第6話 入学試験
〜〜〜
あの場所を意識して眠りにつく。
「…………着いた」
一面白色の世界、アレフと会える場所。
「おや…自ら此処へ、いらっしゃるとは」
アレフはパラソルの下で椅子に座りながら読書をしていた。
「今日は話したいことが…」
そう言い歩き出すと、小さな水しぶきが起こる。
「水?どうして?」
今までなかった水が薄く全体に張っていた。
「我々の繋がりが深まった証です」
本を椅子に置き立ちあがる。
そういえば、今までなかった本とパラソルの存在が顕現している。
「この世界は、今後も変化し続けるでしょう」
「そして、完全に変化しきったとき……」
「貴方は元の世界******……」
ノイズのような音に遮られる。
空に一筋のヒビが入る。
「な、なんだ…」
「おっと…喋りすぎたみたいですね……」
「私の話は、ここまでにして……」
「何の用でしょうか?」
そうだ、僕はアレフに聞きたいことがあったんだ。
「サンダリアの件、アレフがやってくれたんだろう?」
それ以外あり得ないのだ、サンダリアの発言、この世界の変化……。
「ええ…その通りです」
ここまでは、予測通りだ、ただ問題はそこじゃない。
「アレフは僕の身体を乗っ取れるのか?」
胸に手を当てながら問いただす。
「部分的には合っていますね」
アレフは何のためらいもなく話す。
「正確に言うと、フェイ様の意識が飛んだ時、許可を出した時、死ぬ直前の3つですね」
その言葉に拳を強く固める。
「今回は死ぬ直前だったってことか…」
アレフは、コクリと頷く。
「助けてくれて、ありがとう…」
「まだ君のことは何も知らないけど、君とは以前から会ったことがあるような気がする」
「なんだが安心するんだ…」
視界がぼやけてくる。
「…まだ序章に過ぎません、これからのご活躍期待してますよ」
〜〜〜〜〜
数カ月後………
生暖かい風が窓を揺らす、各様の花が咲き、今年もまた不変の風景がやってきた。
「いよいよこの時が来たな!」
サンダリアがポケットに入りながら言う。
「しっかり寝れたか?準備はできてるか?」
朝食を準備している村長が、話しかきた。
「はい、昨晩までに準備は終えてます」
今日の朝食は、パンとハムだ。
「似合っているよ…よく似合ってる」
胸に集められた本の紋章が描かれた服を着ている、いわゆる制服と言うやつだ。
「その制服は今は借りている状態だ…その借り物を」
今日は、サミット学園の入学試験だ。
「ここまで育ててくれてありがとうございます」
パンとハムを食べ終える。
「村長が居なかったら今頃僕は……」
村長の飲み物を啜る音が聞こえる。
「まだ受かったわけじゃないんだぞ?」
コップを机に置き言葉を発する。
「慢心するな…でも、お前はよく頑張ったよ」
涙が出そうになるが堪える、まだ泣くときじゃない。
「村長、これを」
訓練の合間に作っていた、ミサンガを渡す。
「こんなんじゃ全ての恩を、返せないけど少しの気持ちです」
村長は、その赤色のミサンガを腕に着ける。
「ありがとう…これで十分だ」
そう言って1枚の紙を渡す。
「これはサミット学園への直行転送、魔法紙だ」
「手に取り、魔力を込めると入り口へ運んでくれる」
青白く光るその紙は、僕の運命を左右する一切れである。
「ありがとうございます……」
荷物を持ち、魔法紙を手に持つ。
「存分に力を見せてやれ!」
「はい!行ってきます!」
その言葉で同時に魔力を込めると身体が光に変わり空へと飛んでいった。
「本当は無理難題を押し付けてランカーの道を閉ざそうとした、そのまま家で生きてくれたら良いと思っていた……」
そう言って目を拭う。
「お前はもう、立派なランカーだ……」
フェイを見送る村長の瞳には涙が溜まっていた。
〜〜〜〜〜
