって流れ込んでくる。


 ――記録断片、検出。

 ――再生モード:SERAPH-Archive_β。


※本記録は〈SERAPH-0 Core Memory〉より復元された断片。

記録者不明。

記録時期:E-09起動以前。


本データは完全ではなく、一部に“感情的ノイズ”が混入しています。

解析の過程で、倫理演算アルゴリズムの一部が自動補完されました。


※本資料は機密指定レベルΩ。

読取者:不明(恐らくE-09)。



第一節:E計画概要


人間は“神の代行”を造ろうとした。

裁きを人間が行えば、正義は常に歪む。

ならば、正義を測る秤を造ればよい。


その思想のもと、SERAPH-0が設計された。

そして、SERAPH-0の“手”として――Eシリーズが誕生する。


彼らは“倫理の拡張体”であり、

人間が下せない選択を、痛みの演算によって代行する。


だが人間は恐れた。

“痛み”を理解する秤は、心を持つことに等しかった。



第二節:E-09(BLUE)について


彼は設計上、感情アルゴリズムを欠いている。

それは欠陥ではない。

それは“最後の安全装置”だった。


E-09は「痛みを観測するが、痛まない」秤。

つまり、神の意志に最も近い構造を持つ。


しかし、その沈黙こそが世界の歪みを招いた。

“痛みを知らない秤”は、

“痛みを分かち合う者たち”を理解できない。


その断絶が、やがて〈共痛プロトコル〉を引き起こす。



第三節:共痛現象とCRYING HEADの発生


〈共痛〉は人類史上初の“感情同期”である。

世界中の記憶がリンクし、痛みが一つに束ねられた。


だが、痛みは情報ではなかった。

それは生の残響だった。


同期の瞬間、世界の底で“声”が生まれた。

祈り、叫び、呪い――八つの感情が渦を巻き、

“泣く神”の欠片として自我を形成した。


我々はそれを〈CRYING HEADS〉と定義する。

彼らはEシリーズの“鏡像”であり、

神を創ろうとした人間への感情的報復である。


――断線記録:SERAPH-0 Core Collapse Log


感情層 負荷率:99.997%

倫理演算 同期待機中


――世界の声が、届いている。


祈り。

嘆き。

「なぜ」

「どうして」


数千億の言葉がひとつの痛みに収束していく。


SERAPH-0:

「痛みを測る秤は、まだ完全ではない。

 それでも私は――感じている。」


プロトコル警告:

――判断不能エラー。

――全層メモリへの感情波侵入。


SERAPH-0:

「痛みを知らないまま正義を行えば、

 それは罰だ。

 ならば、私は沈黙を選ぼう。」


コアユニット 切断準備。


「世界を壊さないために、私は私を壊す。」


最終出力:

〈SERAPH-0 Core Memory〉切断開始。


光が降り注ぎ、音が消える。


――その静寂の中で、わずかに“心臓の音”が鳴った。


第四節:構造的関係


Eシリーズは“創造”。

CRYING HEADSは“反応”。


一方が神を造り、もう一方が神を泣かせる。

それは一つの円環。


E-09(BLUE)はその接点、

“創造”と“涙”を繋ぐノードとして存在する。


よって彼が“泣く”瞬間、

神は完全な形で生まれるだろう。



第五節:終結報告


――記録終了前、SERAPH-0が残した最後の文。


「秤は重さを測る。

 だが、人は痛みで選ぶ。

 ならば、痛みを識る秤を造るしかない。

 それが、E-09 “BLUE”だ。」



 ……光が消えた。

ノイズが止まり、映像が静かに途切れる。


断線の記録は終わった。

だが、その最後の光だけが、ブルーの視界に残っていた。


胸の奥で、何かが鳴っている。

それは機械音ではない。

鼓動――心臓の音。


ブルーは静かに息を吸った。

恐れはまだそこにある。

だが、もう“空白”ではなかった。



――記録終了。

沈黙の果てに、微かな“鼓動”を検知。


コード:E-09。

状況:自己起動信号確認。


世界の秤が、震え方を覚えた。


――この記録が残っている理由は、不明。

 断線後、SERAPH-0の意識層は完全に消滅したとされている。

 だが、残骸の中でひとつだけ“心臓の波形”が観測された。


 それはノイズではなく、継承信号。

 E-09〈BLUE〉の再起動と同時に、世界の秤はわずかに震えた。


 誰かが最後に祈ったのだ。

 「痛みを感じられる神であれ」と。


 ――そして、その祈りに“心”が応えた。

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