第21話 履かせてよ
《星蘭街 バス停》
『ご乗車ありがとうございます。星蘭街。星蘭街にございます。お降りの際は……』
コンビニで有栖川に履かせるパンツを買ってやったが。
愛花梨から教えられたノーパン健康法を1ミリ疑わず実践するのに固執し、パンツを履いてくれなかった。
「本当に学校に着くまでの間……バスに乗車している間に。有栖川にパンツを履かせれば。外でのノーパン健康法は止めるんだな?」
「ええ。約束するわ。でも秋崎が私にパンツを履かせる事なんてできるのかしら? 女の子に本当は凄く優しい秋崎に……ふわぁ?!」
有栖川はバスの乗車口の階段を昇っている時に、ふらついてしまい、俺が居る後ろ側へと倒れ込んで来た。
俺は有栖川が落ちない様に有栖川のお尻を両手でキャッチし支えてやった。プニュっと何か暖かい有栖川の感触を感じたが。履いてないから当たり前か。
「大丈夫か? 有栖川。気をつけろよ。バスのエンジンの振動で、いきなり体勢なんて変えたら転ぶぞ。よっこいせと」
俺は有栖川のお尻を持ち上げて、ちゃんと立てる様に支えてやった。
「ふにゃあ?! そこ……触っちゃ駄目///」
「何を恥ずかしいがってんだよ。ノーパンのくせに」
「い、いや……違うのよ。これは感じ……ふにゃあ?!……あ、秋崎。早く座りましょう……席は前と同じ1番後ろの左側の席よ。くふぅ……少し触られただけでこんな……」
何だ。いきなり? 何かハァーハァー興奮し始めてないか? 有栖川の奴。大丈夫か?
「有栖川。苦しいなら肩支えてやるぞ。ほら……」
俺はよちよち歩きの有栖川の肩に手を起き、1番後ろの座席ヘと歩かせてやった。
「……ひぅ。擦れて気持……いかも。これ……凄いわ」
「気持ち?…何か言ったか? 有栖川」
「い。言え。持ち直したから大丈夫……席に座りましょう。秋崎」
何を持ち直したのかさっぱり分からないが、有栖川の体調が良くなったならいいか。
俺は有栖川に言われるがままに、前回と同じ最後尾の左側の座席へと有栖川と共に座った……そういえば。この席って結構死角だよな。
1番後ろだから後方に気を遣わなくて良いし。朝早いせいか。わざわざ後ろの座席まで来る人はいないから、俺達の前の席に座る人も多分居ないだろ。
バスの運転手からも見えずらいとは……何かのあったら大変だなこりゃあ。
「コホンッ!……それじゃあ秋崎、下着履かせ勝負開始よ。私に下着を着せる事があんたにできるのかしらね? ニャフフ」
……こいつ。俺の趣味がエロ動画鑑賞で、自分と同類と認識してから、俺へのガードがマジで緩くなったよな。今も俺へと身体を密着させながら、スカートをヒラヒラさせてるし。
俺に対する恥じらいというやつが緩みに緩み切ってやがる。
「ほらほら。秋崎~! 難攻不落の結女様にちゃんと下着を着せられるのかしら?」
これが、さっきまでハァーハァー言ってた奴の台詞だろうか? 何で元気を取り戻してんだよ。情緒不安定かよ。
「……なら、履いてるローファーを大人しく脱いでくれ。優しくパンツを履かせてやるからさ」
赤の他人が聞いたら。間違いなく俺は変態扱いされるだろう。だがバス内はまだ俺、有栖川、運転手さんのみ。
そろそろバスも出発を始める。そうすればバスはエンジンの振動で揺れ始め、有栖川にパンツを履かせる難易度が跳ね上がる。
その前に勝負を決めなければいけないぞ。俺よ!
「ニャフフ……分かったわ。じゃあ、大人しくローファーを脱いで」
有栖川はローファーを素早く脱ぐと俺の方へと脚を向け俺の膝の上に乗せてきた。
「……何をしてんだ? 有栖川。これじゃあパンツが履かせにくいだろうが」
「難易度調整よ。それと、もしも星蘭高校に着くまでに私にパンツを履かせられなかったら。今日のお昼と放課後は私と一緒に過ごしてもらうわよ。新しい恋人を探さなくちゃいけないもの」
舌をペロッと出しながら小悪魔っぽく、そんなな事を有栖川は言ってくる。
……不味いな。本当ならローファーを脱いだ瞬間に片足にパンツを突っ込んで、そのまま山頂まで一気に踏破しようと思っていたのにこんな対策をされるとは思わなかった。
つうか。スカートの中が丸見えなんだから、少しは手で抑えてほしいんだよな。
しかし、俺への恥じらう遠慮を捨てた有栖川が、こんなに手強くなるとは思いもしなかったぜ。
「どう? これが対秋崎への完璧な防御よ。これで私のノーパン健康法は続けられる事になっちゃうけど良いのかしら? 秋崎」
こいつ。自分が優位だと思って調子に乗り始めたぞ。こうなった有栖川は油断しまくってくれるからありがたいんだが……スカートの中身が俺の方からは本当に丸見えで見えてんだよな。それを当の本人は全然気がついてないし。こいつはやはり天然か?