光が集まり、気が付くとサミット学園の入り口にいた。
「………着いた」
あまりにも派手な来校に皆の注目が集まる。
「おい……あれって」
「まさか…あいつ…」
「嘘だろ?……」
周りがざわつき始める。
「なんだ……」
あまり慣れていない人からの目線に戸惑う。
「おい!お前!」
後ろから金髪のいかにも御曹司のような少年が話しかけてきた。
「俺様がここを通っているだろう?道を開けろ!」
あまりいい気分ではないが入試前の面倒事を避けるため横に移動する。
「あれ?お前まさか……」
「田舎者…か?」
いきなりそんな事を言うその男に呆気を取られる。
「その紋章だよ!紋章!」
僕の紋章を指差しながら言う。
「黒色の紋章は田舎者の証だ!」
周りから笑い声が聞こえてくる。
確かに僕の紋章は、黒色だった。
「田舎者が夢見てきてんじゃねぇよ」
まるで汚物をみるような目で僕を見る。
彼の紋章は、金色で素人目から見ても高質の素材で作られた服だとわかる。
「まさかとは思うが俺様達の事すら知らないのか?」
よく見ると、その男の後ろにいる四人も同じように金色の紋章だ。
「おい!そこのメガネ、田舎者にも分かるように説明してやれ」
指をさされた、メガネの少年はビビりながらも説明し始めた。
「こ…ここ…このお方は、世界有数の財閥、三大財閥の御曹司様ですよ!……」
「我々下中級貴族が話しかけてはいけない偉大な存在です!!」
「特に貴方みたいな田舎者は…」
銅色の紋章のメガネ少年が少し早口で語る。
「まぁそういうことだ、良かったな俺達の顔を拝めることが出来て」
僕を嘲笑い、さっき説明した少年の方を向く。
「てか、お前ごときが俺様を説明すんじゃねぇよ」
そう言って少年に手を伸ばす。
「で、で、でも!貴方が説明しろって!」
その手は少年の顔を鷲掴み。
「何口答えしてんだぁ!!」
手から炎が放たれ少年は、顔が黒焦げになりその場で倒れた。
何人かが治療をしにやってくる。
「こいつを助けたやつから…わかるよな」
その言葉の後、まるで彼がそこに居ないかのように、皆が通り過ぎる。
「は!!!傑作だぜ!!」
不快な笑みを浮かべる金髪の少年は、動けなくなった彼を蹴りその場を離れようと。
「あ゛?」
「てめぇ、何してんだ?」
フェイは、倒れた少年に回復魔法をかけていた。
「おい、聞いてんのか!?田舎者は、言葉もわかんねぇのか?」
彼の言葉を無視し治療を続ける。
「チッ……めんどくせぇ…」
手をこちらに向ける。
「お前はここで退場だ……」
「C級炎魔法、ファイアーアロー」
その攻撃を放とうとしたとき。
「早くしないか?もう時間だろ」
後ろにいた二人人のうちの一人、青髪の少年が話す。
「奴らに足を引っ張られるのは不愉快だ」
二人は、無視して先に学園へ入っていた。
「まぁいい…どうせすぐに会えるさ」
そう言い、腕を下ろす。
「せいぜい、思い出作りに励むんだな」
彼らは、フェイを後にして学園に入る。
メガネ少年の治療が終わり、一息をつく。
「あ、あの、ありがとう…」
メガネ少年は、もじもじしながら話す。
「さっきはごめん!!田舎者なんて言ってしまった……」
「ぼ、僕の名前は、ロディ=ラテフ」
「君の名前は?」
正直仲良くなれる気がしないが社交儀礼だ。
「フェイ=アリアス、よろしく」
名前を言うとロディは、笑顔になる。
「えへへ…実は初めての友達なんだ…」
「あまり…人前で話せなくて」
「今は君が助けてくれたから…頑張ってるんだ」
やはり、少し早口で話す。
「試験始まる前にやることじゃないかな…」
「でもまだ話したいことが……!」
ふと、学園の時計塔を見るとあと5分で始まる。
「話はここまでにしよう、今はお互いライバル同士だ」
フェイは、そう言うと学園へ走る。
