第7話 保健室でごめんなさい
《星蘭高校 保健室》
意識を失った姫夏を保健室へと運んで来た。庭園から近い場所だったので、他の生徒には運んでいる所を見られていないと思って思っていたんだが……
「……また女を保健室に連れ込んでんの? 秋崎の分際で調子に乗ってるとは……成敗」
「南雲?! お前。いつからそこに? や、止めろ! スタンガンを俺に向けるな! ギャアアア!」
「ふん! 諸悪の根源成敗したり……バイバイ。結女っち、ではでは教室で」
南雲の奴にはバッチリ見られていたようで、スタンガンの超電流を喰らわされた。これも南雲の恋路を邪魔してしまった末路だ。素直に受け入れよう。
「……何してんのよ。アンタ等は、全くもう」
〖ピンポンパンポ~ン 有栖川結女さん。有栖川結女さん。至急、生徒会室へと来て下さい。瀬世羅生徒会長がお呼びです。繰り返します。有栖川結女さん。有栖川結女さん。至急、生徒会室へと来て下さい。瀬世羅生徒会長がお呼びです……ピンポンパンポ~ン〗
「あ! そうだったわ。今朝は生徒会にプリントを貰いに行くんだった……秋崎~! 私、生徒会室に行っちゃうから。六花の事、お願いできる? 六花の荷物と制服は持ってきてるから、起きたらここで着替えるように伝えてくれないかしら?」
「……おう。任せといてくれ。どうせ朝のホールルームまで時間あるからな」
「そう。ありがとう……じゃあ、教室でね。お昼休みは私の新しい恋人探しの件で作戦会議だから、忘れちゃダメよ。良いわね!」
有栖川の語尾の口調が何故か強い。まぁ、失恋させた原因は俺なのだから、ハイとしか言いようがないよな。
「了解だ。有栖川、全て俺に任せておけ」
「……不安しかないんだけど。(まぁ、スタンガンを喰らって身動き取れないだろうし、秋崎が六花を襲う事もできなさそうだから、きっと大丈夫よね)……後、よろしくね」
有栖川はそう言って、保健室から出ていった。
……おのれ南雲め。会う度に俺にスタンガンを喰らわせやがって、おかげで身動きが取れず。床に這いつくばっている状態だ。
「……秋崎君は何で私のおっぱいを……」
「姫夏の奴は何の夢を見てんだが」
姫夏六花。ボーイッシュクールビューティー、〖私を好きなだけ追い詰めてダーリン。余所見はNoneNone〗でも超人気キャラの1人だ。
スタイル抜群で運動神経が良く、普段は高校1年生ながら、テニス部の次期エース。オマケに勉強もでき、面倒見も良いときたら。男女問わずモテるというもの。
そして、姫夏も例に漏れず、太一にぞっこんだった。昨日まで、あの豊満なスタイルで太一に迫っていたんだよな。俺に対しては汚物を見る様な目で見ていたな。
「……ん?……あれ?………私……たしか、秋崎君に襲われて………ここ保健室?」
おっと! どうやら姫夏が起きたみたいだな。つうかこのシチュエーション、有栖川の時と似ていて、なんだか不味い気がするが、とりあえず、さっき姫夏を勢いのままに抱き締めた事を謝らないといけないな。
「起きたか。姫夏~! 良かった良かった。これなら朝のホールルームに間に合……うぐぅ?!……何でダンベルを俺の背中に乗せるんだ?」
「おはよう。秋崎君、さっきはよくも私に襲いかかってくれたね。あぁ、それとこのダンベルかい? これは私がこの間、保健室に置き忘れてしまってね。先生に頼んで置いといてもらったんだ。今は君の身動きを封じる為の要石になっているけどね」
凄い嬉しそうな声だった。嬉しそうな声で俺にあらゆる意味での復讐できる機会が来たと、喜んでいる声だった。
「こ、このダンベル。姫夏のだったのかよ。そ、それとどんだけ載せる気だ? 積載量オーバーだぞ」
「ん~? それだけ。私の恨みは重いって事なんじゃないかな? お邪魔虫さんっとプラスアルファで、私《幼馴染み》にいきなり抱き付く変態さんだもんね。ハー君は」
「……おい。姫夏……昔の呼び方に戻ってるぞ。高校じゃあ、嫌いな俺の事は秋崎って呼ぶんだろう?」
「うっ……そんなの分かってるよ……身動きが取れないくせに、細かい事を気にしないでくれるかな? 秋崎君。じゃないと載せるダンベルの量増やしちゃうよ」
「ぐおぉお! 増えてる! もうとっくに載せて増えてるじゃねえか! 六花!!」
「むむ! 呼び方を昔に戻さないでよ。秋崎君~」
そう。俺と六花は実は幼馴染みだ。小さい頃はは愛花梨と3人で遊んでいたものだな。
そして、俺をいじめる姫夏はどこか嬉しそうなのは何なんだ?
