表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邯鄲の夢  作者: みみこ
9/10

8

 次に目を覚ませば、もう一度、あの未来に行けるかも、なんて淡い期待を抱いていたわけじゃなかった。でも、意識の覚醒と同時に現実が強い力をもって私を夢現から引き戻す。それが悲しくて、私は目を開けるのにやたらとゆっくりと時間をかけた。

 周りを見渡せば、白衣の女性のそばにやっぱりマキの顔があって。ああ、ここは現実だと確信する。


「アヤ、起きた?」

 ベッドの上の気配に気がついたマキが声をかける。私は小さく頷く。もう、眠くはない。

「斎木さん、気分はどう?」

 白衣の女性が話しかける。ここの看護師だろう。知った顔ではないが。名札には佐倉、と記されていた。


「はい、もうだいぶ」

「あなたは幸せよ。こんなに心配してくれる人がいるんだもの」

「ええ、本当に」


 ……本当に。


「そういえば、さっき、何か言いかけたでしょ? 」


 マキに問う。


「あ、うん。俺、思うんだけど、家族ってさ、いくら血が繋がっていても全く会話がなかったり、お互いを憎みあったりしてる人たちもいるだろ。最近だと、親や子供をくだらない理由で殺害してしまうことだってある。でもその反対に血なんか繋がっていなくても、大切に思いやってる人たちだっているわけだ。そういう家族の形もありだと思うんだよな。大切なのは、お互いを尊重する気持ちや、愛する気持ちなんだって思う。だから、その、つまり……」


 マキは、ひとつ軽い深呼吸をして言った。


「結婚しよう。子供の父親に俺がなるから。産んでよ、アヤ」

「え?」

「一緒に子供、育てよう。今はアヤの中では仕事が一番なのは分かるけど、それより大事だと思える家族を一緒に作ろう。アヤと俺ならできる気がするんだよ、そういう家族」


 マキの顔がゆがんで見える。

 泣くなよってマキが言うから、自分が泣いていることに気がつく。


「だめだよ。私、殺しちゃった。私の子」


 マキは、私の頬を優しくなでてくれた。


「言ったろ、謝らなければならないことがあるって。どうしても耐えられなかった。お前に子供を殺させること。お前が傷つくこと。だから、あの時、処置室に飛び込んで先生に頼んで中断してもらった。同意書にここのクリニックの名前が書いてあったし、ぎりぎり間に合った。だから子供はまだ、ここにいるよ」


 マキが私のおなかに触れる。


「うそ……」

「エイプリルフールは半年先だよ」


 あの時と同じセリフ。マキは変わらない。3年後も、たぶんその先も。

 涙が溢れて止まらない。何を捨てても、二人がいれば幸せだと思える、そんな家族が私にもつくれるのかな。ううん、そのために努力をしよう。二人がいれば頑張れる。


「うん」

「え?」

「さっきの返事。私もマキと一緒にいたい。……今更、やっぱり今日がエイプリルフールだったなんて言わないでよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