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第1部 第8話 異能の目覚め



カイは闇の中を走った。

夜の低ランク地区――街灯も点かず、舗装も剥がれた路地。


心臓が早鐘を打つ。


(間に合え――!)


視界の奥、うずくまる小さな影。

少年が痙攣していた。

彼の腕には明らかに異常な腫れ――

感染性による敗血症性ショック。


「救急車を呼べる金なんて……ない。」


カイは息を切らせ、しゃがみ込む。

震える小さな手を握りしめ、耳を当てた。


呼吸が浅い。

脈が速い。

もう時間がない。


(見ろ。もっと見ろ。)


頭の奥で、微かな声が響く。


カイの視界がわずかにきらめき、

少年の皮膚の下、血管の流れが透けて見えるような錯覚が走った。


「……なんだ、これ。」


自分の手の動きが、頭の中に直接流れ込む。

触れた部位、器具、周囲の構造――

すべてが、まるで指先の延長になったようだった。


(落ち着け。考えろ。できる。

俺は、これまでだってやってきた。)


カイはポケットから針と簡易キットを取り出し、

即席のドレナージを始めた。


手は、震えなかった。


「……よし、これで一時的に持つ。」


脈が、わずかに安定する。


(何なんだ、俺……。)


だが今は、混乱に浸っている暇はない。

カイは少年を抱き上げ、近くの診療所へと駆け出した。


遠く、ビルの屋上でそれを見つめる影があった。


天城レイ。

その瞳に、光が宿る。


「……やはり君だ、椎名カイ。」


レイは手の中の指輪端末を握りしめた。


「未来を変えるのは、私ではない。君だ。」


夜の風が吹き抜ける。

遠い未来の亡霊たちの声を乗せて。

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