火の点かない煙草 参
「そこ右」
「ん」長年の付き合いだからか、お互いに性格をよく理解している。「…何これ」
「皆闇市が好きなんだ。仕方あるまい。文句はソイツに言え」溜息を吐く七瀬に対し、秋人はどうにもならないと云わんばかりの表情をしていた。
「てかさ…何か前来た時より増えてない?」
「あぁ…回収してもキリがなねぇ…」
闇市。そこでは違法薬物から武器、盗品の宝石等、枚挙に遑がない程の商品が高値で売られている。なかでも一番多く売られている物がある。
―――――実包。
実包といっても唯の実包ではない。一見通常の弾丸と変わらないのだが、正統な使い手でなければ銃が暴発してしまう、少々厄介で特殊な構造になっている。
それを知ってか知らずか、“ 煙草屋ととある職業が婚約する事でしか使えない”この噂を悪用して煙草屋に近付く不届き者も多くはない。
「あ、クソッ…つけてるのがバレやがった…!」
「え、あれってさっきの客のおじさんじゃ」
「最近うちの煙草屋だけじゃなくて、近所の煙草屋で見かけたから、数日目ぇ付けてたが、どうやら当たりかもしれねぇ…」
2人は狭い路地を駆けるも、
「確かこの左の角を曲がった筈じゃ…!?」
完全に見失ってしまっていた。
「先程から私をつけていたみたいだが、尾行が甘いね」
「「!」」
「じじぃ、じゃねーだと…!?」
「君、失礼な事を云うね。私はまだ25歳だ。まぁいいさ…。少年の云う“ じじぃ”とは、これかな?」懐に隠していたマスクを取り出し被ってみせる。「どうだね?君の云う“ じじぃ”だ。驚いたか?」
「じじぃ…お前変わり果てちまいやがって…。墓参りには行ってやるからな…」
「勝手に殺すな」被っていたマスクを地面に脱ぎ捨て、「さて…、何故私をつけてきたのかな?」と、続ける。