第3話 新しい恋を一緒に探すわよ!
朝、それは新たな人生の1ページ。素晴らしき日々の序章だ。そんな素晴らしい1日の始まりの時間。俺は自宅の洗面所で身支度を整えていた。
「……相変わらず。サラサラした綺麗な黒髪、無駄に整い過ぎている顔、恋愛ゲームの親友ポジションはだいたいそんなキャラばっかりだけど。まさか自分がそのキャラに転生するとは思わないよな」
まぁ、こんな顔でもこの世界では、主人公を輝かせる為の舞台装置、モブキャラだ。
だがそれが良い。俺は生前から主人公《太一》に感情移入するくらい気に入っている。そして、この世界では本当に親友だしな。
俺は主人公と結ばれたヒロインの幸せなイチャイチャが目の前で繰り広げられるのを見れれば、満足だ。その為に太一の本命である愛花梨とくっ付いてもらったんだ。
ピンポーン~!
「は~い!………ちょっと! ハヤテ~! 愛花梨ちゃんが迎えに来てくれてるわよ~!」
そんな考えにふけっていると、玄関の方から母さんの声が聴こえて来た。
「あいよ~! 今、行く~!」
太一の彼女となった愛花梨と俺は幼馴染みだ。てっきり太一と付き合い始めて、今まで行っていた一緒に登校は止めたかと勝手思い込んでいたが違った様だ。
身支度を整え終えた俺は急ぎ足で玄関へと向かう。
「愛花梨~! 済まん。待たせちゃったみたいだな」
「おはよう。ハヤテ君~! 学校一緒に行こう」
椎名愛花梨。赤髪、愛らしい顔立ち、貧乳、ムッツリ、美尻、性格は天真爛漫の属性もりもりの女の子、恋愛ゲー〖私を好きなだけ追い詰めてダーリン。余所見はNoneNone〗のパッケージを飾るメインヒロインキャラだ。
俺に殺意あるのしかかり、物理的ダメージを与えた、やかましい有栖川とは違う、超正統派ヒロインだ。
「おう。悪いな。愛花梨……てっきり、これからは太一と2人っきりで朝は登校するのかと思ってたけど、違うんだな」
「う、うん……そ、その……太一がね、まだ私と2人っきりで登校するのは、まだ恥ずかしいんだって、だから。私と太一の橋渡しになってくれたハヤテ君と3人で登校しよって事になったんだぁ」
「あ~、成る程成る程。たしかに太一の奴は恥ずかしがりやだからな」
俺と愛花梨が幼馴染み。太一とは中学校から親友になったんだったな。
そして、太一が愛花梨に初めてあった瞬間一目惚れ、そして、愛花梨も太一に一目惚れしてなんやかんやで、やっと付き合う様になったんだよな。そのなんやかんやで俺はこの2人がくっ付く様に手厚いサポートをしてやったっけ。
「……うん。そうなんだ。だからもう少しだけ私と太一の恋のキューピット役お願いできないかな? ハヤテ君。ね?」
愛花梨は両手を合わせるとうるうるした目で俺に頼んで来た。ウオオオォォ!! この世界のメインヒロインにお願いされているだと?! こんなの断れるわけないだろう!!
「お、おう! 任せてくれ。愛花梨! 今後も俺は愛花梨と太一の仲がスムーズにいくようにサポートしてやるぜえぇ!」
「やったー! ありがとう。ハヤテ君! 流石、私の大切な親友だね!」
そう。俺と愛花梨は幼馴染みの親友だ。小さい頃からお互い一緒に居すぎて、恋愛感情皆無の親友同士だ。
「おうよ。頼りになる親友だろう……そんじゃあ。太一とさっさと合流して、早速、仲を深めてもらいましょうかね。ウヒヒ!」
朝からこの世界の主人公とメインヒロインのイチャイチャを超至近距離から堪能できるとは……努力したかいがあったな。俺よ。
◇
愛花梨と共に自宅を出て、学校へと向かう道を10分程一緒に歩いていると。太一との待ち合わせ場所のバス停が見えて来た。
そして、眠そうな顔の太一と……その隣には太一と幼馴染みで不機嫌そうな有栖川が立っており、俺と愛花梨───いや、俺だけをロックオンして睨み付けていた。
「あ~! そういえば。太一と有栖川って幼馴染みだったんだよな。学校じゃあ隠してるみたいだけど」
俺は有栖川の事をボーッと眺めていた。いつも通り可愛いな。有栖川の奴……ほんの一瞬だけ、有栖川と目が合う俺。そのタイミングで有栖川が俺達の方へと走り出す。なんかメチャメチャ切れてないか?
