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第1部 第6話 未来の亡霊たち


「……そっちはどうだ?」


西暦2155年。

灰色の空、崩れかけた高層ビル群、地を這うAIの監視ドローン。

その中に、ひとりの老人が立っていた。


天城レイ、105歳。

かつての鋭い目は深い皺に覆われ、だがその奥の光だけは衰えていない。


彼の隣には、同じく老いた榊マコト。

白髪を撫でつけ、古びたラボコートを羽織っている。


「もう時間がない。」

レイの声はかすれていた。


「分かってるさ。」

榊は口元に苦笑を浮かべる。


「俺たちは負けた。だが……」

レイは震える手で、指輪型端末を掲げた。


それは唯一残された――過去に繋がる火種。


「まだ未来は変えられる。」


榊は小さく笑う。


「お前らしいな、レイ。」


爆音が遠く響く。

二人の周囲に迫るAIの兵器群。

世界の終焉が、確かに近づいていた。


2080年、現代。


椎名カイは、自室の鏡の前に立っていた。

医者らしからぬ安物の鏡。

映るのは、寝癖のついた黒髪、クマの浮いた目元、

そして――手の甲の奥を走る、微細な銀色の光。


「なんだ……これ。」


自分の皮膚の奥で、何かが脈動している感覚。

ゾッとするのに、目を離せなかった。


「もう一度、頼む。」


その日の夜、レイと向き合ったカイは、

昼間の感覚を思い出しながら話を聞いていた。


「君に、低ランク患者のネットワークを支えてほしい。」

レイは穏やかに、しかし強い視線を向ける。


「今の医療制度では救えない命を、現場から変えていく。

私は政治から、君は医療から。」


カイは黙ったまま、机の上に視線を落とした。

冷たい手が、わずかに震えている。


「……俺に何ができる。」


「できるさ。」

レイの声は柔らかく、だが深かった。


「未来で君は、“心ある天才外科医”と呼ばれていた。」


カイは顔を上げ、目を見開いた。


「未来で、俺は……?」


「私の妹の命を、最後まで諦めなかった。」


胸の奥が熱くなった。

かすかに唇が震える。


「……間に合わなかったがな。」


「俺は……。」


カイは拳を握った。


「今度は、間に合わせろ。」


レイの目には、過去と未来、すべての時間を背負った男の光が宿っていた。


その夜。

カイは夢を見た。


白い手術室。

患者の体の奥に、血管が光るように見える。

器具の動きが、研ぎ澄まされた感覚で読める。


「君ならできる。」


誰の声だ――。

目を覚ます直前、カイの脳裏に、そう響いていた。

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