scene2:ホワイト・レディ
「どういうこと。いきなり終わりにしようって」
「言葉通りの意味だ」
「そんな…それじゃ分からないよ」
「しょうがないだろ。お前とやっていくのが辛くなったんだ」
「なぜ」
「それは…」
男は視線を逸らした。何か隠してる。
女は訊いた。
「女ね…」
ぴくりと男の肩が動いた。
「私のほかにも女がいるのね」
「そうじゃない」
「じゃあなんなの」
「だから、それは…」
ふう…
女はため息をつく。
危うく涙を流すところだった。でも気づいた。
−この男はしょせんはつまらない男なんだ…と。
他に女ができた。でもそれを面と向かって言う度胸もない。
目の前にある水の入ったグラス。
そいつを投げつけてやれば、少しは気が晴れるのかしら…。
その後は無言を貫いた。男が何か言ったようだが、答える気にもなれなかった。
そのうち男はバツが悪そうに、席を立った。
私は一人になった。
視界がかすむ。
−泣いているの?私…
あんな男に振られたくらいで…ばっかみたい。
「何かご注文はありますか」
声を掛けられ、女は慌てて涙を拭った。
「ごめんなさいマスター。変なところを見せてしまって」
「いえ…。マスターはやめてください。皆さんコウと呼びます」
「コウさん…。そう呼んでもいいの」
「その方が落ち着きます」
「じゃあコウさん。何でもいいから適当に作ってくれるかしら」
「かしこましました」
数分後、カクテルグラスに満たされた白亜色のカクテルが置かれた。
「これは?」
「あなたのイメージで作ってみました」
女は一口含む。
程よく甘酸っぱい味が、舌の上で踊った。
「素敵な味ね。なんていうカクテル?」
「ホワイト・レディ。白い貴婦人…といったところでしょうか」
女は小さく笑った。
「コウさん、ありがとう…」
「いえ。ごゆっくりお楽しみください」
付き合った男は最低だった。
でも最高のお店を私に残していった。
−まったく無駄だったわけでもないか。
窓の外では煌びやかなイルミネーションが瞬いていた。