第4話 格上
〜〜〜
右手に剣を取り、左手には氷を纏う。
「やろうか!」
少しの笑みと汗が溢れ出る、生死をかけた戦いが始まった。
サンダータイガーが飛びついてきた。
「くっ……」
寸前を避けるが鋭利な爪が服を少し破く。
「E級氷魔法、氷弾」
小石程度の氷が途轍もない速さでサンダータイガーを襲う。
「キャウン!」
サンダータイガーの鳴き声が森をこだまする。
「慈悲はかけないぞ!」
弱肉強食のこの森では慈悲をかける余裕はない、少しの同情が自身の破滅につながる。
氷で怯んだサンダータイガーの首を剣で貫く。
「これで1体目……」
仲間がやられたことによって怖気づく残りの2体。
「その隙が命取りだ」
投げ飛ばした剣がサンダータイガーの腕に突き刺さる。
「D級氷魔法、凍傷」
剣が刺さったところから氷に囲われ、やがて大きな氷塊になった。
残った一匹は無謀にも飛びついてくる。
「D級氷魔法、吹雪」
凍るほどの風を浴びたサンダータイガーは、その場に固まった。
「これで終わり………」
目の前には自分がやった殺しの惨状が顕となっていた。
「これを、僕が……」
罪悪感に包まれる、もし僕がここにいなかったら彼らは死ななかったのにと。
僕は自身を恨む、彼らに慈悲を与えないほどの未熟な実力に。
「もっと強くなろう…それが解決法だ」
こんなことでクヨクヨしている場合じゃない、皆を救うんだ。
剣を拾い、倒した証として耳を剥いでその場を後にする。
「ふぅ…」
その後またサンダータイガーを3匹仕留める。
「今日は休もう」
辺りは暗くなり森は暗闇に支配された。
カバンに入っていたテントを設置し、睡眠の準備を整える。
「1日で6体か…意外と早く帰れそうだ…」
ん?ちょっと待てよ?
寝袋から起き上がる。
「どうやって帰ればいいんだ!」
村長がワープで転送したせいで帰り道が分からないことに気づく。
「はぁ〜、また明日考えよう」
色々あったからか、いつも寝つきが悪いのに、今日はすぐに寝れた。
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「あ…ここは」
いつの日か見た夢の光景だ。
一面真っ白な景色、殺風景とはまさにこのことだ。
「てことは、やっぱり居るんだね…」
コツコツ…コツコツ…
彼の足音が聞こえる。
「また会いましたね、私」
「久しぶり、アレフ」
彼と会うのは2回目なのに、何故か変に心地よさを感じる。
「ここは夢の中なの?」
「夢とはまた別の場所ですね、言うなれば精神の世界でしょうか」
丁寧な口調で話す彼が自分と同じ顔をしているのは、不思議な感覚だ。
「夢にしては感覚が鋭く感じるなぁ」
「ここは夢じゃないですから」
よくできた夢だ、心から感心する。
「君だけにできる相談何だけど聞いてくれるかい?」
「ええもちろん、お聞かせ願います。」
何故だろう彼には何でも話してしまいそうだ。
「僕はランク1位になれると思うかい?」
我ながら惨めだ、夢に悩みを聞いてもらっている。
「なれますよ、他でもない貴方様なら」
「はは、君はそう言うだろうね」
予想にしていた言葉だ、全く自分に甘いんだな僕は。
「どうすれば、強くなれると思う?」
「やはり、格上との対戦でしょう、今の貴方様は、サンダータイガーと格下を相手していますよね」
「どんな格上だろうとも、挑む度胸…それがこの世で必要です」
何で彼が知っているんだ?そんな疑問は夢の中という事実だけでなくなった。
「格上かぁ〜死にそうになったらどうするだ?」
