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邯鄲の夢  作者: みみこ
6/10

5

 マキはなかなか電話に出なかった。いらいらしながら、ひたすら待った。10コール目にさしかかろうかというところで、やっとマキの声がした。


「ごめん、今仕事中だか……」

「教えて!今日はエイプリルフール?」


 マキの言葉を遮って、怒鳴った。


「アヤ? どうした、突然。エイプリルフールは半年先だよ」


 マキは面食らったように言う。


「正確に教えて。今日は何年の何月何日か」

「お前、今朝も同じこと聞いたろ。202x年11月2日。ついでに火曜日だよ」

「今朝?」


 今朝はマキとは会っていないし、電話もずっと出なかったはずだが、この際それはどうでもいい。

 それに、日にちも大丈夫だ。私が思っていたのと同じだから。

 問題は年号。

 202x年?


 無言になった私。電話越しには怪訝そうな声が響く。


「アヤ、今日がどうかした……。あっ、そうか、あれは今日だったのか。ったく、お前も人が悪いぜ。ちゃんと知らせといてくれよな。俺、仕事してる場合じゃないっての」

「やっぱり、何か知ってるのね。教えてよ。私、混乱してるの」

「大丈夫、安心しろ。ちょっと、3年後に来ちまっただけだよ。そこに、ハルもいるんだろ。お前の子だよ。ちゃんと面倒見ろよな」

「3年? 私の子? 何言って……」

「ちゃんと血のつながった、れっきとしたお前の子だ。ちょっと耳が不自由だが、なに、そう大した事じゃない。いい子だからな。俺、もうそろそろ行かなきゃならないから、切るぞ。がんばれよ、アヤ」

「待ってよ。私がこんなに混乱してるのにあんたは仕事に戻るって言うの!」


 思わず怒鳴ると、マキの声に笑いが混じる。


「まあ、そういうこった。じゃあな。……あ、そうそう」一旦言葉を区切って、まじめな調子になる。

「お前らのことは必ず俺が守ってやるよ。約束するから、俺を信じて」

「なにそれ、意味がわかんないってば。マキ!」


 私の叫びも空しく通話は途切れた。何度かけなおしてみても一向に繋がらず、呆然とスマホを見つめる。

 ベンチに座り込み、さっきの子供を目だけで探す。

 子供はいつの間にか泣き止んで、ベンチの隣の砂場にしゃがみこみ、砂山を作っていた。


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