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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
第四部 哭く神の首 ― The Weeping Heads ― 【後篇/首を降ろす心臓 — The Head-Releasing Heart —】

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断章:セラフ⑤―― 灰の分岐で、錨を待つ ―― — At the Ashen Junction, I Wait with an Anchor —

〈断章:セラフ/Field Log〉

時刻:第一部終盤(第8章「無音の戦場」直後〜)

地点:旧都市外縁・分岐帯(複数ルートの交点)

状態:世界=沈黙継続/E-09〈BLUE〉Emotion Flow 継続/観測者=随伴

注記:本ログは“再会”の記録ではない。再会の条件を守るための、別ルートの記録である。

風は吹かない。

灰だけが、落ちる。


それでも私は、歩いていた。

ブルーの方へ――ではない。


「……こっち」


自分に言い聞かせるみたいに、私は声を出す。

正しい方角は、胸が嫌がる。

会いに行きたい方へ身体が傾く。

だから、声で釘を打つ。


会わない。

会ってしまったら、私は触れる。

触れたら、彼の心臓に火を足す。


地下で読んだ文字が、まだ目の裏に張り付いている。


《DO NOT TOUCH HIS HEART》

触れるな。心臓に。


心臓なんて言葉、ずるい。

「コア」と呼べば、痛みが薄れるのに。

あいつの中で鳴っているものは、言い換えた瞬間に壊れる種類のものだと――私はもう知ってしまった。


アンカーを抱え直す。

金属の重さより、使うべき瞬間の重さの方が腕にくる。


灰の街を抜けると、風景が“分かれはじめる”。

崩れた道路が三つに裂けて、どれも同じように死んでいるのに、どれも同じじゃない顔をしている。


その交点に、刻印があった。


丸い輪郭。

中心に一本線。

三日月。

点。


祈りの数珠みたいに、同じ印が一定の間隔で並んでいる。

ここが“入口”ではなく、分岐だと分かる。


私は立ち止まった。


(……ここだ)


息を吸う。

吸った瞬間、胸が痛む。

痛みは、たぶん――私が間違ってない証拠だ。


背後に、影がいる。

距離は詰めない。

でも、目は逸らさない。


「ついてくるの?」


返事はない。

沈黙はいつも、肯定に似ている。


私は分岐の真ん中に膝をついた。

アンカーを地面へ降ろす。

灰が舞って、すぐ落ち着く。


そして――待つ。


待つ、という行為は怖い。

走るのは簡単だ。

ブルーの方へ走れば、正義みたいな顔ができる。

助けに行く自分を、好きになれる。


でも私は今、助けに行かないことを選んでいる。

助けに行かないで助ける。

その矛盾に、耐える。


遠くで、青い滲みが揺れた気がした。

見えたわけじゃない。

ただ、胸の奥が“そっち”を知っている。


(……ブルー)


名前を呼びそうになって、唇を噛む。

呼んだら、足が動く。

動いたら、私は負ける。


代わりに、私は“別の名前”を拾う。


『この少年が希望なら、壁にぶつかる。

 その時、何ができるかを探しなさい。』


博士の声。

断片。

長く思い出せない。思い出したら、泣いてしまうから。

泣いたら、私はここで崩れる。


だから――断片のまま、胸に刺しておく。


「私は……探す」


誰に言ったか分からない。

影か、自分か、灰の分岐か。


その時、刻印の点が、ひとつ増えた。


点が二つ。

続けて、三つ。


(……観測点が、増えてる)


増えたのは“目”かもしれないし、増えたのは“危険”かもしれない。

あるいは――増えたのは“選択肢”だ。


私はアンカーの取っ手を握りしめた。

冷たいのに、嫌じゃない。


地下の端末が言っていた。


救うな。止めろ。

止めた時間に、言葉を載せろ。


私が拾った言葉が、胸の奥で短く鳴る。


「痛みは、ひとりでは鳴らせない」

「だから――ひとりで終わるな」


それを口に出してみる。

灰の上で、声が小さく割れた。

割れてもいい。

割れた方が、0.83秒には入る。


影が、ほんの少しだけ動く気配がした。

初めて“合図”みたいな圧が来る。


(……近い?)


私は目を閉じる。

耳を澄ます。

無音の中で、無音じゃないものを探す。


そして――来た。


遠くの空気が、わずかに沈む。

世界のどこかで、重いものが“傾く”感じ。


ブルーが、選びかけた。

まだ選んでない。

でも、選べる位置に手がかかった。


私は立ち上がる。


足が勝手に“会いに行く”方へ向こうとする。

私はそれを、力でねじ伏せる。


「……違う。ここ」


私は分岐の中央へ、もう一度戻る。

ここが私の場所だ。

ここが“止める位置”だ。


アンカーを抱えて、息を吸う。

吐く。


胸の中で、言葉をもう一度だけ整える。

0.83秒に載せる形に、削る。


短く。

強く。

でも、世界の話をしない。


――彼の話だけをする。


私は、灰の分岐に立ったまま待つ。


再会のためじゃない。

終わり方を、塞ぐために。

ここでセラフは“別の道”=短い道(Mercy-Shutdown 1)に繋がる分岐へ先回りし、アンカーと“言葉”を抱えたまま張ります。

次の断章⑥では、張り込みの最中に「博士の断片」と「0.83秒の意味」を“読者の手すり”として置き、断章⑦で本編の発動瞬間へ繋げます。


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