ちゃんと空気読むんだよ。
「送っていくよ」
「いえ! 私がアスティ様を送っていきます!」
「お家が何処にあるのか知りたいからさ」
「ご案内しますとも!」
歩くの早いよ。
急ぎじゃないんだからさ。
さっき闘ったから結構疲れているんだよ。
「シエラちゃんは兄弟居るの?」
「はい、兄と弟が居ます! ご挨拶させますね!」
「いや、しなくていい。しない方が嬉しいな」
「はい! 挨拶なんてさせません!」
ごめん、普通に喋って。
至近距離だから耳が痛いんだよ。
「普通に喋ってくれたら…手、繋いで良いよ」
「……くっ…分かったわ。普通に喋る」
差が凄すぎてキャラがブレブレに見える…まぁ、こっちが元か。
それよりも交換条件を付けないと、シエラが言う事を聞かないとかやりずらい。
「もうすぐ着くわ。アスティ様」
様も付けちゃ駄目だよ。
……ここ?
ミーレイちゃんの家から近いね。
御近所さんだ。
「じゃあまたねー」
「えっ…」
ガシッと掴まれた。
何でしょうか。
家に入るの? 嫌だよ、事前に行くって言わないと他人の家には入りません。
これからミーレイちゃんの家に行くんだから。
……無言で付いて来ないでよ。
「一緒に行く?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すみませーん」
「はい、お待ちしていましたよ。あら? これはシエラ様、お知り合いだったのですね」
「ええ、お友達なの」
よしよし、普通に喋ってくれる。
お手伝いさんが呼びに言っている間、シエラに注意事項を話す。ミーレイちゃんは私の正体を知らないからね。
「空気読んでくれたらご褒美あげるからね」
「むほっ……分かったわ」
相変わらず交換条件ありき。
狙っていないよね?
家からドタドタと階段を下りる音。ミーレイちゃん、生活音が丸聞こえだよ。お嬢様らしくスタスタ下りないと噂が立つよ。
「お待たせっ…しました。シエラ様もどうぞ」
「畏まらなくて良いわ。私達はお友達よ」
ミーレイちゃんがどういう事? と、視線を向ける。
お友達になったよー。
シエラは私のお友達は自分もお友達という謎理論を掲げていそう。仲良しならなんでも良いんだけれどね。
「宜しくお願いします。シエラ様」
「駄目よ。対等に話して。もう一度」
「よろしく、シエラ…さん」
「ちゃん」
「…シエラちゃん」
ミーレイちゃんの顔が引きつっている。
そりゃ家柄的に貴族とかを大事にするから、ちゃん付けなんて以ての外だよね。
母親に聞かれたら大変だろうなぁ……がんばれー。
ミーレイちゃんの部屋に案内された。
何気に入るのは初めて。
ミーレイちゃんがお茶を持ってくる間に確認。
一言で言うと個性が無い部屋。
何も置いていない机。無地のベッドと布団。
本棚は堅苦しい本が並び、綺麗に整理整頓されている。
無駄な物は無い…教育がしっかりし過ぎていて少し狂気を感じる程。
でも私は知っている。
本棚の中に薄い本が隠されている。
上手く偽造しているみたいだけれど、私の目は誤魔化されないよ!
本棚の一番上が二枚板になっているから、奥の板が外れる。ほらあった!
……ほう、SM物か。中々のお手前で。
ミーレイちゃんが戻って来る前に戻さなきゃ…あっ、この前あげたシリーズの新刊も入れてあげよう。
お嬢様が薄い本を買うなんて難易度高いからね。
「お待たせ。……ん? 本が一ミリずれている。アスティちゃん…見付けた?」
「うん、新刊入れておいたよ」
「あっ、うん、ありがとう」
……解るなんて凄いな。
シエラも感心している。
個性が無い部屋だからこそ、変化が解るのか…
次に来た時は隠し場所が変わっていそう。
シエラは空気を読んで極力喋らない。本当にご褒美が欲しいのか……適当に言ったから何も考えていないんだよなぁ。
「そうだ、来週末はアスティちゃんの家にお泊まり出来るよ」
「ほんと! やったぁ!」
「……お泊まり…だ…と」
……シエラ、目が怖いよ。お友達ならお泊まりくらいするよ。女の子同士だしさ。
シエラは貴族女子だから無理じゃない?
「ご褒美はお泊まりが良い…お爺様なら許してくれる」
「えー…」
もう少し仲良くなってからで良い? シエラのキャラに慣れないんだよ。あぁ、シエラの目がお泊まりする! って言っている。目が血走るってこういう事かぁ……
じゃあ…闘技大会終わったらね。
ちゃんと空気読むんだよ。