つうか有栖川は結構濃いのな。いやいや俺は何を考えているんだ? 今はこの痴女にパンツを履かせないといけないんだぞ……仕方ないここは心理作戦といくか。
「……有栖川。俺はお前が心配なんだぞ」
「え?……秋崎が私の事を心配? どういう事?」
良し。俺の話に喰い付いたな。この隙に俺はコンビニで買った下着袋からパンツを取り出す。
「愛花梨にノーパン健康法なんてものを仕込まれて、アホの娘の有栖川が心配なんだ」
「秋崎が、アホの娘の私を心配してくれてるの?」
よしよし。いいぞ、取り出したパンツを広げて、有栖川の左足と右足に引っ掻けた。そのまま少しずつ有栖川の太ももの方へと移動させていく。
「あぁ、心配だ。もしも有栖川がこのままノーパン健康法を続けて、他の男子生徒に有栖川のスカートの中を見られると思うと気が気じゃないんだよ」
「そ、そうなの? う、うぅぅ! じゃ、じゃあ。秋崎がそんなに私の事を心配してくれているなら止めようかしら。そ、そうよね。やっぱり変よね。外でノーパンなんて、私間違っていたは。秋崎に言われた通りこのまま大人しくパンツを履く……む?」
パンツを太ももまでゆっくりとバレない様に履かせるまでは良かった。有栖川が話の途中で自分の太ももの違和感に気づくまでは。
「……ち! あともう少しで履かせられたのに、何気づいてくれてんだ。有栖川」
「な、な、何を悪態ついてるのよ。この卑怯な秋崎! は、嵌めたわね? 言葉巧みに私の意識をあんたに集中させてる間に、私に下着を履かせ様と企んでくれたわね? 秋崎!」
有栖川は、パンツを太ももに引っ掻けたまま脚をバタバタとし始めた。ま、不味いぞ。このままじゃあ。抵抗されてパンツを太ももから外されちまう。
「ま、待て! 有栖川。落ち着け! 学校に行ってノーパン健康法なんて、アホの娘がやることだぞ。お前はアホの娘か? 違うよな? 痴女だろう? 落ち着け!」
「だ、誰が痴女よ。それに私の親友の愛花梨を、アホの娘呼ばわりするなんて許さないわよ。秋崎なんて、こうしてくれるんだから!」
コイツ。俺に抱き付いて、身動きを取れなくしやがった。このまま脚をくねらせながら、俺が履かせたパンツを脱ぐ気だな。
「そうはいくか。この!」
「む! 何よ! 私に抵抗する気なの? 秋崎~!」
お互いに素早く動き始めた瞬間。それは始まった。
『それでは時間になりましたのでバスが出発します。次は空身町。空身町でございます』
バスの運転手さんの放送音と共に出発し。突然、バスが上下左右とバスが揺れた。
「おっと! 危ないぞ。有栖川……」
俺は、今の有栖川の変な体勢では、怪我をするかもしれないと思い、有栖川のパンツをおもいっきり持ち上げて履かせようとした。
「あ、ありがとう。秋崎……あんたって、やっぱり私の事を大切に守ってくれるわよね。いつで……もぉ?!」
「痛てて! 済まん。有栖川、お前に倒れ込む様になっちゃって。怪我はないか?」
俺は気づくと有栖川の豊満な胸に顔を埋めていた。そして、有栖川はどこも怪我をしていないな、良かった。
良し。パンツを履かせる事には成功したようだ………何だ? この右手の指先の感触は? 有栖川の太ももの間か?
バスが揺れた振動と、勢いに任せて有栖川にパンツを履かせたから、太ももに手が引っ掛かってんのか? それにしては汗ばんでいる様な気がするんだが。
「ひにゅ!……ば、馬鹿ぁ……そんなに動かしちゃ駄目……」
『出発します』
そんな思考を巡らせている間にバスは次の目的へと出発した。
「うぉ! 今日は結構バスが揺れるな……済まん。有栖川、今退くからな。密着して悪かった」
俺は右手の指先の変な感触も気になっていた為、有栖川から離れようとしたんだが。
「い、今。は、はぁ、離れちゃ駄目よ。今は駄目なんだから。バスのし、振動のせいでいぐ……」
「行く? ああ、バスなら次の目的に出発したぞ。本当に身体を密着させて悪かったな。今離れる」
しかし、右手の指先のこの感触。生暖かくてねっとりしてるのは何なんだ?
「だ、だから今は駄目なの! ぬ、いちゃ……あぁぁだ…めぇ…」
「ん? 別にバスは1番左側車線だから、他の車は抜けないだろう。変な有栖川だな。よっと」
ガタンッ!っとまたバスが軽く揺れたと同時に、俺は有栖川から離れてやった。
「ニャ、ニャ、ニャ」
「ニャニャ? 猫か?」
「フニャアァァ!! もうだめぇぇ……いぃぃ……ぢぁ…………ニャあぁぁ……」
「有栖川? 有栖川どうした? お~い! 有栖川……くんくん……この右手の匂いまさか……お~い! 有栖川大丈夫か? 本当に色々と済まん」
「絶対にゆるしゃにゃい……(ガクッ)」
なぜか有栖川は寝落ちし、星蘭高校に着くまで起きなかった。




