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第1話 プロローグ

 今僕は、空を見上げていた。

 状況を確認すると、体中が痛い。特に耳鳴りが酷かった。

 それと 両手だ。握力が麻痺していることが分かる。


「そこまで! 勝者、ジークフリート!」


 誰かが何かを言っている。

 少し前の記憶を遡る……。

 そうか……、僕は決闘で負けたのだな。


「坊ちゃま!」


 誰かが僕に声を掛けて来た。そして、僕は担架で運ばれる。

 目だけ動かすと 僕と決闘して勝った相手は、周りから賞賛を受けている。

 そして、僕に向けられる視線は、軽蔑と哀れみだ。

 そういえば、なんで決闘などしたのだろうか……。

 切られた傷が、火傷のように痛い。だが、死ぬことはないだろう。即死しないように急所を外されて切られたのが分かる。

 だが、出血が結構酷いな。無理に動いたら、本当に死にそうだ。


 意識朦朧だが、目と耳は働いていた。

 誰かが僕の名前を呼び続けている。

 その後、医務室に運ばれて、衣服を切られる。これから、治療のようだ。


「麻酔()()で眠らせます。お静かにしてください」


 その後、意識を手放す。

 最後の言葉が、妙に気になった。いや、悔しかった……か。


 僕も人前で魔法が使えればな。





 夢を見ているのだろうか?

 僕とは異なる人物達が、目の前で戦闘を行っていた。僕はと言うと 全体を見渡せる位置で指示を出しているようだ。

 そして、目の前には本が浮いていた。感覚で分かる。

 この本のページには、それぞれ呪文が刻まれており 魔力を送るだけで発動できる。

 このようなアイテムは見たことがなかった。聖遺物のような未知の物でもない。

 アーティファクトや魔道具と言ったところだろう。腕の良い職人が丹精を込めて作った物だと思われる。

 視線を上げて、目の前の戦闘を見る。

 巨大な魔物を、数人の前衛が切り刻んでいた。

 まず、ありえない速度で動いているのが驚きだ。どう考えても人間の速度を超えている。

 一人が、僕の元に戻って来た。左腕が折れているようだ。

 目の前の方のページがめくれて、新しい呪文が浮かび上がった。

 その本から光が出ると、僕の隣にいる人物に飛んで行き、吸収された。

 その人物は傷口を押さえるのを止めた。どうやら回復魔法のようである。

 こんな急速回復魔法は見たことがないのだが……。数秒で骨折を治療するとか、ありえなかった。


「バフ魔法なのだが、回避ではなく、器用さを上げてくれ! 攻撃は全て受け流す!」


 そう言われると、また、目の前の本のページがめくれた。新しい呪文が浮かび上がり、発動される。

 その後、その人物は、戦闘に参加するために前線に戻って行った。

 思案する。

 僕が憑依していると思われる人物は、十人以上にバフ効果を与えているのだろうか?

 そんなことが可能なのだろうか?

 僕は、騎士学園に入学しているため、魔法は身体能力強化しか覚えていない。

 この人物は、ありえない数の人物に異なるバフ効果を与え、また、敵と思われる魔物にデバフ効果を与えている。

 そして、目の前の呪文が刻まれた本である。


『もっと、呪文が見たい……』


 だが、ここで急に眠気が襲って来た。なんとか意識を保とうとするが、どうやら限界のようだ。


『夢……。夢だったのだよな?』


 でも、誰の夢なのだ? 見たことも聞いたこともない魔法の発動。


 そして思ってしまった。


『あの本が欲しい』





 目が覚めた。体中が痛い。

 体を確認すると、体中に包帯が巻かれていた。特に左腕だ。鎖骨が折れているのだろう。

 袈裟懸けに来られたので、厳重に固定されている。


「坊ちゃま! 意識を取り戻されましたか!?」


 目の前には初老の男がいた。


「セバスか……。僕は決闘で負けたのだな? 気を失っている間のことを教えてくれ」


「……しばらくはご静養ください。決闘のことは、傷が癒えてからでも遅くはありません」


「僕は……退学だよな?」


「……はい。それだけは覆りません」


「そうか……。それと一つ頼みがある」


「なんでございましょうか?」


「紙と筆を貸してくれ。忘れる前に書いておきたいことがある」


 右手は比較的軽症だったのが幸いした。

 僕は、紙に回復魔法と器用向上の身体強化魔法の呪文を書き写した。


「これは何でございますか?」


「なに、夢で見た魔法だ。素晴らしい魔法だったので、忘れる前に構築式だけでも残しておきたくてな。発動できると良いのだが……」


 呪文を書き写して安心してしまったからだろうか? 急激に眠気が襲って来た。

 決闘で負けて、学園追放である。目が覚めれば、地獄と思える現実が待っていることは理解している。

 希望の持てない未来。少しでも現実逃避出来て良かったかもしれないか。

 あの夢は、僕にほんの少しだけ希望を与えてくれた。

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