「その時は私が守りましょう」
「貴方様が疲れたとき、私がお守りします」
嘘でも心強い、仲間とはこのような存在なんだろうか。
「そうだね…その時は君に任せるよ」
また、視界がぼやけてきた。
アレフは時計を取り出して言う。
「またお会いしましょう、おやすみなさい」
意識が遠のく、アレフの顔を認識できなくなった次の瞬間。
〜〜〜〜〜〜
「は!」
寝袋から起き上がる。
「やっぱり異質な夢だ…内容も大体覚えている」
ふとアレフが言っていたことを思い出す。
「格上………か」
テントを片付け移動する。
3時間後
「あれ?こんなにも魔獣いなかったけ?」
昨日との変わりように不思議に思う。
「あれはサンダータイガー?」
また3匹のサンダータイガーを見つける。
「倒すだけ倒そう」
作業のように討伐し、耳を剥ぐ。
「後1体か、全員サンダータイガーは村長に怒られるか?」
そんな事を言っていたとき。
ドシ…ドシ…
重々しい音が森を這う。
「なんだこの音は…」
悩む隙を与えずにその音源は現れる。
「!!!」
大きいそれも2倍、3倍、いや5倍大きいサンダータイガーだ。
「鑑定!」
個体名 雷鳴タイガーキング
種族 魔獣
ランク B
サンダータイガーを統率する、ボス個体のサイダータイガー、基本その森の支配者とされている。
「ランクB!!これが格上!!」
胸が張り裂けそうだ…今にも襲ってきそうなその生物はこちらを睨みつけている。
大量のサンダータイガーが殺されたのだ、きっと怒っているのだろう。
「来る!」
巨大な身体なのに通常のサンダータイガーより速いその速度に怪我を負う。
「速い……」
頬をかすめ少しの血が垂れる。
「完全にやる気だな」
右手に握りしめたその剣は赤色に染まっていた。
「さぁ来い!」
巨大かつ鋭利な爪を避け、剣で斬りつける。
「皮が分厚すぎる」
筋肉にたどり着けたかすら怪しい。
「なら魔法だ」
左手をタイガーキングに向ける。
「C級氷魔法、氷塊」
3メートルほど、奴の2割ほどの氷をぶつける。
「どうだ?」
かすかに弱るタイガーキングの姿がそこにはあった。
「今だ!」
すかさず、氷を纏った剣を突き刺す。
「ギャオオオン!!」
腕に突き刺さった、その剣に
「D級氷魔法、凍傷!」
タイガーキングの腕が氷に包まれていく。
「効いてる!」
油断したその時、氷に包まれた手ごと、殴りかかってきた。
「ぐぁは!」
そのまま吹き飛ばされ木にぶつかり止まった。
「なんて…威力だ」
タイガーキングは、こちらに接近し腕を振り上げる。
「……っ」
地面を転がりその攻撃を避ける。
さっきまでいた木は根元から引き裂かれていた。
「一発一発が規格違いだ」
だが、凍傷の侵食がまだ続いている。
タイガーキングは腕の氷を壊そうと木を殴る。
「今のうちに……」
両手をタイガーキングに向け、目を閉じる。
「落ち着け……」
深呼吸をする、まだタイガーキングは凍傷に気を取られている。
氷のイメージが脳裏に浮かぶ。
「今だ!」
「B級氷魔法、氷塊弾!」
先程の氷塊が氷弾ほどの速さでタイガーキングに向かう。
タイガーキングは、その凍傷のせいで避けれない、そのまま直撃した。
気を失ったタイガーキングは、そのまま凍傷に侵食され、氷漬けになった。
「やった……やった!!」
「B級を倒したんだ!」
達成感が心地よい…こんなにも強くなったのだと実感する。
「さぁ耳を剥ごう」
耳を剥ごうと近づこうとした次の瞬間。
咄嗟に茂みに隠れた。
「なんだ?この震えは?」
止まらない手の震えに困惑する。