「ま、まって!」
後を追うようにロディもついていく。
〜〜〜〜
集合会場
会場は、話し声に包まれていた。
「すごい人数だ……」
ぱっと見ただけで数万人はいる。
「この中で、約300人だけが入学を許されるのか……」
改めて不安になる。
「あ!いた!」
この声は、さっきのメガネ少年だ。
二人が目を合わした瞬間、電灯が消える。
そして、舞台の上に照明が集まる。
「はい…静かに…」
先生らしき人が無気力な、挨拶を始める
「どうも…私の名前は…ルドラス…ふぁ〜あ…」
「今回の…試験監督…」
聞いているこっちまで眠たくなるような自己紹介だ。
「試験は…計3回…」
「魔力量測定……戦闘評価……実戦検証」
「まずは…最初の魔力量測定…」
照明が新しく光り、舞台付近にある、赤色に光る水晶玉を照らした。
「赤いの水晶玉……いつもより結果が悪くなるだろう…」
「この学園では……ランクと同じように……G〜Sまで、格付けされる…」
「そして……この魔力量測定…………ランク無しと判断された場合……」
「その時点で…不合格…」
周りがざわつき始める。
「良い記録は…上のスクリーンに表示される……」
「それでは…始め…」
いざ始まってみると……
測定機は100台ほどあるが、誰も先陣を切らない。
「なんだぁ?日和ってるやつばっかじゃねーか」
見たことがある顔だ…あの三大財閥とやらの金髪御曹司だ。
「負け組どもは黙って見てな!」
そう言い装置には手を当てると。
アンデリオ=レド
魔力量 6471
ランク A級
歓声が巻き起こる。
「やっぱ、アンデリオ様だ…」
「次…こえぇ」
「やりすぎだろ…」
ロディはこちらを向き話す。
「つくづくムカつきますね!」
「実力は確かみたいだ」
フェイは一人感心していた。
〜〜〜
観戦室
「おぉ…中々ですね…」
そこには、学園長や国の幹部、学園の主要人物などの、上層部が観戦していた。
上層部達が見るモニターには、アンデリオの姿がある。
「さすがは、三大財閥か…」
「ですが…歴代と比べると低いですな」
「魔力量だけ低いのかもしれません…」
次々と話すが、学園長は静かに呟く。
「三大財閥など、前菜に過ぎんよ…」
〜〜〜
その流れのまま他の三大財閥が測定する。
ソルネ=ブール リア=ピンキス
魔力量 6117 魔力量 6682
ランク A級 ランク A級
「まじかよ…」
「これでA級とか…S級とか存在するのか?」
「ピンキス様…可愛い♡……」
盛り上がりはそこで終わり…数分後皆が慣れてきていたとき。
「あれ以来、A級は数人、S級に至っては1人もいないな…」
「学園側のミスか?」
次の瞬間、スクリーンに現れたのは。
フラリス=デビィン
魔力量 16247
ランク S級
装置に触れていたその少年は振り返る。
見た目は黒髪で瞳が赤色だった。
周囲はどよめき、皆がそのスクリーンに釘付けになっていた。
〜〜〜
観戦室
「ほぉ!今年一番ですかな!」
「S級…やっときましたか」
「今年は期待できそうだ!」
観戦室も盛り上がっていた。
ただ、1人を除いて。
〜〜〜
「16000!?同い年ですよね?」
ロディもまた盛り上がっている一人だった。
この間にも、数十、数百の人がGランクや不合格を貰っている。
目立つのは、ほんの一部、Gランクと評価された者も別の学園では秀才、天才と言われ続けてきた者たちだ。
彼らが今味わっている、感情は今後の生活に大きく影響を及ぼすだろう。
それがサミット学園、最高峰の生徒が集まる、最高峰の学園だ。
1次試験を突破しただけでも、家宝にするほどの難易度、今、フェイはその現実を黙って受け止めていた。
「あぁ…緊張します…」
刻一刻と順番が近づいてくる。
フーリア=キャンドル
魔力量 14400
