Filing2-5 ハマり処
沈んだ気持ちを掬い上げるように、彼女は僕に寄り添ってくれた。
社会にはカノジョがどう見えるかはしったこっちゃないが、少なくとも僕にとっては救いであり、女神、頼るための支柱であった。
この頃、カノジョの調子が悪そうだ。何か思い詰めているのとも思えない、体調が悪いのだろうか。
安易に聞くことはできないが、僕が力になれることなら力になりたい。
笑顔のカノジョが素敵だ、元気なカノジョが好きだ、他愛のない話で微笑むカノジョが見たい。最期にみるならカノジョの笑顔がみたい…見たいんだ。
しかし、世は無情というものだ。叶う願いは1つしかなかった。
最後にみるのがカノジョの笑顔だった。
「おう、どうだ日暮さん!!」
うぉ、驚かせんなよキョウスケさん。びびるじゃん。
突然のキョウスケからのコンタクトに驚き、後ろへたじろぐ。
「ここまで、収穫はナシです。聞き込みもしてて、館内での目撃情報がゼロです。みなさんが行かない所に頻繁に行っていたんですかね?」
キョウスケさんを見ると顔が青ざめている。
もしかして、無意識にのっぺらぼうになってた!?やばい、すぐに隠れなきゃ…いや、窓に写る姿は確かに人の形をしている。じゃあ何に…。
「…っ、そういえば静かじゃないですか、この図書館。図書館ってここまで静かなものでしたっけ?」
靴の擦れる音、ページが擦れる音、本棚へ戻す音、扉が開閉される音の全てがかき消され耳にキーンと響く。
足音1つもたててはならない雰囲気を帯び、立ちすくむ。
ノゾミさん!ノゾミさんはどこへ行った!?ここ数十分姿を見てない。
「日暮さん、潮田を見つけ次第一旦ここから出ましょう。嫌な予感がする。」
周囲に目を向ければ何も起きているはずではないのに、本棚に覆われているかのような圧が襲う。
「最後にどこで潮田をみました?」
「たしか、あっちの方に…。」
タン…カタン
指を指した方向を背に強烈な圧がかかる。
横の新井さんは視点が一点に集中し、肩の息づかいがこちらまで伝わる。かという俺も、ここで振り返れない。そこに何かがいることは直感で分かるから。
よし、新井さん。せーので振り返りましょ。
アイコンタクトを交わし、振り向く。
どこまでも続く、本棚の通路。先刻と変わらない景色に、一度安堵する。
「なにもいませんね。」
俺は馬鹿だ。
横にいる見知らぬ顔に語りかけるなんて…。
本棚に顔を埋め込まれた新井が背後にいるのが見える。
音もせず、間合いを詰めて、今ここに…ここに。でも、こいつどこかで見たことがある。どこだ…どこかで。
脳裏には今回の被害者資料がよぎる。第一の被害者 長根ガクト。
あまりにも姿が酷似しているナニか、或いは本人かもしれない。上野さんは、長根は今実家に居るって…今は実家で療養してるって言ってたはず。
刹那に駆け巡る思考。
身の毛がよだつ感覚。
抑えなくては、
いや
ここで、抑えるようではこの先やっていけないと思う。
学校の時とおんなじ、イメージ…この力の本質は思ったもん勝ちのはず!!
足を踏みきり身を捻って、最短で薙ぎ払い新井さんから引き剥がす。
息はある、まだこの人は生きてる。下手に動かせないし、応援がくるまで放置しよう。今は目の前のコイツに集中っと。
あれ
どこに
「君たちも探してくれるのかい?僕は皆に頼んでいるのにさ。ずっと…僕を探してくれって。見えてないみたいだから、僕が君たちを見えるようにする力をわけてあげるね。だからさ、僕を見つけてよ。」
耳元で囁いたその声はまた音もなく去っていく。
気づいた時には遅かった。
気づきたくなかった。
今自分が深淵に取り残されていることに気づかなくてすんだのに。
今の俺には、どこにいるのか、どこを見ているのか…感じることもできない。
今俺は、視力を失った…。
ご高覧ありがとうございました。
16話を読まれた方は、もしよろしければ14話の前書きを改めてご覧ください。少し違った景色が見えるかもしれません。
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