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1.姉の婚約をぶち壊す妹

 


「マリア……どうしていつも私の邪魔をするの……?」


 悲しそうにアリシア姉様に言われて、わたしも悲しくなった。

「ごめんなさい、お姉様。わたし……そんなつもりはないんです」


 本当の本当の本当に、そんなつもりはこれっぽっちもないのだが、お姉様の邪魔をしていることは事実なのだ。

 泣きたい。





 わたしの名前はマリアベル・ヴィナ・ルクセントール。

 ルクセントール伯爵家の次女だ。

 ほとんど外出しないのに何故か世間では妖精姫、なんて呼ばれている、か弱くて儚げな令嬢。


 それもその筈、生まれつきめちゃくちゃ体が弱くて三日活動したら一日寝込むのが日々のサイクル。消えいってしまいそうな白い肌、と称されるのは、単純に陽の光の下を出歩くことがほとんどない所為。吸血鬼もびっくりの引き籠りだからだ。

 お父様譲りのこの銀の髪と薄青い瞳も、影の薄さを助長させていると思う。全体的にうっすいのだ。


 誰に何を言われてもほんのり微笑んで頷くのも、口論をする元気がないから。そりゃあこんなに虚弱な子供相手に、いちいち喧嘩しようなんて人もいないだろうけど。

 従順なんじゃないんです、本当に体力がないだけ。

 そんなわけで、ほぼほぼ屋敷の中、それも一番いるのがベッドの上、という生活を送っている。



 優しくて心配性の両親にも迷惑をかけているが、わたしにとって一番申し訳ないのが、二つ年上のお姉様に対してだ。

 アリシア・ヴィナ・ルクセントール。

 顔立ちがお母様似のわたしと違い、きりっとしたお父様似のお顔立ちのアリシア姉様はしっかり者で慈悲深く、我慢強い。

 いや、元々は我慢強い人じゃなかったかもしれないけれど、わたしの所為で我慢を強いられているのだ。

 当家の子供は、虚弱のわたしとしっかり者のお姉様だけ。当然お姉様が婿を迎え入れることが望まれている。

 家を繋いでいくのは貴族の義務、それをよく心得ているお姉様は淑女としての嗜みをよくよく身に付け、美しく着飾り社交界へと出かけていく。


 すると家柄もお顔も性格もいい自慢のお姉様なので、すぐに求婚者が現れる。

 だが求婚者の彼が我が家に来て、お姉様と過ごしているところにうっかりわたしが通りかかったりしたらもうお仕舞い。

 儚い美少女と言われている、確かに虚弱全開、守ってあげたくなるというか人に守ってもらえないとすぐ野垂れ死にそうなわたしと、家を継ぐ為に婿を探しているしっかり者のお姉様。


 殿方の気持ちというものは不思議なもので、どう考えても健康でしっかりしているお姉様の方が伴侶に相応しいのに、守ってあげたい、という庇護欲の一点突破で皆わたしのことを好きになってしまうのだ。


 アリシア姉様はそれはもうよく出来た人なので、わたしが求婚相手を誘惑したわけじゃないことはよく分かってくれているのだが、それでも何人も重なるといい加減うんざりだろう。

 わたしに悪意はないけれど、悪意がないからこそ責めることも出来ず、しかし事実として殿方の心を奪ってしまっている現状である。

 わたしの方でもなるべくお客様がいらしている日は部屋から出ないようにしているのだが、体調がいい日はなるべく庭を散歩なぞしたほうがいい、と医者に言われているものだからままならない。


 ここなら大丈夫だろう、と裏庭なんかをヨロヨロと歩いていると、何の因果かそこにバッタリお姉様の求婚者に出くわすのだ。

 究極的に、間も悪い女、それがわたしである。


 そしてついに、最近お姉様とかなりいいカンジになっていた男爵家の次男、ラウール様と出くわしてしまい、一発でノックダウン、一目で虜にしてしまったものだからさぁ、大変。

 美しいって罪ねっ……なんてふざける余裕も元気もありゃしない。

 お姉様も慎重に慎重を重ね、屋敷ではわたしとラウール様が出くわさないように双方の動向に気を配っていた。わたしも息を潜めるように自室で丸くなって過ごし、なんとか彼とお姉様は逢瀬を重ね、そろそろ本プロポーズ、という段になって油断したわたしが悪かったのだ。


 その日、楽しみにしていた薔薇が咲いたというので、ラウール様の訪問の予定もなかったことだし、と虚弱ながらも意気揚々と庭に出たわたし。

 本当に綺麗に咲いている薔薇を愛でて、幸せ全開でゆるっゆるの笑顔を浮かべて堪能していたのだが、自分の間の悪さをナメてました。


 バサッと何かが落ちる音がして、不思議に思って振り向くとそこにはお姉様の求婚者であるラウール様が立っていたのだ。

 アポなし訪問は紳士じゃありませんよ!? サプライズが功を奏した前例は少ないです!!


「……驚いた、本当に妖精のようですね」

 彼は落としてしまった花束を拾い丁寧に払うと、跪いてそれをわたしに差し出した。

「一目で恋に落ちました、お嬢さん、僕と結婚してください」

 なんですってー!!!


 真っ青になるわたしと、駆けつけたお姉様の悲鳴、きらきらした熱い視線でわたしを見つめるラウール様。

 修羅場of修羅場。修羅場の見本みたいな光景である。

 ちなみにわたしは衝撃で気絶した。虚弱っ!! 気絶したいのはお姉様のほうに違いないのにっ





 そして数日かけてようやく回復した頃に、冒頭のお姉様の言葉だ。致し方なし。

 むしろわたしがお姉様の立場だったら「なんてことしてくれてんのよ、この泥棒猫!」ぐらい言ってると思う。本当に、わたしの所為なのに我慢強くて優しい人だ。


 そして、ここに来てようやくわたしも覚悟を決めた。

 決めるのが遅すぎたかもしれないが、それはそれ。まだ社交界デビューする年にも至っていない虚弱な子供なので、これからの行いでどうか許してほしいと願っている。


 そこからのわたしは、我ながら精力的だった。

 自分の体調をよくよく鑑みつつ、まず貴族名鑑のページを片っ端から捲って条件に合う人を探す。侍女や家庭教師の、貴族の女性に聞き取り調査もして、候補を絞っていった。

 その結果この人なら、という方をようやく見つけたのだ。


 さて。

 まずはわたしに甘い両親への交渉である。

 いつもは虚弱な所為で、お姉様をよそにわたしばかりが気遣われることに申し訳なさを感じていたが今日だけはわたしの作戦通りに事を運ぶ為に、自分の境遇を最大限に利用させてもらいます。


「お父様。わたし、シェフィールド伯爵のお嫁様になりたいです」

「シェフィールド伯爵……? あそこのご子息は確かまだ三歳ぐらいじゃなかったか」

 執務室に行きそう切り出すと、案の定お父様は首を傾げた。

「ご子息ではありませんわ。伯爵ご本人です」

「本人!? 何を言ってるんだ、マリアベル、伯爵はお前より十も年上だぞ!」

 そう、ジェラルド・シェフィールド伯爵はわたしのちょうど十歳年上の現在二十五歳。三歳のご子息がいらして、去年奥様を亡くされたばかり。


 彼こそわたしが嫁ぐことを望む、完璧に条件を満たしたお方なのだ!



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