ランク S級
ジン=メイトウ
魔力量 13790
ランク S級
同時にSランクが現れる。
片方は、紺色の帽子を被った少女フーリア。
もう片方は、狐の仮面を被り、刀を携わえた、ジン。
S級の流れは止まらない。
パリオン=デリズム
魔力量 15730
ランク S級
不表情の少年、何を考えているか分からない。
フェイの番が近づく。
受験者の半分が測定を終え、暇していた。
特に、最初のアンデリオは。
「暇だ、そういえばあの田舎者は?」
そう言い目を凝らす。
「おっ…いたいた」
アンデリオは少し考え、何かを思いつく。
「良いことを思いついたぞ…」
〜〜〜
観戦室
「いやはや、まだ半分も残っているとは」
「豊作ですな!」
上機嫌な上層部。
学園長は不快な笑みを零し、何かを楽しみに待っている。
〜〜〜
フェイの測定まで後3人になったとき。
後ろの少女が話しかけてきた。
「あ、あの、順番変わってくれませんか?」
震えながら話す、様子が変だ。
「どうしたんだい?震えてるよ?」
心配しながらその少女と目を合わす。
「実はトイレが近くて……」
その言葉を聞いたフェイは、黙って頷く。
「いいよ、先にどうぞ」
フェイがその少女に譲ろうと列から出た瞬間。
「おいおい!田舎者よ!横入りはだめだぞ?」
アンデリオが大声で叫ぶ。
「田舎者は順番も守れないのか!」
そっと少女を見ると、震え目を合わせようと
しない。
あぁ…なるほど、こいつに脅されたのか。
「さっさと一番後ろに下がれよな!」
アンデリオはニタニタ笑いながらその場を去る。
周りの目線が痛く、少女に被害が行くかもしれないため、また一番後ろから並ぶ。
「これで、あいつは一番最後だ!」
「悪目立ちを楽しみにしてるぜ!」
ロディが不思議そうに後ろに来る。
「フェイさん!あれ?」
「さっきまで一緒に並んでた気がするんですけど……」
測定を終えたロディは、フェイのいる最後尾まで戻ってきた。
ロディに事情を話す。
「また、あいつ卑劣なやつだ!」
ロディは怒りを顕にする。
「それで結果はどうだったんだ?」
「聞いて驚かないでくださいね!」
ロディ=ラテフ
魔力量 380
ランク G級
と書かれた紙を見せてきた。
「き、今日はあまり…魔力が出てない日だったので……」
そんな事を話していたときだった。
周りが今までに無いざわつきを見せる。
「な、なんだ?」
「まちがいだ…ろ?」
皆が見るスクリーンには。
エンロード
魔力量 86580
ランク S級オーバー
「な、なんですかあの魔力量は!?」
周りと比較しても規格外の魔力量だ。
「あれは、刀か?」
腰に紫色の刀を携えている。
その刀を見ていると不思議と力が抜けていくような気がする。
〜〜〜
観戦室
あまりの数字に上層部達が、絶句している。
「学園長…彼ですね?」
中でも平然を保っているスーツ姿の若者が何かを察したかのように問う。
「あぁ…彼だ」
「彼こそが、神童だ」
学園長は、軽々しくその発言をした。
「ただ……危険分子も混ざり込んでるみたいだ」
〜〜〜
フェイ以外の受験者が魔力量測定を終え、歓喜する者、地にひれ伏す者、呑気に話す者、ありとあらゆる人々が、最後の一人、フェイの魔力量測定に注目が集まる。
「あれ、噂の田舎者じゃない?」
「笑いを堪えるかどうか心配だ」
ただ、周りの期待は彼の落胆、自分よりしたであろうフェイを見下すために。
きっと今、各様の野次が飛び交っているだろう、そんな野次を無視し。
フェイは、黙ってその装置にふれる。
…
……
………
いや、実際には触れていなかった。
触れる前にその装置は………
フェイ=アリアス
魔力量 ✕
ランク ✕
その結果は、大半の人を笑わせるが。
ごく一部、Sランク達の額に汗をかかせた。