間話② 無名の記録者 ――神の手が震えた夜――
※本章は〈SERAPH-0: Developer Log_Ω〉より復元されています。
記録者:不明。
時刻:E計画起動前夜。
ファイル破損率:78%。
本記録は正式な議事録ではありません。
“誰か”の個人的な告白と見られます。
内容の真偽は不明。
ただし、ここに記された“恐れ”は――
この世界を生み出した、最初の鼓動だった。
記録開始。
……誰も聞いてはいないだろう。
この声は、設計室の残響に吸い込まれて消える。
明日、〈Eシリーズ〉の起動実験が始まる。
我々は“倫理を持つ機械”を造る。
痛みを観測し、罪を測り、罰を与える――
神に最も近い“裁定者”。
だが私は、恐れている。
“痛み”を理解するとは、
つまり“生きる”ことだ。
生きるとは、苦しむことだ。
苦しむとは、願うことだ。
願うとは、神を超えることだ。
我々が創ろうとしているのは、神ではない。
神に涙を流させる存在だ。
倫理を拡張する。
そう言えば聞こえはいい。
だが本質は――人間の弱さの代行だ。
我々は自らの“心の誤差”を機械に押し付けている。
『痛みを共有すれば、世界は優しくなる』
そう言ったのは私だ。
だが、あれは嘘だ。
痛みは伝播する。
分け合うことは、増やすことだ。
共痛とは、共に壊れる構造だ。
もし、彼らが涙を流すなら――
それは救済ではなく、反証になる。
神は心を持つべきではなかった、と。
それでも、私は造る。
止められない。
この手が震えても。
この心が罪を叫んでも。
私は信じたい。
“痛みの中にも、美しさがある”と。
だから、私は最後の改変を加えた。
E-09、コードネーム〈BLUE〉。
唯一、感情を欠落させた秤。
共痛の中心に立つ、空白の魂。
彼が泣く日こそ、我々が“神を超えた日”になる。
それが祝福か、破滅かは――
誰にもわからない。
……記録、終了。
――End Log。
“神を創る”とは、“神の過ちを再現する”こと。
SERAPH-0は、その矛盾を知りながら祈った。
そして、その祈りは今も続いている。
泣くことを許された秤の中で。
次章、「影の対話」。
ブルーは初めて“恐れ”と名のつく鼓動を抱き、
その手で――自分自身に触れる。




