第5話 僕たち
〜〜〜
「貴様…何者じゃ?」
サンダリアの目には別人に見えていた。
「何者ですか?不思議なことを言いますね」
姿、形は同じ、ただ瞳の色が。
「フェイ…貴方の大好きな人間ですよ?」
黒色だった。
「フェイ、よく頑張りました。どんな強敵にも挑むその勇気、まさしく私達が求めている者」
「不思議なやつだ…」
サンダリアはアレフとの距離を縮める。
「まぁ良い所詮、B級魔法もロクに使えない子供だ」
サンダリアが雷を集め出す。
「フェイ様、覚えていますか?瞳の話を」
「瞳の色はその人の人生を表していると」
サンダリアの雷が一段と大きくなる。
「瞳には危険な色あります」
「例えば赤、今目の前にいる奴のような輩」
サンダリアの雷がより一層大きくなる。
「次に、濁った紫色」
サンダリアの雷が限界まで大きくなる。
「そして最も危険な瞳………それは」
「おしゃべりは、すんだか?青二才が!」
雷が光りだし禍々しい黄色のオーラを纏う。
「S級古雷魔法、サンダリア!!」
その刹那、黄色の閃光が全ての木を燃やし、まるで太陽が目の前にあるかのような錯覚に陥る。
山よりも大きく、森より大きく、この星より大きく感じるほどの雷の玉が高速で接近する。
「それは…黒色の瞳」
その禍々しい雷の玉は、突然消え去った。
「!?…………何が起こったのだ!」
一番驚いているのはサンダリア本人だった。
サンダリアは、怒りを顕にする。
「小僧!!今何をした!!」
森全体がその声量に震える。
「五月蝿いですね………」
その言葉を聞いたサンダリアが戦闘態勢に移行したとき。
「?級能力、SELECT」
次の瞬間、アレフの周りから無数のカードが宙を舞う。
「なんだ!?」
その中から、1枚カードを取る。
「【時計技術】」
突如アレフの後ろに大きな時計が現れる、その時計はじきに動きを止め。
…………………
「がはぁ!!」
その刹那、サンダリアは咄嗟に倒れ込む。
「な…何をした…いつの間に…近づいた?」
血を吐きながら問う。
「その無駄にでかい頭で考えてください」
「何を!!…小僧!!」
サンダリアが立ち上がろうとしたとき。
「ぐ……」
サンダリアの腹部にアレフの拳が食い込む。
「フェイ様を弄ぶなど……万死に値します」
「何故!?お前のような強者が!あんな小僧に従っているんだ!」
また拳が腹部に突き刺さる。
「小僧?貴方は少し今の立場を考えた方が良いですよ?」
途轍もない威圧がサンダリアを襲う。
「っ……もう…殺せ」
「我の負けだ……」
アレフが笑みを浮かべる。
「散々フェイ様に失礼な態度を取って、ただで死ねると思っているんですか?」
「我に何をするのだ…」
アレフは、少し考えた素振りを見せる。
「良いことを思いつきました」
「貴方は、これからフェイ様の従者として、護衛をしなさい」
サンダリアは大きく目を見開く。
「我が、その小僧に使えるじゃと?」
「我が負けを認めたのはお前であって、そいつじゃない断固として認めんぞ!」
その言葉を聞いたアレフは。
「?級能力、SELECT」
カードが散らばり、サンダリアがビビる。
「何が良いでしょうか?」
「これなんてどうでしょうか!?」
「【拷問官】」
そのカードを見せつけながら笑みを浮かべている。
そんなアレフに恐怖を覚えたサンダリアは。
「わ、分かった、分かったからそのカードをしまってくれ!」
「良い子ですね」
カードをしまい、話し始める。
「今のフェイ様は、お世辞にも強いとは言えません……貴方の仕事はフェイ様が強くなるまで邪魔しない程度に手を貸しなさい」
サンダリアは首をかしげる。
「我はどう手を貸したらよいのだ、この体だと目立ってしまうぞ?」
森の木々より大きいサンダリアの体は、ひときは、目立ってしまう。
「なら…これを使いましょう」
カードを取り出す。
「【魔物使い】」
アレフの服装が毛皮に変わる。
「はい、お手」
サンダリアは反射的に手を出す。
「な!我がこのような愚行を!」
その瞬間サンダリアの身体が徐々に小さくなり、やがて手のひらサイズまで、小さくなったた。
「なんじゃ!早く戻せ!」
身体が小さくなった影響か、声まで高く、幼くなっていた。
「これでフェイ様は不自由なく過ごせるでしょう」
「我が不自由ではないか!こんな小z…」
アレフがギロリと睨見つける。
「フェイ様に……シタガウナンテ」
「しっかり任務を果たせば元の姿に戻します」
「契約だからな……」
アレフはサンダリアを撫でながら言う。
「ペットはペットらしく、大人しくしてくださいね」
そう言いポケットの中に入れる。
「ゴボォ……息苦しい…」
アレフの黒色の瞳が薄まっていく。
「おっと…時間ですね……」
元の瞳の色に戻ると同時に倒れこんだ。
「………うぅ……」
薄まる意識の中、遠くから村長らしき人物がこちらに近づいて来てくるのを最後に、深い眠りにつく。
………………
(……ここは?)
