火の点かない煙草 捌
入口付近から発砲音が響く。
「「!?」」
銃声の先に視線を飛ばせば、老人に化けていた男の姿があった。「やぁ、久方振りだね」
「お前は…1年前の!お前が何で病院なんかに」
「知り合いの見舞いに来た。理由はそれだけさ。私が病院に来てはおかしいかい?」
「あぁ、おかしいね。人を殺しに来てそうな臭いがぷんぷんするからな」
「それは困ったなぁ。あ、そうそう、その弾私のなんだ。返してもらおうか」
「な…!じゃあテメェか…俺達より先に302号室に来てたのは!」じり…と、七瀬を背に隠しながら1歩下がる。「こんな改造された実験道具…享楽主義者に余計返すわけにはいかねぇな」
「落し物は持ち主に返しましょうって、お母さんに習わなかったかい?」
「こんな危ねぇ落し物を、持ち主に返せなんて学校でも習うわけねーだろ」
「そうかい…。ならば」パチンッ、と、中指と親指を擦らせ音を鳴らす。「コイツ等に取り返してきてもらおうかな」
ドアの向こうから姿を現したのは、秋人と七瀬に襲い掛かった呻き声を上げた獣ではなく、しっかり意識のある獣だった。
「獣人!?しかも何だその数は!?この弾…吸血鬼化させるだけじゃねーのか!」病室前で拾った吸血鬼に変貌させるであろう実包を強く握り締める。
「元々獣人かもしれないだろう?決め付けはよくないなぁ少年」―――――あの2人には興味がある。殺さない程度に楽しめ。だが、あれの回収を忘れるな。と、リーダー格に耳打ちをし、踵を返した。
「おい!待ちやがれ!話はまだ終わってねぇだろ!!」
「話は終わったし、待つのはテメェだ。殺すなって命令だが、大人しく死んでもらうぜ」
「女護りながら、この人数を1人で相手にする気なら死んだ方が早いぜ」
不愉快な笑い声が銃声で掻き消される。発砲された実包が1人の獣人の頬をかすめ、壁を撃ち抜く。
「秋くんを笑うな」秋人の背後から小銃が握られた左手だけが伸びている。「大悪党以外殺すなかれ、なーんて家訓を今作ってみたけど、お前等こそぶち殺すぞ。うちの秋くんになめた口をきくな」棒付きの血液飴を口に咥えた七瀬が、二丁拳銃を手に秋人の背後から姿を現す。
(吸血鬼にされたっつーのに、獣人を前にしても怯まねぇなんて…。やっぱ俺の惚れた女はかっけぇな。それに対して俺は、そんなお前を護れなかったっつーのに…)
「俺達をぶち殺すっつったか?」鼻で笑い、亜人達は一斉に笑い出す。「どうせ銃なんて形だけだ!お前等殺っちまえ!」
亜人達が一斉に襲い掛かって来る。
「ぐっ」