よし…ボッチ回避だ。
「アスティは、なんで死んだ事になっているんだ?」
先ず疑問に思う事は、何故私が死んだ事になっているか…だね。
答えは簡単。
「本当に死んだからね。でも何故か復活して、誰も居なかったから逃げちゃった」
てへっ、と笑ったら呆れた顔を向けられた。
良いじゃん、公式に王女は死んだんだから。
復活した理由はなんとなく解るけれど、言う必要は無いかな。
まっ、信用出来るなら王女だって言うよ。
バレるくらいなら堂々としたいし、覚悟があるから言うんだ。
……シエラちゃん、どうしたの? もじもじして……
「あっ、あの! 演劇観ました! 大ファンなんです!」
「よし、とりあえず誤解を解こうか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私が殺された時の事は簡単に説明しておいた。
当たり障りの無い程度に。
シエラは私にキラキラとした目を向けている。
手の平返しが凄いけれど、話を聞く限り仕方無いかな。
アレスティア王女は表に出ない謎めいた王女として、帝国貴族女子の間で度々話題に上がっていたらしい。
ふっ…ただの引きこもりだったんだけれどね!
つまり…命を賭して婚約者を守った王女は、帝国貴族女子の憧れ。
それに加えて剣聖に勝つ程の強さを持ち、可愛い私はシエラにとって憧れの中の憧れ。っていうのを物凄い早口で喋ってくれた。
私がリアちゃんに向ける憧れと似たようなものだと思えば、気持ちは解る。
ありがとう。秘密だよ。
「という事で、私は夢を追っている最中だね」
「アスティなら出来そうだな」
「アスティ様なら出来ますよ! 絶対!」
「肯定してくれるなんて嬉しいよ。シエラちゃん、様はやめてね…私は平民なんだから」
「絶対やめませんよ! アスティ様!」
シエラ…アスティ様は本当にやめて。
あらぬ噂が拗れて拗れて…結果私が虐められるんだから。
一応シエラはノーザイエ子爵家のご令嬢で剣聖の孫。そのご令嬢が平民を様付けなんてしてみろ…面倒が起きる。
面倒の芽を摘んでおかなければならないので、シエラは調教…間違えた、説得しなきゃ。
「やめてくれるなら…お友達になってあげる」
「お友達! なります! 是非とも! 末長く宜しくお願いします! 一生付いていきます!」
圧が凄い。
一生は重いから本当に勘弁して。
出来れば敬語もやめて。
憧れ…いや、尊敬…いや、これは…狂信者の目だ。
日常生活に支障をきたすようなら友達やめるからね。
「…アスティ、シエラを頼んだ」
「丸投げすんな。ちゃんと学校とか行かせてね。また学校に押し掛けないように言い聞かせて…切に願う」
「……善処する」
シエラの圧力にリックも引いてんじゃん。
ほらっ、シエラ落ち着け。
どぅどぅ…よしよし。
「アスティ…様…あぁ! やっぱり呼び捨てなんて出来ない! ドキドキしちゃう!」
キャラ崩壊が凄い。
顔を両手で抑えてやんややんやしちゃって……慣れてくると可愛く見えるな。いや慣れると許してしまうからやっぱり駄目だ。
リック、なんとかしてくれ。
目を逸らすな。
威厳はどうした。
「……あっ、そうだ。リックは闘技大会って出るの?」
「出ないぞ。一応呼ばれているから観戦はするけどな。出るのか?」
「出ないよ。観戦はするけれどね。リックの観戦する場所は個室?」
「そうだなー、二階の個室席だ」
「個室かぁ…良いなぁ…私はむさい男達に囲まれながら観戦かぁ…怖いなぁ…怖いなぁ…」
「……一緒に観るか?」
「えっ、良いの? じゃあお言葉に甘えて!」
「……」
いやー、優しいねー。剣聖様は。
ボッチ観戦から解放してくれた。
しかも個室。これならシエラというオプションが付いても我慢出来るさ。
シエラは十五歳以下の部門に出場? がんばー。
「でも貴族とか挨拶にやって来るぞ。良いのか?」
「私にはこれがあるからねー」
地味メガネをスチャッと掛ける。
執事服をパンパンで借りれば剣聖のお付きに見えなくもない。
抜かりは無いさ。
「一応第二皇子も来るからな。用心しろよ」
「あぁ大丈夫。この前会ったから」
「……バレていないのか?」
「多分ねー。バレたらさっさと帝国から逃げるんでよろしくー」
軽いな…って言われても、いつでも逃げられるようにしてあるだけだからね。
第二皇子はアース王女と仲良く結婚すれば良いんだよ。
「そういえば爺やと知り合いって言っていたけれど?」
「爺や? あぁ…アイツはガキの頃から帝国流剣術を学んでいてな…事故があってから…疎遠になったんだ…」
「事故?」
「まぁ…うん…色々あったんだ」
……そこまで言ったなら教えてよ。
言いたくないなら良いけれど。
「爺やに会いたい?」
「あぁ…そうだな」
「手紙でも書けば? 剣聖からの手紙なら、爺やに届くから」
「……手紙は恥ずかしい」
じゃあ直接行けよ。
……渋るな…乙女かよ…
「じゃあ帰ろうか。あっ、これ名刺ね」
「……レティ? あぁ……噂の天使ちゃん……」
私の天使っぷりは、剣聖にまで噂が届いていたんだね。
という事は…貴族さん達にも噂が届いているって事か。
……余計なイベントは避けたいなぁ…
「私の噂は広まっている?」
「まぁ…そうだな。割りと有名だぞ。癒しの天使って」
「じゃあ、貴族の誘いがあったら剣聖を通してと言って良い?」
「あぁ、良いぞ。断りゃ良いんだな」
「ありがとう。断れなかったら、ヒルデガルドさんが動いちゃうから気を付けてね」
「……うわ…全力で断るよ」
よし。剣聖が私の後ろに付いた。
リアちゃんが不在の時は不安だから。
さっ、用事も済んだし帰ろう!