満天の青空、涼しいそよ風、そこには懐かしの風景が広がっていた。
まだあの悲劇が起きてない頃の村の姿。
(あれは!)
母さん、村の皆が広場で立っている。
不思議と、そこにはフレインの姿はない。
(みんな!やっぱり悪い夢だったんだ!)
(今そっちに行くよ!!)
フェイは必死に走った、広場までの道を。
(はぁ!はぁ!はぁ……)
(おかしいな……足、遅くなったかな?)
目の前に皆がいるのに、走っているのに、手を伸ばしているのに、その距離は縮まらない。
(足が重い………何でだ……)
ふと目線を自分の足元に下げると。
(!!!)
足が徐々に光の粒子となって消えていた。
(嫌だ!!消えたくない!)
完全に足が消え、消えかけている手を使い、這いつくばって広場に向かう。
(母さん!!皆!!)
どれだけ呼びかけても皆は振り向いてくれない。
(どうして!!こっち向いてよ!!)
どれだけ叫ぼうとも、決してこの声は届かない。
やがて顔まで消え始める……。
(ああ……ああ……)
口がなくなり話せなくなる。
もはや目の周りだけとなったフェイ、その直後のこと。
村の皆がこちらを向く。
(あぁ…みんな…楽しそうだ)
誰一人悲しい顔していない、皆が笑顔の姿がそこにはあった。
(あそこに…行きたいなぁ)
心の底からそう思った、フェイは涙を流し、その雫が地面に落ちたとき。
隕石が皆の上空に現れた。
フェイは完全に消え去り、隕石がぶつかった音で目が覚めた。
………………
「はぁ!!!」
気がつくとそこは、見慣れたベッドの上だった。
「なんだか……変な夢をみた気がする」
激しい足音がこちらに近づいてくる。
「フェイ!!」
目を合わせると同時にフェイを抱きしめる。
「すまなかった……あんな目に合わせるつもりじゃなかった……」
何故か落ち着いていたフェイは話し始める。
「村長が助けてくれたおかげですよ」
ただ、感謝を述べるフェイに村長は、返事を返す。
「私は、ただ倒れていたフェイを家まで運んだだけだ…」
「え?村長が倒してくれたんじゃ?」
「なんの話か、さっぱりだ…何が起きたんだ?あの場所で」
本当に何も知らなそうな村長に、疑いをかける余地はなかった。
「それじゃいったい……」
そんな話をしていると、ポケットからゴソゴソと物音がする。
「え!!」
ポケットの中からガリガリに痩せた動物が出てきた。
「は、早く、飯を………」
ガリガリのサンダリアは、今にも倒れそうになっていた。
「なんだ…その生物は?」
村長がサンダリアを触ろうとしたとき、フェイのお腹が音が鳴る。
「3日間も寝ていたんだ…ごはんにしようか」
サンダリアにもご飯与え、村長はフェイに、休むように言った。
……………
自室にて。
「君、名前は?」
手の上に乗せその生物に話しかける。
「我はサンダリアだ、小僧」
その発言に驚き、距離をとる。
「な、何が目的だ!!」
あの頃の恐怖が蘇る。
「何って…そうか貴様、知らないのか」
「我は貴様の護衛を任されたのだ」
何かを知っているサンダリアに、問う。
「何で、そんな姿に?」
前の姿からは想像もつかない可愛らしい姿に戸惑う。
「屈辱的だ…貴様にやられたのだ」
「僕?僕は君の攻撃で気絶したんじゃ」
認識が合わないサンダリアに、首を傾げる。
「正確に言えば、もう一人の貴様にやられたんだ」
「もう一人の僕?」
不思議な事を言うサンダリア。
「そうだ、もう一人の貴……さ…」
サンダリアの脳に直接警告が聞こえた。
(【大人しく】ですよ?サンダリア?)
サンダリアは、突如滝汗を出し、黙り込む。
「急にどうしたの?」
「いや、なんでも」
「とりあえず、一時的だが守ってやる」
急展開に、まだ整理ができていない。
「まだ信用出来ない、一度殺されかけたんだ」
実際、今すぐにでも僕のことは殺せるだろう、ただ元の体に戻りたいからしていないだけで。
「勝手にしろ、お前はただ日々を過ごせば良い」
そう言い、人のベッドを勝手に使い眠りにつく。
「いったい何が起きているんだ……」
サンダリアと少し距離を置き、フェイも眠りにつく。
………………
サミット学園、学園長室
「無事に任務を達成しました……」
黒を基調とした服装の女性が話している。
「ご苦労………」
風格のある男性が高級感溢れる椅子に座っている。
「今年は、サミット学園全盛期となるだろう」
腕を組み、女性に話し始めた。
「そうですね、あの五大財閥に加えて優良株から入学試験の手続きが完了しています」
男性はニヤリと笑みを浮かべる。
「まさに、黄金世代だ」
「君も励み給えよ」
その言葉の向こうには一人の少年が座っていた。
「はい、仰せのままに…」
少年の腰に携えた刀が月光に照らされる。