第2話 失恋した責任を取れと?
ハッピーエンドを迎えた幸せいっぱいのバカップルとなった2人に気づかれる前に、不動明王の様に立ち尽くしながら気絶した有栖川をおんぶし、校舎裏を後にした俺は保健室に有栖川を連れて来た。
保険医の先生に許可を取り、気絶して泡を吹いている有栖川をベッドの上に寝かせた。
《放課後 保健室》
「ん………私の太一が寝取られてるわ。私の太一を返しなさいよ。泥棒猫。フシャアア!!」
「どんな夢を見てるんだ? 有栖川の奴……しかし、普段は元気溌剌の狂暴猫みたいな奴だけど。眠ってると本当に可愛いな……いやいや。ないない。有栖川はないわ。俺にはあの娘が居るしな」
有栖川 結女。恋愛ゲー〖私を好きなだけ追い詰めてダーリン。余所見はNoneNone〗のサブヒロインにして、作中人気投票では何度も1位に選ばれる人気キャラ。
たしか前世でのは、有栖川関連のグッズが販売されると即日完売。有栖川があまりに人気過ぎてファン達から大天使アリスガワユメ様とか崇拝までされる様になったとならなかったとか。
「私の太一よ。邪魔するんじゃないわよ。秋崎~! 土に埋めるわよ……」
コイツ。寝言でとんでもなく怖い事言ってるな。
「はぁ~、女神ねえ。まぁ、たしかに眠っていれば天使には見えなくはないけど。コイツ。行動がヤバイからな……起きる前にさっさと立ち去るか」
俺は眠っている有栖川を起こさない様にそ~と立ち上がり、その場を立ち去ろうと動こうとした瞬間。
「えい!……仕返してあげる……失恋させた恨み晴らすべし」
「お、お前は?! な、何をしやがる。なんだそのスタンガンは……ギャアアアア!!」
「フゥー……悪は成敗。これにて失礼。また仕返しする」
ガラガラッ!!
……突然現れたとあるヒロインの1人によって、スタンガンの餌食になり、床にぶっ倒れた。
────数分後。
「んぁ……うにゃああ!! あれ? 私……何で保健室のベッドに寝てるの? たしか太一と愛花梨を追いかけて校舎裏に向かってわよね? それであの魅力ゼロの秋崎に校舎裏にいくのを阻まれて…阻まれて……私、失恋したんだわ」
ま、不味い。有栖川が起きる前に立ち去る完璧な計画が……おのれ、あのロリっ娘同級生。俺に何の恨みがあるってんだ……いや、明確な恨みならあるか。
太一と愛花梨をくっ付けさせた事でアイツも有栖川みたいに失恋したんだったな。
「南雲に会ったらちゃんと謝っておかないとな」
「ふ~ん。千夏にはちゃんと謝るんだぁ~!」
「ひがぁ?!」
お、俺の馬鹿野郎~! スタンガンを喰らって痺れて動けないのに、何で死んだ振りしないんだよ。
このままじゃあ有栖川に好き放題やり返されるぞ。
「止めろ。有栖川、見ての通り俺は痺れて動けん。悟れ! そして、静かにこの保健室を去り帰宅するん……だぁぁあ!!」
「………何で秋崎に指図されないといけないのかしら?」
こ、こいつ……乗っている。冷たい床の上にうつ伏せで動けん状態の俺の背中の上に体重をかけて乗ってやがる。
「………降りろ。有栖川、お前の超体重で俺の身体が地面に沈…むうぅうう!」
こ、こいつ……載せている。自身が持つ鞄を背負った状態で俺に体重と鞄の積載量を全て載せてやがる。
「私の初恋を散らした張本人が目の前に居るのにやり返さない分けないでしょう。物理的に」
「何言ってんだ! 太一のストーカーと化してたくせに、太一も怖いとか言って困ってたぞ。物理的……痛てて!!」
こ、こいつ~! 近くにあったダンベルを両手に持って重さをかさ増ししやがったぞ。
「誰がストーカーよ。恋は盲目になっちゃうのよ。純粋な恋する乙女なだけよ。私はね」
運命の再会とか言って、太一に付きまとってた様にしか見えんかったが。
それを発言した瞬間。有栖川の積載量は増加し、俺の身体に負荷が掛かるという負のスパイラルになるだけだから黙っておこう。
「……まぁ、一生懸命だったのは見てたから分かるけど。太一の気持ちも考えてやらないと駄目だぞ。アイツにもアイツの事情がちゃんとあるんだか」
「………そんなの分かってるわよ。分かってるけど好き……だったのよ! これは本当の気持ちだったの。私は太一が好きだった! なのになのに……太一が選んだのは愛花梨だったの」
……そう。〖私を好きなだけ追い詰めてダーリン。余所見はNoneNone〗の、この世界で主人公《太一》が選んだのは愛花梨だった。
俺は主人公《太一》の親友ポジションとして、主人公《太一》がベストパートナーと結ばれる様に手助けした。
アイツのホントに心の底から好きなヒロインを聞き、その娘と結ばれる様に全力で手伝い。最後には結ばれハッピーエンドを迎えさせてやれた。
勝ちヒロインが生まれれば、必然的に主人公《太一》を好きだった別のヒロイン達が負ける事になる。
この世界はたしかに恋愛ゲームの世界に違いないが、リアルだ。ゲームの世界だろうとリアル……時間もちゃんと経過するし腹も空くし眠くもなる。
失恋をすれば傷がつく……そして、俺は主人公《太一》が愛花梨と結ばれる様に手伝った事によって、失恋したヒロイン達の恋の邪魔をしてしまったんだ。
……俺は彼女達にちゃんと謝らないといけない立場にある。
「……有栖川」
「グスッ……何よ」
校舎裏の事を思い出して涙目になっているんだろうか? さっきまで持っていたダンベルや鞄は床に置いたらしい。
俺は痺れが取れ、動ける身体を無理矢理、有栖川の方へと向けた。そして、案の定。有栖川の身体はふらつきながら床にぶつかりそうになる。
「うわぁ?! ちょっと! 何、いきなり体勢変えてるのよ……わぷぅ?!」
そんな有栖川の身体を優しく支えた事で、俺は有栖川を抱き寄せる体勢になってしまった。
「悪い有栖川……もっと有栖川の事の気持ちもちゃんと考えるべきだった。これで許してくれとは言わないが、謝らせてくれ……済まなかった」
俺は頭を下げて心を込めてそう告げた。これで有栖川が許してくれるとは思わんが、とにかく俺は有栖川に素直に謝りたかったので、心を込めて謝った。
「………秋崎………い、いや………そ、そんなのわ、私も悪いっていうか。失恋したから秋崎に八つ当たりしてただけよ……なのにそんなに真剣に謝って来るなんて思えるわけないじゃない」
俺が謝ると有栖川は何故か赤面しながら、明後日の方向を向いていた。
「有栖川?」
「うにゃ///……か……えるわよ」
「ん? 何?」
「帰るわよ。一緒に帰るの! ほら。保健室にずっと一緒に居るのも変だし帰ろう……それで今日の事はチャラにしてあげる。特別なんだからね。秋崎」
「ああ、サンキュー、有栖川……責任。ちゃんと取るからさ」
有栖川は俺から離れると立ち上がり。ぱぱっと乱れた制服や髪形を直して、俺に右手を差し伸べた。
「………なら取ってもらおうかな。責任」
「ん?」
「私の新しい恋をする為の責任……新しい好きな人を一緒に探してもらうわよ。秋崎!」
彼女はそう言って、俺の右手を掴んで立ち上がらせた。