「あっ! 結女ちゃん~! 太一く~ん♡。おはよう~!」
そして、大好きな太一に向かって走り出し始める。そりゃあ、ルンルン笑顔で流石、この世界のメインヒロインだ。
そんな正反対の表情を浮かべる2人が行き違い……
「お、おはよう! 愛花梨」
「うん! おはよう、太一君。今日も会えて嬉しいよ」
太一と愛花梨はイチャイチャし始め。
「フシャアア!! 何で朝からイチャイチャを見せ付けられないといけないのよ! 喰らいなさい!」
「うおぉ! あぶねええぇ!……純白か」
有栖川は俺に回し蹴りを仕掛けて来たが、俺は華麗に躱し。回し蹴りによってスカートの中身が見えたオープンになった有栖川のあれを見てしまった。
「ちょっ! まじまじと見てるんじゃないわよ。ビンタするわよ!」
「出会って早々回し蹴り決めようとする奴に言われたくない台詞だな。ほら、鞄落ちたぞ」
「……ありがとう。それと見たことは後で報復するから覚えてなさいよ。変態秋崎」
「……自分から見せて来たんだろうが」
「見せてないわよ!」
この興奮した有栖川の状態からして……家がお隣同士の太一に恋人ができたから、今までみたいに気軽に付きまとって登校するのは不味いわね。
だから時間をずらして登校しようとしたけど、家を出たらバッタリ鉢合わせ。そのままバス停まで当たり障りのない会話をしながら学校まで行こうとしたら。秋崎と愛花梨がやって来ちゃったじゃない。
太一は嬉しいそうに愛花梨に手を振ってるし、愛花梨は笑顔でやって来る……秋崎はアホの顔で私を見てきてムカつくわ。だから蹴りでも喰らわせてあげようかしら────
「とか思いながら俺の方にやって来たろう? 有栖川」
「………思ってないわよ」
「なんだその間は……そんなに目の前で繰り広げられている。見たくない光景を遮断したいなら、1本早いバスで学校に行けば良かったんじゃないか?」
「行こうと思っても朝の習慣からはなかなか抜け出せないのよ。太一とは小学生の頃から一緒に登校してたのに……昨日までそれが幸せだったのに……今日の朝から地獄の日々よ。アンタの数々の妨害のせいでね!」
……有栖川の奴、何でも俺のせいにしようとしてないか? 太一の奴は本心で好きな人を選んだんだぞ。そして、頑張って頑張って愛花梨にアプローチして、やっとの思い出両想いになったんだ。
前世のゲームでも主人公《太一》は頑張っていた。この世界でもだ。俺はそれを一番近くで見て手伝ってもやったんだ。
ハッピーエンドを迎えた太一達には不幸になってほしくない。
「……有栖川。分かってるとは思うが、嫉妬に駆られて変な事は……ごぼぉ?!」
右フックの脇腹パンチ。
「しないわよそんなの。愛花梨は私の一番の親友なのよ。何で親友が悲しむ事をしなくちゃいけないのよ」
「……そうか。それを聞いて安心したわ」
有栖川は俺の様に敵と認識した奴には暴力的だが、他者には大天使の如く優しい。
「それで? 分かってるんでしょうね?」
「何……が……いや、冗談だ。ちゃんと分かってる。分かってるてばよう」
コイツ、一瞬で右手で握り拳を作って俺に殴りかかろうとしてるぞ。どんだけ暴力パーリナイだよ。
「そう。分かってるなら作戦を言いなさい。参謀君」
「お、おう。参謀君?………朝、学校に着いたら、新たな有栖川の恋人候補を俺と2人きり探し、昼休みは俺と一緒にご飯を食べなから恋人候補を選び、放課後はファミレスで俺と一緒に有栖川の今後の恋愛について話し合うだったよな?」
「よろしい。完璧よ……あのイチャイチャ地獄も登校までの辛抱よ。探すわよ! 私の新しい好きな人。良いわね! 秋崎~! エイッエイッオーッよ! 秋崎も、ほら!」
「お、おう。エイッエイッオーッ!……そういえば。何で俺、これからの学校生活の殆どを有栖川と過ごす事になってんだろうか……まぁ、良いか暇だし」