火の点かない煙草 伍
「10代後半から20代前半と見られる女性1名と、男性2名が何者かによって発砲される事件が起きて、被害者は病院に搬送されたって言ってたけど」
「人間と吸血鬼、両方扱う近場の病院て何処だ」
「え、えーと…確か車で大体30分だけど来栖総合病院―――「行くぞ。一応装備しとけ」
「え!?行くって――――」秋人のガラス玉の様に透き通った瞳が、今にも濁りそうに見え、七瀬は口を噤んだ。
身内でもない他人に、何故ここまで躍起となるのか。3人の被害者がまだ吸血鬼へと変貌したと決まったわけではないのだが、1年前の件が、秋人を動かしてしまうのだろう。
秋人は後ろに七瀬を乗せバイクを走らせた。
その頃、来栖総合病院は慌ただしかった。速報で流れた3人に加え、更に5人の被害者が搬送されてきていた。
「どうなっているんだ!銃で撃たれた患者がぞろぞろと…。さっきので8人目だぞ!?」
「俺に訊かれても知りませんよ!ですが本当一体何なんでしょうね…。撃たれた箇所は違えど、揃って1箇所だけ必ず撃たれている…。何か意味でもあるんですかね?」
「クソッ。んでこんな時に限って信号に引っ掛かり続けるんだよッ!」信号を睨みつけながら、拳でハンドルを叩き付ける。
「秋くんほら、抹茶味の飴でも食べて落ち着いて」
「どう見ても落ち着いてるだろ」差し出された個包装の袋を破り、ヘルメットを少し持ち上げ口に飴を放り込む。
「いや落ち着いてないよ。ガリガリ飴噛み砕いてるじゃん。あ、ほら信号青に変わったよ。この信号抜けたら直ぐ病院だから」
病院に着くや否や、頭に血が上って目先の事しか見えてないせいか、ヘルメットも取らず病院内へ駆け込んだ。秋人から少し遅れ病院内へ足を踏み入れると、秋人は周囲から不信な目を向けられていた。
(何をしとんじゃあの男)
「昨日運ばれて来た奴は居るのかって訊いてんだよ」
「ちょ、秋君!」勢いよく、口に棒付きの飴を捩じ込む。