火の点かない煙草 仇
人間と違って獣人は何倍もの力を持っている。己より握力のある巨体を殴った所で、所詮人間の力など幼子に軽く殴られたみたいなものだ。
「おらっ、どうしたぁ!男の癖に弱ぇなぁッ!防戦一方か!?まぁ、良いサンドバッグ…に―――「耳元で喚くんじゃあねぇ」僅か小一時間の効き目に過ぎないが、麻酔銃を肩に撃ち込めば、バタリと巨体の獣人は地面に倒れ込んだ。「うるせぇから寝てろ」
1人の獣人を退治してから、どれだけ時間が経過しただろうか。2対多で攻撃と防戦が永遠と繰り返されるばかり。
だが、必ずしも撃った弾が一発で命中するわけもなく、弾数が底を尽きようとしていた。
「(まずい…致命傷を負わせて足止めはしてるけど、斬っても撃っても這い上がってくる…ッ。いくら力がある亜人だからってこれは異常過ぎる…!まさか―――)秋くん、コイツ等異常をきたしてる!」
「あぁ…!俺達の体力が先に底が尽きそうだ…。コイツ等を纏めて片してから、1人ふんぞり返ってるリーダーさんに挨拶しないとな」
「しっかり決めてよ」
「言われなくても」
――――我が名は津田七瀬。煙草屋店主の元に名を告げる。我が相棒、津田秋人をこの弾丸の使用者として名を刻む
「「抹茶パワー!!」」
「「「「抹茶…!?」」」」
特殊な煙草屋に伝わる不思議な実包。
空の実包に専用の煙草を1本詰め装填したら、実包の持ち主である煙草屋が詠唱を唱え、最後に夫婦で決めたキーワードを叫んで、そこで漸く発砲が出来る。特殊な弾だからこそ容易には扱えない面倒な仕様になっている。
「さて、リーダーさんよ。お仲間に何をした?」
「オーバードーズ、打ったでしょ」
「………。お嬢チャン。俺は口の軽いお喋りは嫌いだぜ」
「!?」近付いてきた事にすら気付かず、七瀬は首根っこを鷲掴みされていた。
「デカブツ!七瀬から手を離しやがれ!」手に汗を握りながら、リーダー格に銃口を向ける。
「俺に銃を向けたな」ニヤリと口角を上げながら、秋人の首を片手で絞めあげる。
「ぁぐ…て、め…ッ(こんな奴等から…七瀬を護るって誓ったってのに…!)」首を絞められても尚、銃を離さず、力が入らず震えながらも銃口を額に押し付ける。