「……………」
この震えは恐怖、生物は自力ではどうしうもないほどの存在に恐怖を覚え、身を隠す。
今フェイがしていることは、ごく普通の生物的本能だ。
気づかなかった、この殺意、覇気、威圧、タイガーキング達は、僕を探したいのではない。
ある者から逃げていたのだ……。
「あれは………」
絶句、言葉が詰まる、いや言葉を発してはいけない、居場所を晒してはいけない、フェイの本能がそう告げているのだ。
サンダータイガーをゆうに超えるほどの輝く金色、まるで世界に穴が空いたかのような漆黒の毛。
雷鳴タイガーキング?やつがキングなら今、目の前にいるこの生物はなんと表せばいいだ。
「鑑定…」
個体名 雷帝サンダリア
種族 魔獣
ランク S 51位
雷帝、この世に存在する、五大魔獣の1体、 神鳴りまさに神が鳴る彼が雄叫びを上げたとき周囲では三日三晩雷が続いたとか。
全身から鳥肌が立つ、やはり勘は正しかった、本能は正しかった。
魔獣は最弱の種族、そう言われているがSランク、そこにいる者たちはレベルが違う。
武具、生物、道具等、全ての事柄において、Sランクに共通すること、それは。
世界100位以内、Sと名がつくそれらは、 E〜A、それ以上の差がある、壁がある、完全なる強者。
今、フェイが相対しているのは、そのSランク、伝説とも言えようその生物がいま目の前にいる。
「そこにいるのはわかっているぞ、人間」
肝を冷やす、バレている。
ひどく低いその声は、森すらも悲鳴をあげている。
「出てこないのなら、そのままあの世行きになるぞ」
その言葉に反射的に茂みから飛び出す。
「おぉおぉ、いい子だ」
魔獣が、喋っている相当な知力がある。
「おかしいな…人間は喋るんじゃないのか?」
そう言い赤色の瞳がこちらをギロリと見る。
「しゃ、しゃべれましゅ……」
緊張のあまり噛んでしまった。
「はははぁ!この小僧今噛みよったな!」
笑い声でさえ、身体が跳ね返りそうだ。
「この森は暇でなぁ…たまに来る人間を使って遊んでいるんじゃ」
そう言い嫌な笑みを浮かべる。
「人間は面白いぞ!他の生物じゃ見せない本当の絶望の顔を見せてくれる!」
雷帝はニヤリと笑う。
「今のお主も中々いい顔をしておるぞ」
今にも泣き叫びそうだった、早く逃げ出したいその一心だった。
「人間、質問に答えれたら見逃してやるぞ」
「今までもそうしてきたからなぁ」
曇り空だった空から太陽が光を差してきた。
「おぉおぉ、そんなに嬉しいか」
少しの希望に笑みがこぼれる。
光が辺りを照らし周囲が明るくなった。
「簡単な質問だぞ…」
「我をここに閉じ込めた人間はどこにいるんだ?」
太陽はまた雲に遮られ、周囲はどんどん暗くなっていく。
「どうしたぁ!」
「答えられないのか!」
知るはずのない質問に行き場のない怒りがこみ上げてくる。
「我を閉じ込めた、あの生意気な人間!!」
「油断したところを突いただけの人間が!!」
その言葉共に雷が周囲に落ちてくる。
「ほ〜らぁ、答えておくれ」
「………………」
答えたら死ぬ、答えなくても死ぬ、どっちみち死ぬのは確定してるのなら。
「ガ……リ……」
「なんじゃ!?はっきりと言わんか!」
腹に力を入れ叫ぶ。
「ガリオン!!!」
咄嗟に子供の頃読んでいた本の英雄の名前を言った。
「ガリオンじゃとぉ?」
雷帝が耳元で囁く。
「そいつはもう食った」
身の毛がよだつ、その場に立ちつくす。
「あいつは強かったなぁ!」
「そして美味だったぁ!」
英雄がこいつに食われた?この世に、百も居ない憧れの存在が?
