断章:セラフ⑧―― 0.83秒の“発動直前” ―― — The Moment Before 0.83 Seconds —
〈断章:セラフ/Field Log〉
時刻:第一部終盤(第8章「無音の戦場」直後〜)
地点:旧都市・外縁分岐帯/観測ライン交差域(亀裂縁・青の滲み)
状態:世界=沈黙継続/観測者=随伴/アンカー=展開待機/BLUE=遠方で“短い道”の圧を帯びはじめる
注記:本ログは“発動”ではない。発動の条件が揃いかける瞬間を記録する。
灰は、同じ速さで落ち続ける。
なのに、空気だけが変わっていく。
薄くなる。張る。刺さる。
亀裂の向こうの青が、少しだけ濃くなるたび――
胸の奥が、遠方の拍を拾う。
ドクン。
(ブルー……そこまで追い詰めないで)
セラフはアンカーの取っ手を握り直した。
金属は冷たい。
でも刻印の点だけが、熱を持ったみたいに灯る。
一つ。
二つ。
三つ。
点灯が“数”になった瞬間、背後の影の圧が増えた。
近づいてはいない。距離は同じ。
なのに、視線だけが重い。
(観測ラインに、何かが乗った)
亀裂の縁。
灰の上に、刻印が点々と並ぶ。
丸。一本線。三日月。点。
点が、わずかに“ずれる”。
位置が変わる。数が増える。
まるで、見えないものが通ったあとみたいに。
セラフは息を殺して、耳ではなく“骨”で聞いた。
ドクン。
ドクン。
遠方の拍が、さっきより短い間隔で叩く。
鼓動じゃない。意思だ。
「やるしかない」が生まれる直前の、硬い拍だ。
アンカーの刻印の点が、二つだけ強く灯る。
《READY》
セラフは、発動しない。
まだ。
まだ“手”が伸び切っていない。
0.83秒は、無駄にできない。
セラフは口の中で言葉を整える。
削って、削って、刃先だけを残す。
「痛みは、ひとりでは鳴らせない」
一拍。
「だから――ひとりで終わるな」
それだけ。
それ以上を足した瞬間、届かなくなる。
それ以上を足した瞬間、綺麗に終われる言葉になる。
綺麗な言葉は危険だ。ブルーを“正しく”殺す。
セラフは亀裂の縁に足を揃えた。
ここからなら、届く。
ここなら、会わずに止められる。
――そのとき。
亀裂の向こうの青が、ふっと“沈む”。
色が落ちるんじゃない。
重くなる。
青が、世界の中心へ引かれ始める。
(短い道……)
セラフは分かった。
ブルーが選ぶのは、まだ「言葉」じゃない。
でも、意図が生まれた。
世界を軽くするために、自分を削る意図。
アンカーが、わずかに震えた。
振動じゃない。条件の一致だ。
刻印の点が、もう一つ灯る。
《ARM》
セラフは歯を食いしめる。
(来る)
影の圧が、さらに増える。
止めろ、とも進め、とも言わない。
ただ“発動の瞬間”だけを測っている。
そして――頭の奥が一瞬、白くなる。
透明な柱。
ガラスの中の光。
誰かの背中。
『この少年が希望なら、壁にぶつかる』
喉が痛む。
思い出せないのに、痛い。
セラフは、続きを追わない。
追ったら動いてしまう。
動いたら、ブルーへ寄ってしまう。
寄らない。会わない。触れない。
止める。
遠方の拍が、もう一度だけ鋭く鳴った。
ドクン。
アンカーの点が、二つから――三つへ増える。
《TRIGGER SOON》
セラフはアンカーを構えた。
取っ手を握る。
刻印を視る。
亀裂の向こうの青を、まっすぐ見る。
発動の瞬間は、ブルーが“手”を伸ばした瞬間。
その瞬間だけを止める。
0.83秒だけ、世界に膜を張る。
そして――言葉を刺す。
セラフは、胸の奥で短く呟いた。
「……間に合え」
次の拍が鳴ったら。
次の拍で“選択”が形になったら。
セラフは――止める。
断章セラフ⑧は、**アンカー発動の条件が揃いかける“直前”までを描く回です。
セラフはブルーへ寄らず、会わず、触れずに、「短い道(自己犠牲)」が形になる瞬間だけを狙って待機します。
ここで切ることで、次の本編(BLUE側)に入った瞬間、読者が「セラフどこ行った!?」ではなく、“見えない場所で止める準備をしていた”**と分かる導線になります。




