第4話 バスの中での緩衝材
有栖川の謎の新恋人探し宣言の後、バスに乗った。丁度、空いている時間だった為、一番後部座席も空いており。丁度4人座れるみたいだ。そして、太一の奴が……
「あ! 丁度、後ろの席空いているし、4人で座ろうか」
と言い出し、後部座席の一番左側に座り。
「うん、じゃあ。私は太一の隣~!」
次にその恋人である愛花梨が、嬉しそうに太一の隣に座った。
ここまでは良かった。昨日、ラブラブカップルになり、ハッピーエンドのこの先に居る2人。
そんなラブラブな2人の次に座る羽目になったのは、バットエンドと言うステージへと落ちた有栖川だったのだ。
「愛花梨。今日も可愛いね」
「太一君こそ、カッコ良いよ~!」
有栖川の長至近距離で自分達の世界に入り、ラブラブする太一《主人公》とハッピーエンドを迎えた愛花梨。
お互いの片手はお互いの膝に置き合い、もう一方の片手を絡めながら掴んでいる。
うん。俺にとっては素晴らしい至福の光景だが、有栖川がこの光景を見て平気なんだろうか?
俺は恐る恐る有栖川の顔を後から覗き込んで見た。
「……………(くわっ!)」
────何も言葉を発してしなかった。瞳孔だけが大きく開き、せっかくの可愛い顔が般若の様になりかけていた。
こ、これは不味い。バス亭の時とは違い、ここはもうバスの中だ。変に暴れられて他の乗客に迷惑をかけるわけにはいかない。
「ほら、何、突っ立てんだ。有栖川、お前は一番右の窓側の席に座れって、そんで俺が愛花梨とお前の間に座ってやるから。気持ちを抑えろよ」
「ちょ、ちょっと! 何? べ、別に私は何もしようとしてないわよ。秋崎!」
「嘘つけ! あの光景を見て、暴れる寸前だったろうが」
「ばっ! そんな事するわけないでしょう。馬鹿!」
俺は有栖川の両肩に手を置いて、前へと進ませた。そして、無理矢理、右の窓側へと有栖川を収納し、俺も席に着いた。
これで並び順は左から、太一、愛花梨、俺、有栖川となったわけだが……俺、この3人の緩衝材って事になるんだよな?
まぁ、左側の光景を見て、有栖川が嫌な気持ちになるのも嫌だし。まぁ、良いか、自分で決めた行動だしな。
「愛花梨……」
「太一君……」
そんな左側では、朝なのに濃厚なラブロマンスが繰り広げられている……そういえば、コイツ等、ハッピーエンドを迎えた次の瞬間にはキスして濃厚な糸も絡めてたんだよな。
……恋人としての仲を深めるの早すぎだろう。
そんな光景を見たくないんだろうな。有栖川は左側を一切見ようとせず、バスの車窓から見える外の景色をボーッと眺めている。
これが恋愛ゲー〖私を好きなだけ追い詰めてダーリン。余所見はNoneNone〗のハッピーエンド後の世界か……何か前世の失恋していたクラスメイトわ見ている様で刹那い気分になるな。
いや、この世界はリアルなんだから、主人公《太一》がヒロインの誰がと結ばれれば、負けたヒロインも出でくるのは至極当然の結果か。
………俺、ただ親友の主人公《太一》が本当に好きな娘《愛花梨》と結ばれれば良いやと思って、全力で応援したり手伝いとかしてたけど。その後に起こる事なんて何一つ考慮してなかったな。
これは反省しなくてはいけないな。そして、俺ができる事と言えば────
「負けヒロイン達のメンタルをして、新しい恋人候補を探してやるから事だな。有栖川にもお願いされた……じぃ?!」
「さっきから小言で何をブツブツ言ってるのよ。それに誰が負けヒロインよ。誰が!」
「バリヅガワやベロ」
有栖川の奴。右手で俺の頬をぐりぐりと押し付けて来やがる。さっきまでの殺意を、この俺への攻撃で晴らす気満々じゃねえか。
「………止めてほしかったら、訂正しなさい。何が負けヒロインよ。全くもう、全くもうよ! あっ! バス停で飲み物買うの忘れちゃったわ」
有栖川はもう飽きたわ。見たいな顔で俺に押し付けていた右手をいきなり離した。どうやら俺の苦しんでいる姿を見て、溜飲が下がったみたいだ。
「飲み物? それなら買っといてやったぞ。いつもは手に持ってるから買い忘れたんじゃないかと思ってな。ほれ、有栖川の大好きなホットココア」
俺は鞄からさっきバスに乗る前に買った小さいペットボトルに入ったホットココアを取り出し、
水滴が有栖川の制服に零れないようにとハンカチで底を覆って渡した。
「へ?……嘘? 私の為に買っといてくれたの? しかも私の好きな飲み物じゃない」
「あぁ、俺に死角はない。サポートの鬼、秋崎疾風だからな。ハハハ!」
「何で自慢気に言うのよ……でもありがとう。嬉しいわ」
そんなの当たり前だ。俺は前世で〖私を好きなだけ追い詰めてダーリン。余所見はNoneNone〗を達成率100%までやり、数十回やり込んだ程のファン。
なんなら特別限定で販売されたR18版もお値段は高かったが購入し、それもフルコンプした。各ヒロインのスリーサイズや、蒙古斑の正確な位置まで完璧に覚ている。とくに有栖川の蒙古斑は変な位置に付いていたのを良く覚えて……
「…………何で私の蒙古斑の位置なんて知ってるのよ。秋崎」
「は? ま、また、俺は有栖川に聞こえる声で言葉を発して……」
「この変態!!」
「うぉ?! や、止めろ。有栖川ペットボトルは振り回したら凶器にもなるんだぞ。どこかの木の下さんみたいになりたいのか?」
あ、有栖川の奴。いつもの調子で俺に物理的攻撃を噛まし……
ペチッ!
「………あれ? 生暖かい?」
「フフフ、冗談よ……ホットココアありがとう。秋崎……学校着くまで、私の恋人探し作戦の話し合いしましょう。ほらもっと私の近くに寄りなさいよ」
「あ、あ、分かった……有栖川」
有栖川は嬉しそうに俺を自分の身体へと引き寄せると、学校に着くまでの間。俺と終始楽しそうに今後の作戦について話し合っていた。