第8話 ぶつかり合う2人
〜〜〜
今、アンデリオとの戦いが始まろうとしていた。
「消し去れ!」
「B級炎魔法、火柱!」
地面からマグマのようなものが、溢れ近づいてくる。
「B級氷魔法、冬至」
全ての火柱が凍りつき、地面全体が凍り始める。
「次は決闘場に小細工かぁ!」
「B級炎魔法、夏至」
決戦場の半分が凍り、もう半分が溶け始めていた。
「なんだこの戦いは!?」
「頑張って、アンデリオ様!」
「八百長野郎に負けるな!」
フェイを応援している声はほぼ無いに等しい。
「俺は今この状況すら気に入らねぇな!」
「お前は黙って脇役に徹しろ!」
その途端、アンデリオの首から下げていた紫色のネックレスが輝き、身体から炎が出始める。
観戦側が盛り上がる。
「あれは!アンデリオ様の!」
「生まれつきの才能!!」
やがてその炎は、身体に纏わり、騎士の鎧のような形へと変わる。
「B級能力、炎人化!」
あまりの火力に決闘場全体が熱を帯びる。
「どうだ?田舎者!」
「これが生まれつきどうしようもない、才能の世界だ!」
そう言い、アンデリオは一歩ずつ近づいてくる。
「くっ…………」
これが、村長が言っていた能力………、確かに魔法とは比にならないほどの影響力だ。
「その様子じゃ、能力を持ってないか、よほど見せられないものらしいな?」
また一歩大きく踏み出す。
「田舎者の能力か?もしかして、木登りが得意とかか?」
抗うべく、魔法を放つ。
「C級氷魔法、氷槍!」
アンデリオを、めがけ飛んでいくがそれは、当たる前に蒸発する。
「お前みたいなやつを見ると悲しくなるよ、どれだけ魔法を、学ぼうが生まれつきの能力を前に成すすべもないからなぁ!」
兜の小さな隙間からアンデリオの笑みが見える。
「C級氷魔法、凍傷Ⅱ」
アンデリオから水蒸気が出るだけで何も変わらない。
「もう終わりか?さっきの威勢はどうした!」
「これが無敵の炎人化だあ!」
より一層炎が、燃えたぎる。
どうしたらいいんだ……合体魔法をしようとしても氷が持たない……。
このままじゃ魔石が割れてしまう。
後ろを見ると、魔石に少しヒビが入っていた。
「考えろ………」
少し、深呼吸をし耳を澄ませる。
「…………い………」
何が聞こえる。
「………はや……」
ポケットから聞こえてるのか?
「早くここから出せ!!」
ポケットを覗くとサンダリアがへばっていた。
「力が弱まった我であろうともこの熱さは堪えるものがある!」
そうか、サンダリアは魔石が無いから苦しいのか。
「早く、あいつを倒せ!小僧!」
倒せって言っても……どうすればいいんだ。
「小僧!落ち着いて考えろ!」
「落ち着いて考える?」
ふと足元を見ると、溶けてもなく凍ってもない場所があった。
「は、早く……し…ろ」
そうか!?
「ありがとう!サンダリア!」
「いい…から……はやく……」
サンダリアのために早く終わらそう。
「もう、飽きたな、終わらせるか!」
アンデリオが手に力をいれる。
「B級炎魔法、火柱!」
次々と出てくる火柱を華麗に避けアンデリオに、接近する。
「はっ!熱さでおかしくなったか!」
表面温度100℃、もちろん近づくほど、火力が上がるため得策とは言えない。
「C級氷魔法、凍傷Ⅱ」
「それは効かねぇぞ!無能が!」
フェイが凍傷Ⅱを放ったのはアンデリオではなく、フェイ自身だ。
フェイの身体が凍り始めるが、アンデリオの熱で中和される。
「な………だが!それがどうした!」
その灼熱の手で掴もうとしたとき。
「B級氷魔法、氷塊」
先程の氷塊を手のひらサイズまで圧縮する。
「B級氷魔法、氷手」
氷で作った鋭い手袋のような物で兜を掴む。
「ここが弱点だ!」
炎人化の弱点それは視界を確保するための兜の隙間だ。
「C級氷魔法、氷槍」
その瞬間、直接氷の槍が数本アンデリオの頭を串刺しにした。
それと同時にアンデリオ側の魔石が割れ、アンデリオは気を失った。
自然と炎人化も解け、ネックレスも輝きをなくしていた。
「才能の世界、君にはこの世界がそう見えているか」
「勝者、フェイ=アリアス」
歓声は聞こえない、普通はそうだ皆僕が、負けるのを、虐げられるのを期待していた。
静かにその場を去ろうとしたとき。
「フェイさん!流石です!」
観戦側から声が聞こえてきた。
あれは、ロディ?
