第8話 昼の実験室で作戦会議よ
姫夏が制服に着替え終わった後、俺達は同じ教室に向かった。その間に今後の事を話、教室には時間を変えて入った。
姫夏は男女共に人気者でその中には狂信的な奴も居る為の配慮だな。姫夏ラブの奴等に拷問部屋に連れてかれると、数時間は拘束されるから捕まりたくないんだよ。
そして、昼休みになった。そして、これからは俺の自由の時間だ。
昨日までは太一の為にと、愛花梨を誘って3人で昼飯を食べるのが日課になっていたが。それもあの2人が恋人同士になってくれたおかげでこれからは俺の有意義なベストオブ昼休みが始ま……
「お昼休みになつたわ! さぁ、作戦会議に行くわよ。秋崎! 付いてきなさい」
「ごあぁぁ?! 腕を引っ張るな。有栖川はぁぁ! せめて昼飯を優雅に食ってからにしてくれぇ」
お昼休み始まりのチャイムがなった瞬間。俺は有栖川に腕を捕まれ、そのままどこからへと連れてかれた。
正直、クラスの皆が見ている目の前ではくっ付けないでほしかった。あんま目立つのは苦手だからな。
「何だ? 何だ? またいつもの拷問か? ハヤテも懲りねえな」
「アイツ。容姿は良いのに、アイツの世話のせいで学園中の美少女達に嫌われてるだろう? 勿体ないな」
「まぁ、あんなに変態行動していれば嫌われるだろうよ。しかし、何でクラスのマドンナNo.2の有栖川と一緒に出てったんだ? アイツ等犬猿の中だろう?」
「さあな? また阿保な事でもやらかして有栖川の逆鱗に触れたんじゃないのか?」
「秋崎君。どうだろう? 久しぶりに食堂で一緒にお昼食べないかい?」
「お~と! 六花。宿敵の秋崎ならもういないよ~! 結女がどっかに連れてっちゃった」
「……何だって?」
「……………何で結女も六花もお昼休みになったのに僕の所に真っ先に来ないんだよ。可笑しくない?」
「太一君? どうしたの?」
クラスを出る際に色々なクラスメイト達の会話が廊下まで聴こえてきた。俺が有栖川に連行されるのは仕方ないことなんだぞ。
有栖川を失恋させてしまった責任を取る為に、有栖川の新しい恋人を探してやらないといけないんだよ。そうじゃないと何をされるか分からないからな。
「ふんふ、ふ~ん♪ フフフ。今日は楽しいお昼みデー」
「何だ? 糞って? トイレにでも行きたいのか有栖川あぁ?!」
痛い……有栖川に頭をグリグリされた。
「何がトイレよ。ただ上機嫌に鼻歌を歌ってただげじゃない。下品な事をくちばしたったら張り倒すわよ」
「既に手を出されてグリグリされているのだが。これはなんだ?」
「前座よ。メインデイッシュは結女ちゃんの往復ビンタになるわ。それが私がオーナーシェフの有栖川レストランよ!」
なんちゅう理不尽極まりないコースメニューだ。最悪のレストランじゃねえか。永久に星3つは絶対に取れない店だな。うん。有栖川レストラン。
「つうか。どこで作戦会議とやらをするんだよ? 昼休みなんて、どこもかしこも人だらけだぞ。それに有栖川は人気者で目立つし、俺と居たら変な噂が立つ」
「別に良いじゃない立ったって、私は平気よ。気にしないわ……むしろ歓迎かも。昨日と違ってね」
……何で顔を赤くしてんだ? 有栖川は。
「いや、それだと俺が困るんだよ。俺はこれからは自由気ままな高校生ライフにシフトしていく予定…」
「フンッ!」
「ごぼぁ?!……何で脳天チョップを?」
「アンタの高校生のこれからは私が決めるからよ。ほら。着いたわよ。私の秘密の教室……略した結女の部屋よ」
何だ? 理科室の扉前まで来て、理科室が自分の部屋だって言いたいのか? 阿保なのか?
……有栖川は自慢気にそう告げるとブレザーのポケットから鍵を取り出し、理科室の扉の鍵を開け俺と一緒に教室へと入った。そして、中入ると扉の鍵を閉め、今度は奥にある理科準備室と書かれた部屋の扉前まで行き、鍵を開けた。
「理科準備室?……ここに何かあるのか?」
「フフフ。それは見てからのお楽しみよ! 開きなさい扉! カラカラ~!」
「人力で開けてるじゃねえか……てっ! 理科準備室の中にテーブルとソファーがあるだと?」
「そうよ。私は生徒会。その生徒会特権でお昼休みはこの場所を自由自在に使えるの」
「な、なんだってぇ……てっただの職権乱用じゃねえか」
「バレなきゃ良いのよ。バレなきゃ……ほら。ソファーに座りなさいよ。お茶入れてあげるわね。秋崎~!」
ガチャッ!
