第1部 第4話 出る杭、医局の影
緊急処置が終わった朝、カイは医局の扉を開けた。
――空気が張り詰めていた。
「椎名カイ。」
狸教授の声が響く。
医局の中央、全員が揃ったカンファレンス室。
カイは前に立たされていた。
「昨夜、勝手にCランク患者を受け入れ、病院方針を無視し、処置したな。」
上席医師たちが冷たい目を向ける。
「申し訳ありません。しかし――」
カイが言いかけたとき、狸教授が手を上げ、制した。
「結果は?」
「……患者は助かりました。」
「そうか。」
狸教授は目を細め、笑った。
「だから駄目なんだ。」
医局全体がざわめく。
「椎名、お前は患者を救った。だが組織を混乱させた。
お前のような駒が勝手に盤面を崩せば、
次に救えない患者が出る。わかるか?」
カイは唇を噛む。
「現場に感情を持ち込むな。
医者は組織の歯車だ。覚えておけ。」
その夜、バーの片隅にいたカイは、
グラスを握ったまま、独りごちた。
「感情を捨てろ……だと?」
不意に、隣にスーツの男が座った。
「――感情を持たないのはAIの仕事だ。」
カイが驚いて振り向く。
「……誰だ、お前。」
「初めまして、椎名カイ。
私は天城レイ。君に頼みがある。」
スーツの男は淡く笑った。
議会の若き天才政治家――
その目の奥は、年齢にそぐわない深い色をしていた。