第1話 幸せの在り処
【ランキング】それはこの世界の均衡を保つ単純かつ合理的なシステム。
全ての要素にG〜S【ランク】がつけられ、その中には当たり前かのように生物も含まれている。
魔法と剣が主軸のこの世界では、強さがランクに反映される。
そしてランキングを統べるものつまり1位には神の試練が与えられ、達成すれば願いが一つ叶うだとか。
人々は己の願いを叶えようと日々争い続け、永遠に続く戦争の火種となる。
………
雲や山が近くに感じるほどの良い天気の日。
とある平和な村【サクチュン】に一人の少年が暮らしていた。
その少年の名前はフェイ=アリアス、木こりを生業とする14歳の子どもである。
幼い頃から父親が村を出てから帰ってこないため、母親、妹と共に暮らしている。
そして今日はフェイの誕生日であり、成人の日でもある。
「ふわぁ〜……今日は大事な日だからな」
ベットから立ち上がり食卓の1階へと向かう。
「お兄ちゃん!誕生日おめでとう!」
元気よく迎えてくれるのは、妹のフレイン=アリアス、10歳でまだ遊び呆けている。
「おはよう、フェイ、ご飯食べる?」
そう言ってこちらを見る母さん。
「そうだね、食べるよ」
食卓の椅子に座る。
「お兄ちゃん…本当に行っちゃうの?」
不安そうにフレインがこちらを見る。
「不安かい?もう決めたんだ…」
「僕がランカーとなって父さんを見つけに行くよ」
※【ランカー】
常に危険と隣り合わせで力をつけ、ランクを上げる人々をさす。
「不安だよ……兄ちゃん…」
「大丈夫だよ、兄ちゃんを信じろ」
「兄ちゃん村の中だと強い方なんだぞ!」
フレインの頭を撫で、食事を終わらせる。
「フェイ、誕生日プレゼントがあるの」
母さんが袋を取り出し、中身を出す。
「これは剣?………」
予想もしていなかった、上物そうな剣が入っていた。
「これは、お父さんが残していった剣よ」
「家に残しておくより、あなたに使われる方がお父さん喜ぶと思うから」
そう言って、僕に渡す。
「父さん、ありがとう」
剣を握りしめ、出ていく支度を整えて玄関へと向かう。
「いつでも戻ってきていいからね」
母さんが優しく僕を包む。
「はい…母さん」
「行ってきます!」
優しく見届けてくれる2人を後に村の広場へ向かう。
「よぉ〜フェイの小僧!!」
金髪でくせ毛の特徴を持つ、鍛冶師のバリスが話しかけてくる。
「お前さん、村を出ていくらしいな?」
「はい、まだ早かったですか?」
止められると覚悟していたそのとき。
「それがお前さんの望んでいたことなんだろ?なら誰も止めやしねぇよ!」
「ただ次戻ってきたとき俺の鍛冶屋を訪ねてくれよ!傑作の武具を揃えておくぜ!」
そう言って僕の肩をポンと叩いた。
「はい!ありがとうございます!!」
「あれ?お前さんの妹じゃねぇか?」
指をさしているその先には、こちらに走ってきているフレインの姿があった。
「お兄…ちゃん!やっぱり最後まで…送り迎えするね!」
息を切らしながら話すフレインを優しくなでる。
「ありがとう…フレイン」
いつの間にかバリスはその場を離れていた。
「一緒に村長のところへ行こうか」
フレインと手を繋ぎながら広場を歩く。
「やぁ〜〜フェイ〜」
こちらへ手を振るのは、騎士のアルマ、いつもの気だるげそうにパトロールをしている。
「今日は外回りのはずじゃ?またサボってるんですか?」
指と首を横に振りながらアルマは語る。
「危ない奴ほど、直ぐ側に居るんだよ……」
真剣な眼差しで僕らを見つめる。
「今まで村人同士の騒動ってありましたっけ?」
アルマの額に汗が現れ始め、身体の向きを反対方向へむける。
「うわぁ〜向こうに怪しい人がいる〜!」
「今すぐにでも行かないと〜」
そう言ってバリスのところへ走り出した。
「やぁ〜君怪しいねぇ〜」
「へぇ?」
素っ頓狂な声が遠くまで聞こえてくる。
「いいから〜」
「おい!アルマ!その腕を離せ!!」
強引に腕を引っ張られてバリスは遠くへと消えていった。
「仲良しだね!」
一連の流れを見ていたフレインがこちらを見ながら言ってくる。
「う〜ん……そうだね!」
バリスの健闘を祈って、再び村長の家への道どりを辿る。
「誕生日おめでとう!」
「大人になったねぇ…」
「応援してるよ!」
苦楽を共にした村の皆からの声掛けに、予定よりも遅く村長の家へとたどり着く。
「おお!来たか!」
村長にしてはまだ若い35歳のボルドさんだ。
「フェイ…決めたか?」
「村長さん…やっぱり僕ランカーになります!」
「ふむ……ランカーの道は険しいぞ」
「この日のために魔法や剣術を学んできました」
村長は、こちらに3本指を立てて言う。
「3つ、3つだけ守ってほしいことがある」
フェイはコクリと頷き次の言葉を待つ。
「一つ、力に呑まれるな」
「二つ、この世は悪人もいる」
「そして三つ………」
少しの沈黙が辺りを包む。
「死ぬな」
その端的かつ的確な言葉は、僕の返答を少し遅らせた。
「フェイ、お前にはフレインがいるだろう」
「その子にとってお前は世界に一人だけのお兄ちゃんだ…」
「その子に限った話じゃない、この村すべての人にとってお前は掛け替えの無い存在なんだ」
その言葉にフレインや村の人々の顔を思い浮かべる。
「お兄ちゃん…?」
自然と強く握っていたその手は、汗ばみフレインを不安にさせた。
