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第33話 シルビア3

 雪解けの季節になった。大分暖かくなっており、寒さも少し和らいで、村民も外に出るようになって来た。

 家畜を放ち、運動もさせている。家畜は小屋に押し込めていると、不衛生となり良くないのだそうだ。


 僕はと言うと、何もできないでいた。

 水源調査とセリーヌの保護、それとアゲート子爵家の問題を片した後は、することがなく、村長宅で暇を持て余していた。

 まあ、魔導書に新しい呪文と構築式を増やしてはいたが……。

 最終武器であるパワードスーツなのだが、エリカ曰く、『シルビアさん次第と言ったでしょう』で片されてしまった。急ぎではないのだが、どんな準備をすればいいかだけでも教えて欲しい。


 シルビアは、セリーヌが来てから機嫌が悪い。ペリル公爵が来てからは、避けられるほどだ。

 エリカとセバスチャンは、何も助言してくれない。

 シルビアのご機嫌取りは、本当に難しい。どうしろというのだろうか……。

 頭痛のする頭を抱えながら、朝の水汲みと朝昼晩の四界瓶による除雪作業で終わりとなる日々が続く。


 そんな時であった。シルビアが、弓を持って一人で森に入って行くのを見かけた。

 一人で森に入るのは危ないので、後を追いかけて行く。


「シルビア。何処に行くのだ?」


「……朝、鳥の群れを見ました。近くの森にいそうなので、食料にしたいと思います」


 無表情で返して来た。まだ怒っている……。


「僕も行く。そろそろ熊などの魔物が冬眠から覚めてもおかしくはないのでな。セバスは……、今は村民と畑の調査中か。

 二人で行こう」


「……かしこまりました」


 こうして、二人で森に入った。

 森の中は、雪が融けてぬかるんでいる。足を取られてしまうので、木の根などを踏み移動を繰り返す。

 僕は生命探知で獲物を探した。

 ……植物はまだ芽吹かないが、動物は動き始めている。


「前方、百メートルくらいの木の枝に、鳥が数羽留まっている。見えるか?」


「少し遠いですね。もう少し近づきましょう」


 シルビアがそう言った直後であった。足を滑らせて倒れそうになったのだ。

 僕は慌てて手を出して、シルビアの体を支えた。


 ──ムニュ


 ……柔らかい感触。シルビアの脇腹か腰を掴もうと思ったのだが、胸まで触ってしまった。

 シルビアが体勢を立て直したので、慌てて手を放す。


「すまない。今のは事故にしてくれ」


「……」


 無言の沈黙。セリーヌが来る前までは、シルビアから胸を腕に押し付けて来たこともあった。それほど怒ってはいないと思うのだが……。シルビアを見ると、真顔だ。かなり怖い。


「事故にしても良いのですが、お願いを聞いて貰えますか?」


「うむ。何だ?」


「……キスしてください。もちろん唇に」


 は? 何を言っているのだ?


「どうしたのだ、急に?」


「エリカから聞きました。次の最終武器であるパワードスーツを取るためには、私とエヴィ様がキスしなければならないと。

 でも、エヴィ様は、他の若い女性に優しくしていて、私を見てくれない。……不安なのです」


 良く分からない。

 どんな理由なのだ?

 エリカが、なにかを吹き込んだのか?


「しかしだな……」


「そうですか。そうですよね。分かりました」


 僕が逡巡していると、シルビアが立ち上がろうとした。したのだが、足を挫いているのか片足を地面に付けていない。

 ここは足場の悪い山道である。ちょっと困った状況になってしまった。


「シルビア。今日は帰ろう。背負うので僕の背に乗ってくれ」


「……先に帰っていてください。時間が掛かりそうですが、一人で大丈夫です」


 意固地になっている。

 ここは、覚悟を決めよう。シルビアを抱きしめて、木に寄りかかる。壁ドンの状態だ。

 顔がとても近い。シルビアは、真っ赤になっている。

 そのまま、無言で触れるだけのキス……。そっと離した。


 ……視線が合う。シルビアの眼に涙が溢れて来た。

 そして、シルビアが力強く抱きしめて来る。


「エヴィ様。エヴィ様……。ずっと、ずっとお慕いしておりました。

 私怖いのです。突然現れた誰かにエヴィ様を取られそうで……。

 醜いのは、自覚しています。でも……、でも、突然現れた若い女性と話しているのを見るだけで……、胸が張り裂けそうなんです」


 頭を撫でて、落ち着かせる。


「僕は貴族の家の者だ。父上が決めた相手と結婚しなければならない。

 でも、それでも、シルビアには、ずっとそばにいて欲しいと思う」


 嘘偽りのない僕の本音だ。エリカの時のように、知らない貴族令嬢と婚約を結ぶより、シルビアに隣にいて欲しい。エリカが来なくても、この気持ちは変わらなかったであろう。

 シルビアは、気難しい性格だが、僕が腐っていた時に何事もなく接してくれたのだ。

 それに今は伯爵位を約束されているが、開拓村に来た時には、三人で生きて行こうとも話しをした。

 

 僕は、シルビアを力強く抱きしめ返した。


 その後、お姫様抱っこをして森を移動した。この開拓村で山道を駆け回っていたので、僕も体を鍛えられていたみたいだ。

 それと、シルビアはとても軽かった。



 森を出て、開拓村に戻ると、エリカが待っていた。


「準備が出来たようね。それでは、次の最終武器を取りに行きましょう」


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