ホワイトギルドが問題児を追放したそうです
「ライル君。君には失望したよ……。
約束通り、うちのギルドから出ていってもらう」
「そんな! 待ってくれ! 俺が悪かった、許してくれ!!」
「そう言ったのは、何回目かな? そうやってこの場を乗り越えれば、また君は酒に溺れるだろう。そして、また騒動を起こすんだ。
僕らはもう、それを許せない。君の酒癖を直そうとは、もう思っていないんだ。
それに、だ。前回の騒動の後に君自身が言っただろう?「次、騒ぎを起こした時は、ギルドを辞めます」とね。この結果は、ライル君自身が望んだことでもある」
「そんな、そんな……。ううわぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
某国某所。
ちょっぴりモンスターの数が多いとある都市の冒険者ギルド。
そこは地元最強と言われる冒険者の集うギルドだった。
が、強い人間には癖の強いものが多いという事か、品行方正な冒険者ばかりではなく、冒険者としては優秀でも人間としては駄目な者も多い。
そんな駄目人間の一人、ライルという男のギルド追放が、たった今、行われている。
ライルが追い出される理由は「酒癖の悪さ」だ。
少しぐらいなら問題無いのだが深く酔うと暴れるのだ、この男は。
若いうちは稼ぎが少なく酒に費やせる資金が乏しかったので目立たなかったが、強くなり稼げるようになると、深酒をして何度も暴れまわった。
ギルドからは再三の注意を受けているが、酒が大好きであるため「少しぐらいなら」と飲み始め「もうちょっとだけ」と杯を重ね、「もっと持って来い」と暴れ出す。
典型的な、ダメ酒飲みだった。
ギルドも、優秀な冒険者を手放すのは痛い。
最初は酒を飲ませ過ぎないように注意していたが、このライルはその監視の目を掻い潜り、飲んで暴れる。
アラサーであり、あと10年は冒険者としてやっていけるライルではあるが、ギルドとしてはもう限界で、ライルの放逐を決めた。
優秀だからと言って、何度も見逃すほどギルドは優しくない。
しかし、ただライルを放逐しては、ギルドが損をするだけだ。
追い出したことでライルが荒れ、また酒を飲んで暴れれば、それはギルドの瑕疵となりかねない。
そこで、ギルドマスターは一つの提案をした。
「我々も、鬼ではない。
そこでライル君。君に一つの選択肢を与えよぷ」
ギルド長は笑いをかみ殺すのに失敗し、少々怪しい口調でライルに自分たちに都合の良い提案をする。
「君には、いくつかのギルドから引き抜きのオファーが来ている。冒険者としては優秀であるからね。こういう事もあるだろう。
これらの中から移籍先を選ぶというなら、こちらも推薦状を書く。一からやり直し、とはならないだろうな」
素行不良のギルド規約違反で放逐された場合、これまでの功績は全てリセットされるのが普通だ。
ライルのような者はギルドに庇われ無事だっただけである。犯罪者に準ずる扱いとなるので、当然の処置である。
しかし、推薦状を持って他所に移籍するのであれば、瑕疵の無い一般――いや、優秀な冒険者として、次のギルドで働ける。
推薦状の有無は、今後を左右する大きな要素である。
言われたライルは、ギルドマスターから差し出されたリストに目を通す。
『ブラック・レジェンド』
『ウルトラ・ヘッド・オーガン』
『アブレイズ・バトル・エンパイア3』
あまり話題にも出ないギルドばかりだが、それでも構成員50人以上の中堅ギルドばかりがリストアップされている。
ライルの目には、そこまで悪いギルドのようには見えなかった。
「分かりました。じゃあ、どれも自分の目で見ない事には分かりませんし、一番良さそうな『ブラック・レジェンド』に行きます」
「そこを追い出されたら、今度こそ行く当てが無くなるだろうね。次こそ、気を付けたまえ」
「はい!」
選択肢など無い。
そう考えたライルは、一番給料を出してくれそうなギルドを選んだ。
それが、ギルドマスターに誘導されたものとも知らずに……。
「マスター。あのリストは……」
「ああ。同性愛好者の中でも、かなり強引な者が集うギルドだねぇ」
「その、説明しなくても?」
「ははは。残念だが、それは説明できないんだよ」
ここ数年、ギルドにはいくつもの問題提起があった。
その一つに「ハラスメント問題」というものがある。
セクハラ、パワハラ、モラハラなど。そういったものへの配慮が強く求められるようになったのだ。
「最近は「同性愛好者の性癖を、第三者に教えてはいけない」という配慮が必要でね。君のように、最初から知っているのであれば構わないのだが、知らない者には勝手に教えてはいけない事になっているのだよ」
これは、同性愛好者の男が好きになった相手に告白し振られた後、その一件を周囲に知られて自殺した、という事件が発端となっている。
その為、「同性愛好者を晒し者にしてはいけない」という考えのもと、「~~さんは同性愛好者である」という話をしてはいけない、それはセクハラだ、という風潮が広がっている。
このギルドは有名ギルドのため、そう言った配慮を他よりも注意深く行わねばならないのだ。
つまり、「~~は同性愛好者が集まったギルドだ」などと教えてはいけない事になる。
もちろん、これは建前でしかない。
だが、間違った事も言っていない。
ライルは、売られたのである。
「あちらも、冒険者としてのライルは頼りにするはずだよ。無体な真似など、しないだろうさ」
ギルドマスターは、そう言って微笑む。
そんな事があるはずないと、分かっているにもかかわらず。
後日、ライルが、どこかを押さえていたとかいないとか。
誰も知らない。知られちゃいけない。
ライルさんに何があったのか。
むしろ、誰も尻たくない。




