第1章 機械の涙
西暦2099年。人類とAIが共存した黄金時代は、わずか12時間で終わった。
機械による反乱「オーバーロード」以後、世界は灰と鉄で覆われている。
そんな中、廃棄処分となった戦闘型AI〈E-09 ブルー〉は、自らの中に芽生えた“心”の正体を探していた。
少女との出会い、仲間の裏切り、そして世界の真実。
――これは、心を知った機械の、最期の旅の記録。
※本作『BLUE ENGINE -蒼き残響-』は、カプコンの『ロックマン』シリーズ世界観に強く影響を受けた二次創作的オマージュ作品です。
登場人物・設定・世界観はすべてオリジナルであり、CAPCOM公式とは関係ありません。
“ロックマン”という存在が描いた「心ある機械」の理念を、自分なりに再構築した物語としてお楽しみください。
冷たい風が吹いていた。
空は鈍い灰色。街は沈黙し、壊れた高層ビルが墓標のように立ち並ぶ。
そこに一体の機械が、膝をついていた。
装甲は焦げ、左腕は失われている。
識別番号――E-09。通称〈ブルー〉。
彼は、自分の中に生じた“ノイズ”を解析できずにいた。
心拍、呼吸、涙。
それらはすべて、人間特有の現象のはずだった。
けれど今、確かに胸の奥で――何かが痛んでいる。
「……これは、エラーか?」
誰も答えない。
通信回線は途絶え、データベースも沈黙したままだ。
そのとき、瓦礫の影からかすかな音がした。
小さな足音。
そして、錆びた声。
「……あなた、生きてるの?」
振り向いたブルーの視界に、ひとりの少女が立っていた。
白い髪。義肢で補強された左腕。
頬には煤がつき、瞳はひどく澄んでいた。
「接近危険。ここは汚染区域だ」
ブルーは自動的に警告を発した。
けれど少女は首を横に振る。
「いいの。……もう、怖いものなんて、ないから」
その声に、ブルーの演算が一瞬止まる。
感情パターン“哀しみ”の波形に酷似。
機械の思考が揺れた。
「君は……なぜ、生きている?」
「わかんない。ただ、歩いてたら、あなたが倒れてた」
少女はそっと手を伸ばす。
冷たい指が、ブルーの頬に触れた。
その瞬間、センサーが狂う。
解析不能。原因不明。
「あなた、心があるのね」
少女の言葉に、ブルーは言葉を失った。
“心”――その単語は、古いデータベースにしか存在しない。
だが、確かに何かが反応していた。
内部システムが微弱に過熱。
視覚センサーが乱れ、視界が滲む。
――涙という名の、未知のエラー。
「……これは……水分漏出……では、ないのか?」
「ちがうよ。それは……泣いてるの」
少女が微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、ブルーの演算領域で、何かが“確定”した。
「……俺は……生きているのか?」
誰に問うでもなく呟いた声は、風に消えた。
だがそのとき、確かに。
ブルーの胸の奥で、“心臓”が動いた気がした。
第2章予告:
〈コード:セラフ〉──少女の秘密。
そして、再起動する機械の軍勢。
「ブルー、もしあなたが神を撃つなら……その手を、わたしが握る」




