第1話 ドラゴンワールド
とある惑星。地球とは異なる次元に存在しているその星は、かつて巨大なドラゴンが6体棲息していた惑星だった。
ドラゴンはこの惑星の守護を任されていた。しかし、それが何者の意思であるかはドラゴン達にも分からなかった。
ある時、一体のドラゴンが思った。
「この惑星に我々だけでは少し寂しくないか?」
それを聞いた他のドラゴン達も皆一様にその思いに賛同した。そして、ある考えに至る。
「自分たち以外の新しい生命を創ろう」
子を生む、という行為をすることが無いドラゴン達であるが、そのとてつもない『魔力』と、どんな不可能な事もいとも容易く可能にする事が出来る超絶に高等な『魔術』によって、新たな生命の創造を開始した。
まず最初に生み出したのは、自分たちに瓜二つな空飛ぶ竜だ。500mは有るドラゴンの10分の1のサイズである50m程である。ただ高い知能を持つので会話ができ、またドラゴンとまではいかずとも、高い魔力と高度な魔術を使いこなした。
このミニドラゴンとも言うべき創造物に、ドラゴン達はおおいに満足した。そして、また一体のドラゴンが思いつく。
「この惑星は、この我らの子供たちに任せ、我々は他の星を探索しに行かないか?」
他のドラゴンたちもまた、
「それは非常に良い考えだ」
と、口を揃えて賛同した。そして、惑星が生まれた瞬間から存在していた『原初のドラゴン』たちは、この星を去った。
残された竜たちも最初のうちは困惑したが、創造主に任された責務は全うしようと決意した。
時は流れ、惑星には竜以外の生物もたくさん生まれた。その中には地球と同じように、人間も誕生していた。人間だけでなく、竜と肉体の頑強さや、精神的な結びつきが強い竜人も同時期に生まれた。特殊な力を持った竜が人間とまぐわい、出来た子供だったのだ。
人間達は、竜から多くの知識を学んだ。また竜達も人間に知識を与え導き、そして、人間は文明を築いていった。
人間は、竜を心から尊敬し、そして、語り尽くせぬ程の感謝の気持ちから、この星を、
『ドラゴンワールド』と名付けた。
『バビアスタ平原』
この、ドラゴンワールドで最も広大な平原であり、先の見えない大地だけが限りなく続いていた。
その平原のほぼ真ん中に、街があった。
『アルノイア』
巨大だが城などでは無く、純粋な街である。とてつもなく大きな街で人間以外の種族も居た。ドワーフ、ホビット、ビースト、そしてオーク。
これと言った名所がある訳ではないので街並みに情緒は感じられないが、治安も良く、住みやすいと言えるだろう。
強いて名所を上げるとするならば、最も目立つ建物である冒険者ギルドだろう。
名前は<始まりの羊亭>。
その名の通り冒険者になると決めた若者達が最初に訪れるのがこの店であることが多いのだ。
理由としては、アルノイアの周辺は比較的に戦いやすい魔物や獣が多く戦闘の訓練が行えるから。
もう一つは、ギルドが出す依頼❨クエスト❩が、非常に多種多様なのである。
魔物の巣を潰すようなクエストから、素材の調達といった戦闘を行わないものまで用意されている。なので、初心者の冒険者はこの街で戦闘訓練を行い、報酬を手に入れて装備を整えるのである。そして、冒険者が多いというのは街の発展にも繋がる。
冒険者ギルドのすぐ近くには商業ギルドが建設されている。かなり便利なつくりになっているのだ。
商業ギルドが冒険者ギルドに依頼を出す。冒険者ギルドがその依頼を冒険者にクエストとして出す。それを冒険者が受注しクエストを達成する。
冒険者はギルドから報酬をもらい装備を買ったり酒場にくり出す。そして、冒険者ギルドは商業ギルドに頼まれた依頼、良いものを作るための素材を納品したり、魔物が巣食っていて近付けなかった場所にいけるようにしてあげる。
商業ギルドはそのおかげで、生産性を上げる。もしくは、新たな商品を開発する。
それらを繰り返す事で儲かるようになる、といった感じで街はおおいに発展していったのである。
仲が悪い冒険者ギルドと商業ギルドがある中で、アルノイアのギルド達の仲は非常に良好なのだ。
街の中央には市場があった。
<始まりの羊亭>以外の場所を上げるとするならここになる。
市場には、牛や豚、鹿に猪、川魚に海の魚が、捌かれて売られている。服はあらゆるサイズが用意されていて、オーダーメイドが出来る店もある。酒屋は、甘い物から一瞬で意識が飛ぶほどに強い酒などが所狭しと並んでいた。
武器、防具も売られていたが冒険者は専門の店に行くのであまり繁盛していなかった。
客達が留まることなく歩き回っている。そんな市場の一番端を見ようとするのは無謀な行いだと笑われるだろう。
巨体きな男が歩いている。蟻の大群のように市場で蠢いている客達の中にあって、一目で分かるほどの巨体きさだ。巨大だと言っても良い。
男の身長は、軽く2mを超える。2m50cmはあるだろうか。前時代のフライトスーツを着ていた。上半身だけを露出させ、フライトスーツの余った部分は腰に巻き付けていた。
壁のように拡がった肩幅に、綺麗に生え揃った胸毛と分厚い胸筋、山脈のように隆起する腹筋、そして、丸太のように太い腕とまたも綺麗に生え揃った腕毛。
手は岩を一掴み出来る程の大きさである。首には、円形の真っ赤な傷、のようなものが入っていた。
客達は男に視線を奪われた。ただ巨体きく、逞しい体付きに注目していた訳ではない。
男が、大きな野生動物を担いできたからだ。
右肩には猪、左肩には鹿が3頭、極めつは、自らの胴体から肩にかけて固定した縄で縛り付けた熊が、背中に貼り付いていた。
緑色の肌に、下顎から頬にかけて真っ白な牙が生えていた。男はオークなのだ。
元々オークの肌は人間と変わらなかった。ある事がきっかけで緑にされたのだ。しかし、オーク達はその肌の色を誇りに思っていた。
男は迷いのない足取りである店の前に止まった。店主に話しかける。
「オヤジ。頼まれてた獲物だ。猪1頭に鹿3頭。ついでに、獲物を奪いに来たコイツもな」
男は背中に向かって親指で熊を指差した。店主が応える。
「さすがは最強のオークと言われただけはある。また素手でやったのか?」
口髭を撫でながら店主が質問する。オークが応え返した。
「ああ。コイツら倒すのに得物なんていらねぇよ。眉間に一発で終わりだ」
担いできた獲物を店の中で、傷付かないように丁寧に降ろす。しっかりと血抜きは済ましてあった。店主が笑顔で賛える。
「大戦の英雄アラヤにかかりゃ、熊も蟻んこ同然か」
店主は満足げに笑っていた。続けてこう言う。
「そしたら、これが今回の報酬だ。獲物たちは俺が捌いて、またいくらかお前に渡すよ。あぁそうだ、熊の分も報酬に入れてるぜ」
店主は、似合わないウィンクをして、アラヤに微笑みかけた。
「ありがとよ、オヤジ。また何かあったら俺に言えよ」
アラヤはそう言って後ろ手に手を振りながら、また蟻たちが蠢く中を歩き始めた。