8
次に目を覚ませば、もう一度、あの未来に行けるかも、なんて淡い期待を抱いていたわけじゃなかった。でも、意識の覚醒と同時に現実が強い力をもって私を夢現から引き戻す。それが悲しくて、私は目を開けるのにやたらとゆっくりと時間をかけた。
周りを見渡せば、白衣の女性のそばにやっぱりマキの顔があって。ああ、ここは現実だと確信する。
「アヤ、起きた?」
ベッドの上の気配に気がついたマキが声をかける。私は小さく頷く。もう、眠くはない。
「斎木さん、気分はどう?」
白衣の女性が話しかける。ここの看護師だろう。知った顔ではないが。名札には佐倉、と記されていた。
「はい、もうだいぶ」
「あなたは幸せよ。こんなに心配してくれる人がいるんだもの」
「ええ、本当に」
……本当に。
「そういえば、さっき、何か言いかけたでしょ? 」
マキに問う。
「あ、うん。俺、思うんだけど、家族ってさ、いくら血が繋がっていても全く会話がなかったり、お互いを憎みあったりしてる人たちもいるだろ。最近だと、親や子供をくだらない理由で殺害してしまうことだってある。でもその反対に血なんか繋がっていなくても、大切に思いやってる人たちだっているわけだ。そういう家族の形もありだと思うんだよな。大切なのは、お互いを尊重する気持ちや、愛する気持ちなんだって思う。だから、その、つまり……」
マキは、ひとつ軽い深呼吸をして言った。
「結婚しよう。子供の父親に俺がなるから。産んでよ、アヤ」
「え?」
「一緒に子供、育てよう。今はアヤの中では仕事が一番なのは分かるけど、それより大事だと思える家族を一緒に作ろう。アヤと俺ならできる気がするんだよ、そういう家族」
マキの顔がゆがんで見える。
泣くなよってマキが言うから、自分が泣いていることに気がつく。
「だめだよ。私、殺しちゃった。私の子」
マキは、私の頬を優しくなでてくれた。
「言ったろ、謝らなければならないことがあるって。どうしても耐えられなかった。お前に子供を殺させること。お前が傷つくこと。だから、あの時、処置室に飛び込んで先生に頼んで中断してもらった。同意書にここのクリニックの名前が書いてあったし、ぎりぎり間に合った。だから子供はまだ、ここにいるよ」
マキが私のおなかに触れる。
「うそ……」
「エイプリルフールは半年先だよ」
あの時と同じセリフ。マキは変わらない。3年後も、たぶんその先も。
涙が溢れて止まらない。何を捨てても、二人がいれば幸せだと思える、そんな家族が私にもつくれるのかな。ううん、そのために努力をしよう。二人がいれば頑張れる。
「うん」
「え?」
「さっきの返事。私もマキと一緒にいたい。……今更、やっぱり今日がエイプリルフールだったなんて言わないでよ」