「な、何をしてるんだ!」
あんな事をしたら、周りから白い目で見られてしまう。
「フェイ君!よくやったよ!」
次に声を出したのはフリーアだった。
「フェイ!!」
「俺たちの希望だ!」
「スッキリしたぜ!」
ほんの一部、数人声を上げている、皆同じ黒色の紋章の受験者たちだ。
「あぁ……」
そうか、フリーアが言っていたのは、こういうことか。
同じように、虐げられている者を鼓舞する、希望を与える、案外悪く無い気分だった。
「少しでも、役に立てたのか……」
あの村で起きた悲劇から、僕は何も役に立てないのに、生きている場違いだと思っていた。
生き残ったのが僕じゃなくて、母さんだったら、フレインだったら、他の皆だったら、もっと良い生き方、良い人生を送れたのだろうか。
そんな事を考えて生きてきた、ずっと心が空っぽだった、何かを成し遂げないと、何か貢献しないと、そんな事を考えた結果。
ランクを上げて、皆を生き返らせる、その考えに行き着いた、そのために今サミット学園を受験して、何かを成し遂げようとしている。
ロディを救ったのも、フリーアを守ったのも全て、何か貢献しないと、としているからだ。
今、僕を縛っていた鎖が一つ外れたような感覚に陥る。
今なら何にでも出来るような気がする、力が溢れてくる、彼らの望むままに動いてしまおうか?。
僕が、彼らのヒーローに、希望に、勇者に、そんな事を考えていたとき。
「フェイ…あなたは、周りのため行動して、自分を後回しにするのではなく……」
聞き覚えのある声。
「自分のしたい事、やりたい事をして、その結果、周りがあなたに着いてくる、ついて行きたいと思えるような行動を取りなさい」
忘れるわけがない、この声。
「もし、その過程で、貴方が一人になって、誰も助けてくれないそんなことがかあったら、私たちの名前を呼びなさい、いつでも駆けつけるから」
まさか、こんな遠い昔のことを思い出すなんて思ってもなかった。
「母さん僕は、一人じゃなかったみたいだよ」
「だから安心して、ゆっくり待っていて」
〜〜〜
決闘場
「おい…大丈夫か?」
ポケットからサンダリアに揺らされてハッとする。
「ああ、少し昔のことを思い出していたみたいだ」
サンダリアに水を飲ましてからポケットに戻す。
少しして、決闘場から降りてロディの元へ向かう。
「いやぁ!気持ちよかったですねぇ!」
ロディの顔がスベスベになっていて、一番スッキリしている。
「よく勝ったね、おめでとう!」
フリーアが、お祝いをしてくれた。
「ありがとう、そっちも順調みたいだね」
ふとフリーアの紋章を見ると、20点と記されていた。
「一応、Sランクだよ?」
少し誇らしげに話す。
「ロディ、君は大丈夫なのかい?」
そう言い紋章を見ると。
「え!どうしたんだ、その点数!」
ロディの紋章には、30点と書かれていた。
「なんか…フェイさんが離れた後、Aランクの奴らに絡まれて、気づいたらこんなことに…」
素直に感心する。
「よくAランクに勝てたよね?一応アンデリオが頭抜けてるけど強いよ?」
フリーアが不思議そうに聞く。
「それはもう!激戦で!」
「って!フェイ君、こんな事話してる場合じゃないないよ!」
話を遮られる、悲しそうにするロディを片手に話を聞く。
「あと1時間しか無いよ!50点まであと20点でしょ?」
今までの戦闘に約2時間かけたことから、戦えたとしても1,2回か……。
「リスキーだけど、S、Aランクと戦わないといけない」
2人は心配そうに見つめる。
「Sランク……噂のエンロード君は除外して、他のSランク……」
そんな事を話していたとき。
「やぁやぁ!お困りかい!」
銀髪の爽やかな少年が話しかけてくる。
「え…誰?」
フリーアは、躊躇せずに問う。
「あれ?おかしいな同じSランク仲間じゃかったけ?」
そんな事を言う彼の紋章には、Sと表記されていた。
「嘘でしょ!?何で話題になってないの?」
確かに、Sランクなのに名前も顔も知らない。
「俺、認知されてないの?」
3人はコクリと頷く。
「もしかして、エンロードのせいか?」
「順番被ったんだよな〜」
確かに、エンロードと被ったのなら認知されないのも理解できる。
「それは、災難だね…」
「で、私達に用があって来たんでしょ?」
彼はハッとしながら話す。
「君、Sランクと戦いたいんだろ?俺とどうかな?」
魅力的な提案だが、相手の実力がわからない上、簡単に了承してはいけない。
「負けてあげようか?」
「実は俺もう点数いらないんだよね」
彼の点数は、25点で規定以上の点数だった。
「じゃあなんで、この話を?」
「さっきのアンデリオの輩を倒しただろ?」
「その光景にスカッとしちゃってさ」
「君にはこの試験を突破してほしい良心さ」
確かに彼の紋章は、銅色で三大財閥の彼に恨みもあるだろう。
なんだが胡散臭い気もするが、ここで戦わないと不合格なのも事実。
「君のことを少し信じてみようかな」
彼は笑顔で手を差し伸べる。
「俺の名前はリッシュ!よろしく!」
「僕の名前はフェイ=アリアス」
しっかり握手をし、決闘場へ向かう。
「楽しみだね…」
「ですね…」
残ったフリーアと、ロディはコソコソと話していた。
〜〜〜
???
