第2部 第13話 ゼロレクイエムという理想
翌朝、議会ビルの会議室。
重鎮たちが集まり、モニターに昨夜の暴動の映像が流れていた。
「医師の独断で低ランク患者を救助……?」
「秩序を乱す行為だ。」
「椎名カイという名、
最近よく聞くな。」
陰の奥、風見惣一郎は懐中時計を指で転がし、ほくそ笑んだ。
「ゼロレクイエム……。」
一同がざわめく。
「天城レイが掲げた理想。
今もなお、未来に火を灯す旗。」
その名が、ついに政治の盤上に現れた。
病院、医局。
カイは机に突っ伏し、浅い呼吸を繰り返していた。
(……体が重い。)
ナノマシンの後遺症。
無理をすれば命を削るのは分かっている。
「大丈夫か、カイ先生?」
後輩が覗き込む。
「……ああ。
まだいける。」
彼は薄く笑った。
(俺は、止まれない。)
その頃、屋上の一角。
狸教授が一人、手すりに肘をかけて空を見上げていた。
「ゼロレクイエム、か……。」
低く笑みを漏らす。
「理想の果て、無秩序を生むなら――
私は秩序側に立とう。」
その表情は、
かつて理想に殉じ、敗れた者の影を残していた。
一方、地下のAI制御室。
榊マコトはモニター越しに映るレイの姿を睨んでいた。
(あいつが引き寄せたか。
椎名カイ。
あの男は、盤面の中心に立ち始めた。)
「……兄さん。」
通信越しの声が聞こえる。
天城レイ。
「これからどう動く?」
「見てろ、レイ。」
榊は冷たく笑った。
「駒を見届けるのは、
盤面を支配する側の特権だ。」
その夜、カイは手術準備室の鏡を見つめていた。
「ゼロレクイエム……。」
ふと、レイの言葉を思い出す。
『お前は革命の鍵だ。』
カイは静かに白衣を羽織った。
(俺はただ、命を救う。
そのために争いが必要だというのなら、
やってやる。