「ところで…」
「貴様今…嘘をついたな」
大木ほどの爪がこちらに近づいてくる。
「我はあの人間の次に嘘が大嫌いじゃ」
「なぁ小僧!?」
身体が勝手に動く。
「B級氷魔法、氷塊弾」
タイガーキングを仕留めた氷がサンダリアに向かう。
たしかに直撃はしたが…。
「今のが貴様の全力か?」
サンダリアの口から空気が漏れる。
「プッ…ふははは!!」
「今の魔法か?それもB級といったか?」
「この数百年でこれほど魔法は退化したのだな!」
サンダリアの笑いは数分続いた。
「はー…はー…笑い死にそうだったぞ…」
「やはり人間は面白い!」
〜〜〜〜
あぁ…この感覚、あの時と似ている。
何もできずただ今から起こる惨劇に身を任せるしかない。
あの隕石のとき、僕は目の前の絶望に無力だった。
今は、どうだろう?
本当に何もできないのか?
本当に死を待つだけなのか?
母さんが救ってくれた命をこんな簡単に捨てるのか?
……………
違う、今こそ挑む時だ。
戦っても勝てなくても、挑むだけ無駄でも、ただ受け入れるだけは嫌だ!。
「どんな格上だろうとも、挑む度胸…それがこの世で必要です」
アレフの言葉を思い出す。
あぁ、行こう。
こんなとこに逃げてる場合じゃない。
〜〜〜〜
「もう飽きたな、小僧の顔も」
爪がこちらに向かってきたとき。
「は!」
その爪に持っていた剣を刺す。
「なんだ?爪切りか?」
ほんの先端だけ食い込む。
「D級氷魔法、凍傷!!」
その剣から氷が発生する。
「小僧………まさか戦うつもりか?」
「こんな舐めた魔法でかぁぁ!!!」
サンダリアが雄叫びを上げる、その衝撃から木々が倒れ、砂ぼこりが舞う。
「どこだぁぁ?小僧!!」
やがて砂ぼこりが晴れ、小さな青色の光が輝く。
「そこかぁ!また痒い氷魔法を撃つのか!」
凍傷は、ただの囮に過ぎない。
本命はこれだ!
「B級氷魔法、大氷塊!」
サンダリアの上に木ほどの氷が現れる。
「こんなの氷で何が変わる?」
サンダリアが氷を壊そうとしたその刹那。
「B級光魔法、巨光線!」
大氷塊に巨光線が当たる。
「A級合体魔法、レーザーレイ!!」
さらに太くなった光線がサンダリアを覆う。
「はぁ…はぁ……」
全てを出尽くした……完全に魔力切れだ。
「目の前がぼやける……」
せめて…気絶くらいしてくれ……。
「……だから…言っているだろう」
「お前のA級魔法は、劣化していると」
そこには無傷のサンダリアの姿があった。
「嘘…だろ?」
薄々分かっていたが信じたくなかった。
「お前たちのA級魔法は我々で言うD級にも過ぎん」
もう、出し尽くした。
「本当のA級魔法を見せてやろう」
サンダリアの爪から地面を抉るほどの雷の塊が現れる。
その雷の塊を僕は綺麗だと思ってしまった。
一面黄色、最後の景色には良いのかもしれない。
「終わりだ…小僧」
やれることは全部やった、終わりだ。
「A級古雷魔法、サンダリアオーブ」
放たれたそれは、遠くからでも身体が痺れた。
当たる前に僕は気を失ってしまった。
ドゴォォ!!!!
…………………
「おっと、山を消してしまった、小僧相手に力を出しすぎた」
「また、遊戯を探そうか!はははぁ!」
その場を去ろうとするサンダリアは違和感に気づく。
「小僧?」
灰すら残らないはずのフェイのいた場所に一人の人間が立っていた。
「小僧…無駄な手間を欠かs…………」
何かがおかしい、その見下していた人間は、異質な覇気を放っていた。
「貴様…何者じゃ?」
サンダリアの目には別人に見えていた。
「何者ですか?不思議なことを言いますね」
姿、形は同じ、ただ瞳の色が。
「フェイ…貴方の大好きな人間ですよ?」
黒色だった。