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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
第四部 哭く神の首 ― The Weeping Heads ― 【後篇/首を降ろす心臓 — The Head-Releasing Heart —】

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断章:セラフ⑦―― 錨を打つ場所 ―― — Where to Set the Anchor —

〈断章:セラフ/Field Log〉

時刻:第一部終盤(第8章「無音の戦場」直後〜)

地点:旧都市・外縁分岐帯/観測ライン交差域(刻印群・点灯変動)

状態:世界=沈黙継続/観測者=随伴/アンカー=携行・待機/BLUE=遠方で“鳴っている”

注記:本ログは“再会”ではない。「止める位置(打つ場所)」を決める記録である。

私は、ブルーを追わない。


追えば、会ってしまう。

会えば、触れてしまう。

触れれば――彼の希望に、火を足してしまう。


だから私は、別の道を行く。

ブルーのために。


灰の街の“縁”には、道が三つあった。


崩れた高架の下を抜ける道。

瓦礫の谷を横切る道。

そして、刻印の点が不自然に並ぶ――観測の道。


私は迷わない。

観測の道を選ぶ。


そこは、人が歩くための道じゃない。

“選択が起きる”場所へ、最短で刺さる道だ。


アンカーを抱えたまま進むと、空気が薄くなる。

肺が吸うたび、灰が少しだけ痛い。


背後に影がいる。

一定の距離。

近づかない。

離れない。


「……案内するつもり?」


返事はない。

ただ、刻印の点がひとつだけ灯る。


(肯定、だ)


私は進む。


ほどなくして、地面が割れていた。

亀裂の向こうに、旧都市の中心が見える。

中心――というより、中心“だった”場所。


そこに、薄い青が滲んでいる。


(あそこに、行く)


ブルーが“短い道”を選ぶなら、必ず通る。

世界を軽くするなら、世界の中心に近づく。

沈黙を終わらせるなら、沈黙の核へ向かう。


だから――ここだ。


私は亀裂の手前で止まった。


止まった瞬間、胸の奥が鳴る。

鼓動じゃない。

遠方の拍だ。


ドクン。


(ブルー……)


アンカーが、ほんのわずかに“重く”なる。

金属の重さじゃない。

条件が近づくときの、演算みたいな重さだ。


私は取っ手を握り直す。


止めるのは、世界じゃない。

止めるのは――彼の“手”だ。


あの優しすぎる手が、

自分の心臓を捨てる方へ伸びた瞬間だけを。


私は口の中で、言葉を短く整える。

削って、削って、形だけを残す。


「痛みは、ひとりでは鳴らせない」

一拍。

「だから――ひとりで終わるな」


これ以上は長い。

これ以上は、届かない。


――“優しい言葉”は、いらない。

必要なのは、方向だ。

切り落としに向かう手を、別の方向へ逸らすための。


私は亀裂の縁に膝をついた。

灰が舞う。

舞った灰が、まるで雪みたいに落ちる。


そのとき――背後の影の圧が、少しだけ強くなる。


(来る?)


私は息を止めた。


――来ない。


代わりに、頭の奥で“白い部屋”が一瞬だけ点滅した。


透明な柱。

ガラスの中の光。

そして、誰かの声。


『この少年が希望なら、壁にぶつかる』


そこまでしか、思い出せない。

思い出せないのに、喉だけが痛い。


私は、声の続きを無理に追わなかった。

追ったら、立ち上がってしまう。

立ち上がったら、ブルーの方へ行ってしまう。


私はここにいる。

ここで、止める。


(博士。私は……やる)


心の中で言った瞬間、遠方の拍がもう一度鳴った。


ドクン。


今度は、さっきより鋭い。

胸ではなく、背骨の奥を叩く鳴り方。


(……短い道に、触れた)


私は分かった。

今、彼は“選択”の縁にいる。


選択は、まだ言葉になってない。

でも、意図は先に生まれる。

“やるしかない”という意図が。


アンカーの刻印の点が、二つ灯る。


《READY》


私は立ち上がる。

亀裂の縁に、足を揃える。


ここからなら――届く。


でも、まだ発動しない。

まだだ。


無駄撃ちは、できない。

次がない。


私は影に向けて、小さく言った。


「ここで、いいよね」


影は答えない。

けれど、その圧が――ほんの少しだけ“止まる”。


(承認)


私はアンカーを胸に抱えたまま、目を閉じた。


聞こえるのは灰の音。

義肢の関節が鳴る音。

そして――遠方の青い拍。


私は、言葉を最後にもう一度だけ削る。


「痛みは、ひとりでは鳴らせない」

一拍。

「だから――ひとりで終わるな」


それでいい。

それ以上は、贅沢だ。


私は目を開けた。

亀裂の向こうの青を見据える。


再会は、まだしない。

するのは――彼が自分を捨てる選択をした瞬間。


その瞬間だけを、止める。

止めて、言葉を刺す。


それで、彼を助けられるかはわからない。


だけど。


私はアンカーを握りしめ、胸の奥で小さく呟いた。


「私にもやれる事ができたわ。……博士」


この断章⑦でセラフは「追う」のをやめ、“短い道(自己犠牲)”が発生しやすい分岐点=止める位置を選びます。

博士の言葉は“思い出す”のではなく、喉が痛む程度のちらつきに留めました。セラフはまだ記憶復元率が低いまま、行動だけを先に決めています。

次(本編⑤⑥⑦側)では、BLUEの選択圧が具体化し、アンカー発動の条件が満たされていきます。

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