憧れのスローライフ
仮面の女性に案内されたのはハンモックというか何だろうな、外見でいうと某デレビ局の丸っこい形をしたのが竹やぶのながらひっそりと存在していた。
子供の頃秘密基地でも作るだろう。
まさにあんな感じでひっそりとだ。
中に入ると何かしらの獣の絨毯に壁には高そうな仮面やナイフなどが飾られていた。
何故こんな偏狭な地でこんなにも高そうな金品があるか分からないが、悠々自適な生活をしている事は間違いがないらしい。
仮面を付けた女がゆっくり振り返ると俺にゆっくりと口を開いた。
「お前名前は何ていう?」
「大池だ···」
いや、ちょっと待てよ。
確かに俺の名前は大池代であることは間違いがない。
だがしかしそれは俺が生きていたらの話しだ。
今の俺はNEW大池代として復活したのだ。
だとすると名前も変えたい所だけど、どうするかな。
んーーーやっぱり横文字だよな。
横文字の方がカッコいいし。
ほら日本人アーティストの歌詞何かでも、横文字が入るとグッとかっこよくなったりするじゃん。
まさにあれだよ。
ジャスティスかゴットかどうするかー?
んーーー悩むな。
「おい早くしろ」
とギロリと睨まれた。
「代でお願いします」
俺は結局自分の名前を言ってしまっていた。
「ダイか?面白い名前だな。私はマティだ」
そういうとマティは手を差しのべてきたので、俺は握り返す所で手が止まった。
「おい、どうした?」
マティが俺の動きが止まったので最速をしてきた。
俺は動きが止まったままで今だにその手を握り返していない。
俺は思い出してしまったのだ。
29年間、いや30年間女の子と握手をした事などあっただろうか?
答えは一回もないだ。
まぁお母さんを入れてしまえば一回はあるんだが、それはノーカウントだろ。
目の前に差し出された手、後一歩差し出せば届く距離。
だが後一歩がどうしても差し出せない。
あー俺の手からは急に発汗してきた。
元々発汗するが、考えてしまったせいで余計発汗している気がする。
マティは差し出した手を引っ込めると不機嫌そうに、俺の顔を見てきた。
「お前童貞だな?」
「な···何で分かったんですか?」
俺はついつい本当の事を言ってしまった。
「やはりな。お前のその気持ち悪い反応を見れば誰だって分かる」
マティはたんたんと喋っていた。
つーか俺そんなに気持ち悪かったの。
もっとこう照れ屋とか他に言い方あると思うんだけどな。
「お前何故この地にいた?ここは私達クレア族が所有する領土だぞ」
「さっきもいいましたけど、この場所に落とされたんです」
マティーは俺の目を真剣に見てきた。
嘘を付いてないかと確かめるように。
マティの目を俺も真剣に捉えて視線を外さなかった。
しばらく見つめ合う状態が続いていた。
何、キスとかしていいの。
女の子に見つめられるのも、これまた人生初めての経験。
俺はちょっとだけ目を開けたまま唇を尖らせていた。
「どうやらお前は本当の事を言ってるらしいな。その何故だが尖らせた唇は置いといて。それでお前はどうする?」
どうすると聞かれても俺が一番困っている。
「どうしましょうか?」
俺は眉をひそめながら言っていた。
「行くとこがないならここで暮らすか?」
その一言で僕の脳裏には憧れのスローライフがフラッシュバックされた。
多分これからこの仮面の人達と戯れて、踊ったりバカ騒ぎしたりの人生が待っているのだろう。
ただ一つだけ疑問が残る。
それは俺に彼女が出来るのかという問題点だ。
出来ないかも知れないが、ここで暮らさなければ死ぬというのもまた事実。
俺はコクりと静かに頷いた。
これって俺の思ってた理想のスローライフじゃあないんですけど。
マティから「そうか」
と言われたら海岸まで案内されてスコップ片手にポツンと一人で立っている。
いったいここでどうしろというんだ。
しかももうすぐ日が落ちるのか、辺りは薄暗くなっていて肌寒い。
無人島に関しての知識はまったくないが、ただ一つ確かな知識がある。
それは水の確保が最優先にすべき事だが、いったいどうすれば。
この地に降りたって一回も水分をとってないことに気付くと、余計に喉の渇きを感じた。
足の服をめくり砂浜に近付いて、手で海水をすくって飲もうとしたが、思わず躊躇してしまった。
これは飲めるこは飲めるが、飲んだら余計に喉が渇きそうだ。
何ならしょっぱすぎて身体に害がありそうな予感がする。
手のひらからポタポタと海水が垂れて少しずつ手にたまった海水が減っていく。
俺は手のひらを返し、海水を海の中に戻した。
やっぱりやめとこ。
絶対身体に悪いのは目にみえてることだし。
俺は砂浜に差したスコップを手に持ち砂浜を後にした。