天井から水滴が滴り、ポタッ、ポタッと音を鳴らしていた。
「例の計画は順調かい♡?」
ひどく薄く暗い場所で話し声が響いている。
「はい、このまま事が進めば目標の数に届きます」
部下らしき人物は跪きながら応答する。
「楽しみだねぇ♡」
「急にボスが、活発的になって嬉しいよ♡」
微々たる豆電球の光の下にはサミット学園の紋章が数十個、山となって積もっていた。
「いい血の香りがするねぇ♡」
〜〜〜
決闘場
「計画通り、最初はみんなにバレないよう攻撃するね」
「俺がかかってこい!って言ったら合図だから、その時が来たら攻撃してくれ!」
位置につく前に、彼が言ったことを思い出す。
審判が現れ、いつものように言う。
「実戦試験、開始」
リッシュは風を足に纏う。
「C級風魔法、追い風」
目で追えるが明らかにスピードが上がる。
そのままリッシュは、持っていたナイフで切りつけてきた。
「くっ……」
魔石にヒビが入るが、許容範囲だ…。
「よし、かかってこい!」
合図がかかり、攻撃しようとしたとき。
「な……」
おかしい、身体に力が入らない。
「ふふ…ふふふ…あはは!!」
前方から笑い声が聞こえる。
「こんなにも簡単に騙せるものか!?」
完全に顔つきが豹変した、彼のナイフには、紫色の液体が塗られている。
「騙し…た…な……」
地べたに這いつくばっているフェイに向かってリッシュは続ける。
「騙した?」
「少し平和ボケしてたんじゃないか?」
「今まで関わってきた人が随分と善人だったみたいだなぁ」
ナイフを回しながら近寄る。
「ちゃんと自己紹介したほうが良いか?」
「俺の名前はニューム=リュミエール」
「少年盗賊として有名かな?」
勝ちを確信しているからか、ペラペラと喋る。
「普通は疑うと思うけどねぇ?」
「まぁ田舎者は仕方ないかぁ」
「騙す人がいないからね!」
こいつも、同じ煽り方だ。
「ま、次頑張ってよ」
「この毒、3時間効果あるけどね!」
そう言いナイフを振り上げたとき。
「この辺でいいのかな…」
すっとフェイは立ちあがる。
「え…なんでぇ?」
気の抜けた声を出すニューム。
「この毒は、0.1mlでサンダータイガーすら気絶するんだぞ!」
「そうみたいだね」
まるで他人事みたいに言うフェイ。
「まさか!毒がついてない?」
そう言って自分のナイフに触る。
「あ…それ」
「うびびび!!」
時すでに遅し、まさに自滅だった。
「勝者フェイ=アリアス」
「何してんだ…あいつ」
観戦していた2人がハモっていた。
………
明かりが消えいつもの流れが始まった。
「試験終了」
「おめでとう今いる君たちは選ばれし者…」
「その選ばれし者の中で最も活躍した5人を紹介する」
同率5位 パリオン=デリズム 30点
同率5位 ロディ=ラテフ 30点
3位 フラリス=デビィン 45点
2位 フェイ=アリアス 50点
1位 エンロード 105点
「彼らは、最も入学に近い5人だろう」
「次の試験、いわゆる最終試験というものだ」
「最終試験の内容、サバイバル」
「あるフィールド内で1日かけて胸の紋章を取り合ってもらう」
胸にある紋章がそれぞれの色で光り出す。
「これを……」
黒く光るフェイの紋章に、10の数字が浮かび上がる。
「紋章の数字、その値はそのままの価値だ」
「最低1つ自分以外の紋章を持ち帰れ」
「今からランダムな地点へテレポートを行う」
「24時間後、再び此処へワープされる」
「ルールは以上、質問は受け付けない」
「それでは試験を始める」
早口で話す学園長からは少し焦りを感じた。
身体が光り、始めた。
「最終試験開始」
〜〜〜
「作戦開始♡」
また一つ不穏な影が動き出した。