有栖川は俺にソファーへと座らせると、理科準備室の内側の扉の鍵を閉め、理科準備室の棚に隠してあった湯沸かしポットに飲料可能と書かれた水道の水を入れて沸かし始めた。
つうかこの理科準備室。飲める水まで完備してんのかよ。棚には椀やお茶セットも隠して置いてあるし。どんだけこの場所をフル活用してるんだ? 有栖川の奴。
「そういえば。何で鍵閉めたんだ? これじゃあ2人きりの密室だよな?」
何だ? まさかまだ恨みを持っていて、ここで俺を亡き者に────
「するわけないでしょう。ほら! お茶入れ終わったから、隣に座らせなさいよ」
「お、おう。分かった」
なんて、変な勘繰るいをしていたら。おを入れ終わった有栖川がソファーに腰を下ろた。そして、何故か俺に密着する形でだ。
「ふぅ~! 9月もそろそろ終わるっていうのにまだまだ暑いわね~! ブレザーもリボン取っちゃおう」
有栖川は着ていたブレザーを脱ぎ。首に付けていた制服のリボンも取った。
「暑いか? 俺は結構涼しく感じるけどな」
「え? ほ、ほら私、結構な暑がりだから、体感温度の差ってやつよ。ね? 本当に暑いわ。今が一番……秋崎もそう思わない?」
………有栖川は赤面した顔で俺に何故か迫って来た。
「私、本当にどうちゃったのかしら? 本当に暑いわね。なんだか魔法にでもかかっているのかしら? 」
有栖川がボーッとして俺の背中に寄りかかって来た。
チラッと有栖川の方を向いた。たしかに顔が真っ赤赤になっている。
「大丈夫か? 保健室とかに行った方が良いんじゃないか?」
「う~ん。駄目よ。あそこは千夏の縄張りだもの。秋崎が行ったら、スタンガンでスパークされちゃうわよ」
「……それは嫌だな」
「でしょう? 秋崎。膝を貸しなさい。少し横になるわ」
「膝? なんで俺の膝に有栖川の頭を乗せてやらないといけな……」
「良いの? 叫ぶわよ。そうしたら秋崎にエッチな事をさせられたって、校内放送で言っちゃうかもしれないわよ」
コ、コイツ。生徒会だからって権力わ振りかざしやがって~!
「……今だけだからな」
「フフフ。ありがとう~」
有栖川は俺の膝の上に頭を静に乗せた。小っちゃくて本当に小顔だな。それに可愛いし胸も大きい。流石このゲーム世界のNo.1ヒロインに選ばれる事はある。
「ねえ? 今、私の事で凄く失礼な事を考えていない?」
「いや。一切そんな邪な考えはしていない」
俺は即答で答えた。制裁されたくないからな。
「嘘臭いわね~! 全くもう……」
────なんだか有栖川の様子が本当に可笑しい。昨日まで俺をあれだけ嫌っていた筈が、ただ謝っただけでここまで態度を軟化させるものなのか?
それに有栖川のこの態度は太一に向けていた感情だ。そして、ここは恋愛ゲー〖私を好きなだけ追い詰めてダーリン。余所見はNoneNone〗の世界。
攻略対象がメインヒロインと結ばれた事で、負けヒロイン達の行動が変になっているのか?
太一の事を気にしなくてよくなり。ハッピーエンド後のこの世界で大人しく生活し、あの娘を振り向かせようと思っていたが。なんだか雲行きが怪しくなってきたな。
「………秋崎…私ね……頭撫でてほ……ほギャああ?!」
目は虚ろでハァハァと吐息を漏らしている。甘えた声を出した有栖川を正気にさせる為に脳天チョップを軽く喰らわせた。
「な、な、何するのよ! 秋崎。また私の妨害をする気なの?」
「何の妨害だよ。アホ……いいか良く聞けよ。有栖川。明らかにお前の今の行動は変だった。自分で気づいていなかったのか?」
「へ、変って……私はただ単にアンタとキス?……いえ、一緒に昼ご飯を食べたかったのに何でこんな事をしているのかしら?」
戸惑っているな。自分の変化に気づいていなかったのか?
「……済まん。有栖川は色々と調べさせてもらうぞ」
「へ? な、何? あ、秋崎。何で私の身体をアンタの膝の上に乗せるのよ~!」
さっき思い出したのだが、有栖川の今の甘えてきた行動は、ゲーム内の終盤となる主人公が高校3年目の時に起きる理科準備室監禁イベントだ。
性欲が強い有栖川は主人公を誘惑し監禁。その後、2人きりになると、普段は見せない表情で甘えて来て限定版では……いや。これ以上はネタバレになるので言えないな。
「有栖川……」
「な、何よ? 秋崎。もしかして私に何かするつもりなの? 私を膝に座らせて腰まで拘束するなんてハレンチね」
「……とりあえず。昼飯食おうぜ。腹減ったした」
「へ?……昼ご飯? えっと、そ、そうね。お昼休みの時間も勿体しないし。早くご飯を食べちゃいましょうか……(あれ? 私、何で秋崎にこんな事をしていたのかしら?)」
どうやら有栖川は正気を取り戻したみたいだな。彼女のさっきまでの虚ろな表情、なんかの催眠術にでもかかっていた様に見えたな。
まぁ、この世界は俺が転生するような恋愛ゲームの世界だし、何が起こっても可笑しくないか。
◇
「あれ〜? 六花ちゃんにはハヤテちゃんを最後まで襲っちゃえって、命じてあげたんだけど。洗脳の効力消えちゃったのかな?……じゃあ、今度は放課後だね。ちゃんとやり返してあげるからね。ハヤテちゃん。ニシシ」