「ふぅ~! 秋崎君に対しての積年の恨みも済んだ事だし、制服に着替えて教室に行かないとね。結女の事だから、私と一緒に制服と荷物も……あぁ、あったね。秋崎君。私は今から着替えるから、そのままの状態で床と見つめ合っているんだよ」
「……あぁ、姫夏が載せてくれたダンベルで身動き1つ取れないから安心してくれ」
「フフフ。それは良かったよ……制服の上に紙切れ?……結女から?……」
〖秋崎を許してあげて、愛花梨から昨日聞いたけど、太一の本命は愛花梨で、秋崎はそれを全力で応援してくれいただけなんだって。多分だけどそのせいで私達の妨害してたんだと思うの……アイツ。私に邪魔してた事を素直に謝ってくれたし、悪い奴ではないか……ね? お願い。六花、秋崎を許してあげてね〗
「………結女。そんなの分かってば。これは単なる私から秋崎君への罰ゲームだよ」
……また嬉しそうだ。そんなに俺に仕返しできて嬉しいんだろか?
「………やっぱり色々怒ってるよな。本当に済まん、姫夏」
「うんうん。今、凄く怒ってるかな。だからハー君はちゃんと反省しないと駄目なんだよ。フフフ」
「ハー君ってまた……」
なんか庭園に居た時より。俺への態度が軟化したか? 良かった少し安心した。そして、姫夏の体操着を脱ぐ音が至近距離で聞こえて来てドキドキするな。
「そういえば。私が話し掛ける前に聴こえて来たんだけど。結女に新しい恋人候補を探してあげるんだって?」
「ん? あぁ、俺のせいで失恋する事になったんだから、責任取れって言われたな」
「……ふ~ん。なら私への責任も取ってもらおうかな?」
「は?……何でだよ。姫夏なんてモテるんだから今日にでも誰かに告白されて、恋人なんてできるだろう」
「それもそうじゃないんだな~、部活とか家の事とかで私は忙しい身でね。だからサポーターが必要なのさ」
「サポーターって……誰だよ」
「それは勿論、私の幼馴染みであり、さっきまで怨敵認定していたハー君に決まってるよね?」
「……何だと?」
……姫夏の奴。何を理不尽な事を言い始めてんだ? このままじゃあ、有栖川に続いて姫夏にまで新しい恋人探しを手伝わされる羽目になる。阻止しなくては。
「……もしくはだけど。秋崎君が……」
「それは無理だ。姫夏! 俺は猛獣《有栖川》だけで手一杯……姫夏の下着?」
俺は万力の力を振り絞り。背中に積載されていたダンベルを退けて、立ち上がった。そして、その立ち上がった後に見た光景は……姫夏の下着姿だった……黒色とは攻めてるな。六花は。
「な……な……な……な……」
顔全体を真っ赤赤にしている姫夏。昔から案外恥ずかしいがりやなんだよな。
「あ! 済まん。六花……そのなんだ。昔より成長したな。色々と」
「……この! 何をまじまじと見ているのかな? ハーくーん!!」
バチンッ!
「ギャアアア!! 悪かった! 姫夏! 済まん!!」
……こうして、俺は姫夏六花に制裁されつつも、失恋の件は許してもらえたのだった。彼女に新しい恋人を見つけてやる事を条件にして。