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マキはなかなか電話に出なかった。いらいらしながら、ひたすら待った。10コール目にさしかかろうかというところで、やっとマキの声がした。
「ごめん、今仕事中だか……」
「教えて!今日はエイプリルフール?」
マキの言葉を遮って、怒鳴った。
「アヤ? どうした、突然。エイプリルフールは半年先だよ」
マキは面食らったように言う。
「正確に教えて。今日は何年の何月何日か」
「お前、今朝も同じこと聞いたろ。202x年11月2日。ついでに火曜日だよ」
「今朝?」
今朝はマキとは会っていないし、電話もずっと出なかったはずだが、この際それはどうでもいい。
それに、日にちも大丈夫だ。私が思っていたのと同じだから。
問題は年号。
202x年?
無言になった私。電話越しには怪訝そうな声が響く。
「アヤ、今日がどうかした……。あっ、そうか、あれは今日だったのか。ったく、お前も人が悪いぜ。ちゃんと知らせといてくれよな。俺、仕事してる場合じゃないっての」
「やっぱり、何か知ってるのね。教えてよ。私、混乱してるの」
「大丈夫、安心しろ。ちょっと、3年後に来ちまっただけだよ。そこに、ハルもいるんだろ。お前の子だよ。ちゃんと面倒見ろよな」
「3年? 私の子? 何言って……」
「ちゃんと血のつながった、れっきとしたお前の子だ。ちょっと耳が不自由だが、なに、そう大した事じゃない。いい子だからな。俺、もうそろそろ行かなきゃならないから、切るぞ。がんばれよ、アヤ」
「待ってよ。私がこんなに混乱してるのにあんたは仕事に戻るって言うの!」
思わず怒鳴ると、マキの声に笑いが混じる。
「まあ、そういうこった。じゃあな。……あ、そうそう」一旦言葉を区切って、まじめな調子になる。
「お前らのことは必ず俺が守ってやるよ。約束するから、俺を信じて」
「なにそれ、意味がわかんないってば。マキ!」
私の叫びも空しく通話は途切れた。何度かけなおしてみても一向に繋がらず、呆然とスマホを見つめる。
ベンチに座り込み、さっきの子供を目だけで探す。
子供はいつの間にか泣き止んで、ベンチの隣の砂場にしゃがみこみ、砂山を作っていた。