「死にません…約束します!僕はこの村で皆に囲まれながら死にます!」
そう言い両手を胸に当てる、この村では永遠の約束を示す。
「おいおい、大げさだなぁ!」
「まぁ…ともあれ約束だ!実は昨日から作成してもらってるんだ」
「ランカー証を!」
※【ランカー証】
ランカーの【ランク】【名前】【経歴】【実績】【出身地】等の個人情報が書かれたランカーの証明書。
「隣町まで取りに行ってくるよ、少し待っててくれ」
村長は外出する準備を整えて家を出た。
村長の家に2人残されたフェイとフレインはお互いに顔を見合わせる。
「よし…家へ送るよ、一人じゃ危ないだろ?」
「あれ?それじゃ、送り迎えの意味がなくならない?」
2人は笑いながら家への帰路を辿る。
「あら?フェイ帰ってきたの?」
あまりにも早い再会に母さんも笑っていた。
「じゃあ、行くよ」
本当のお別れを感じ、物寂しさを覚える。
「お兄ちゃん!」
フレインが突然抱きついてきた。
「絶対!絶対!絶っったい!帰ってきてね!」
いつもは泣き虫なフレインが泣くのを堪えている。
「絶対だ…」
ずっと我慢してきた涙が溢れそうになる。
「いってらっしゃーい!!」
最後で声をかけてくれる、フレインと母さんに手を振ろうとと振り返ったとき…………。
「え……」
フレインと母さんの後ろの空には禍々しい紫色に光る巨大な隕石が降ってきていた。
直撃すれば村が壊滅するほどの大きさに恐怖で動けなくなる。
きっと自分は悪い幻覚でも見てるんだと、そう思っていたとき。
「なに……あれ…」
フレインがその隕石を認識したことによってそんな小さな希望が消え失せる。
無慈悲にもどんどん近づいてくるその隕石はより大きく、より悍ましく見えた。
「フェイ!フレイン!」
母さんが、僕とフレインを抱きかかえ目を瞑る。
次の瞬間、僕とフレインの周りに透明な壁が
現れる。
その透明な壁に包まれ、外の音が何も聞こえなくなった。
壁越しに手を合わせている、母さんが涙を浮かべながら何かを話しているが、何も聞こえない。
「(母さん!!!)」
何も聞こえない。
何も言えない。
何も感じれない。
ただその感覚が気持ち悪い。
その無限にも思えた苦痛の時間も光が辺りを包む激しい衝撃と共に無くなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………っ」
目が覚める、母さんが守ってくれたからか、四肢の節々が痛むだけで済んでいた。
薄暗い雨が降り、辺りは黒色の煙に包まれ視界が悪くなっている。
「フレイン!!母さん!!」
いくら呼びかけても、一向に返ってこない。
「そうだ…広場へ行こう、きっと皆集まってるはずだ」
そう言い、村の広場へと向かう。
道中、あったはずの家は瓦礫の塊となり、いつも通っていた道かどうか疑ってしまう。
少しの時間が経ち煙が消え村の全貌を視認する。
「なんだよ……これ」
しかし、目に映ったのは荒廃しきった村の姿だった。
胸がざわつき、急ぎ足で広場へ向かう。
「誰か!!!居ませんか!!!」
広場にたどり着き大声で叫ぶ。
あんなにも人がいた広場には、もう誰もいない、誰も返事しない。
疲弊しきった体は、自然と膝から崩れ落ちる。
「なんでだよ!!!」
力強く地面を叩き、ただただ叫ぶ。
「どうして!!!」
「こんなにも簡単に……」
久しく流していなかった涙が溢れ出る。
「なんでなんで、なんでなんで、なんでなんで、なんでなんで、なんでなんで!!!!」
「悔しいよぉ…フレイン、母さん…」
世界が黒く染まる気がした。
すると奥の方から足音が聞こえ人影が見えてきた。
「なんだ…これは……」
村長だ、隣町にランカー帳を取りに行っていたから無事だった。
「フェイ……」
村長がゆっくり近づいて来て抱き寄せる。
「フェイ…怖かったろう、悲しいだろう、悔しいだろう」
「今は……泣いていいぞ…」
その言葉が引き金となり、村長の胸の中で涙があふれ出る。
村長が今どんな顔をしているか、分からないがすすり泣きの声だけが聞こえた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次に目が覚めたときベットで横たわっていた。
「ここは?」
ベットから立ち上がりその部屋を後にする。
「おぉ、フェイ起きたか」
部屋を出ると村長が椅子に座っていた。
「ここは、どこですか?」
「ここは、災害時に使う用だった、別荘だ。」
一連の出来事は本当に起きたことなんだと再認識する。
「フェイに聞きたいことがある」
村長の向かい側の椅子に座り話を聞く姿勢をとる。
「まだ、ランカーになりたいか?」
分かれ道が多くあったはずが今や一本道へと変わっていた。
「はい…ランカーになりたいです」
「やっぱりお父さんか?」
その問いに首を横に振る。
「お父さんを探すためにランカーになるのではなく」
「村をもとに戻すという願いを叶えてもらうためにランカーになります」
村長はじっとこちらを見つめる。
「願いが叶うこと自体、本当かどうか分からないぞ」
「それでも、可能性があるなら、僕はその道を進みます」
村長は、ポケットからカードを取り出した。
「随分と遅れてしまった」
「誕生日おめでとう、フェイ」
村長が持っていたのは、僕のランカー証だった。
「必ず……救うよ、みんな」
Gランクと書かれたそのカードは、少しだけ輝いて見えた。