第3部 第4話 罠
議会の奥の一室。
「……進展は?」
薄暗い部屋の奥、
風見惣一郎は静かに尋ねた。
秘書が小声で答える。
「はい、
世論調査ではAI復帰賛成が急上昇中です。
特に『議員の妹が被害に遭った』件が
民意を動かしています。」
「そうか。」
風見は懐中時計を指で鳴らし、
口元に薄い笑みを浮かべた。
「やはり、
民意というのは簡単に揺さぶれる。」
「……ですが、
まさか議員の妹まで巻き込む必要があったのですか?」
秘書の声がわずかに震える。
「必要だったとも。」
風見は淡々と答えた。
「彼女は『高ランク者の象徴』だ。
その命が危険にさらされれば、
人々はかつての秩序を恋しがる。」
病院の一室。
レイはベッドで眠る妹・レナの手を握っていた。
(ごめんな、レナ。
お前を守れなかった。)
扉がノックされ、
カイが入ってきた。
「……来たか。」
「容態は?」
「安定した。
だが、あと少し遅れていれば……。」
レイの言葉に、
カイは静かにうなずいた。
「……。」
「カイ。」
レイの声が震える。
「俺は……間違っていたのか?」
「――。」
「お前の理想を支えてきた俺が、
結局は自分の家族を優先したいと願ってる。
それじゃ、昔の秩序と変わらないじゃないか……。」
カイは答えなかった。
ただ、レナの穏やかな寝息を見つめていた。
一方、議会の資料室。
榊は一枚の事故報告書を見つめ、
眉をひそめていた。
(……おかしい。)
交通事故の発生地点、タイミング、
同時に起きた周囲のデモの暴動――
偶然にしては、整いすぎている。
「風見……。」
榊の目が細まった。
(これは、
仕組まれたものか。)
夜、議会ビルの最上階。
風見惣一郎は夜景を背に立ち、
小さく笑った。
「理想を掲げた若者たちよ、
さあ、そろそろ限界を見せてもらおう。」
彼の瞳は、
冷たく、深く、
すべてを見通す者のそれだった。




