剣聖。2
黒を更に黒く塗り潰したような闇がサンダーホークの剣を変貌させ、ボタボタと闇が滴る。
「反属性持ちか…フィジカルアップ」
リックの魔力が身体の表面に浸透…身体強化魔法だ…それ羨ましい。無属性魔法すら使えない私にとって、身体強化魔法は高嶺の花だよ。それがあれば自爆技が安全安心な技に昇華するのにさ…
思考が逸れている間にリックの雷炎が勢いを増し、準備が整ったというように笑う。
「悪いなぁ…待ってもらって」
「少しでも視たいからね。リックの強さ…技…信念を」
「俺も…アスティの底が知れねえ強さが見たいからな! 奥義・雷炎の鎧!」
――ゴォオオオ!
雷炎がリックを包む…
おぉぉお! 雷炎が鎧みたいになった!
なにそれなにそれ!
「カッコいいーー!」
思わず叫んでしまったよ。
いや、本当にカッコいい!
肩、胸、腰回りに雷炎が鎧のように停滞して剣聖というより雷炎騎士。俺に触ると火傷するぜを体現した姿。
……その技を使えば…安全安心な自爆技が出来る?
……なるほど……視れた。ありがとうございます。本当に。
「これは…師匠の得意技だった」
「凄いね…並みの魔法操作じゃ出来ない」
魔法操作を間違えると焼け死ぬ。
私みたいに吸収なんて出来ないから、相当な努力をしたんだろう……
でもこれなら…気兼ねなく撃ち込める。
「深淵剣技・黒三日月!」
黒い三日月を放つ。
ボタボタと滴る闇が…水溜まりのような闇溜まりを作っていく。
「はっはっはー! 雷光剛炎!」
――ゴォオオオ!
黒三日月を一刀両断。
それは予測済み。
「黒の衝撃!」
続けて闇のエネルギーをぶつける。
バシュンッ! 闇が飛び散り更に闇溜まりを作る。
「くらえ! 雷光剛炎破!」
炎が伸びた!
ぶった斬るよ!
黒三日月!
闇と雷炎が衝突。
爆発を生み爆風が吹き荒れる。
もう結構な闇溜まりが出来た。
リックの周囲五十個はある…ふっふっふ。
ここから畳み掛ける!
近くの闇溜まりに飛び込む。とうっ!
「ん? 消え…」
そして、リックの背後にある闇溜まりから奇襲!
「黒の衝撃!」
バシュンッ!
おっとベタだったから躱された。
「うおっ! まじかよ!」
また闇に潜る。
今度は…
「乱れ桜・黒」
全闇溜まりから黒三日月を放つ!
この闇は私の一部!
名付けて闇渡り!
「――どんだけ技あるんだよ! 雷炎大樹!」
――ドゴォォオオ!
雷炎の鎧がリックを包む大きな柱となった。
雷炎大樹に黒三日月が衝突するけれど、貫通しない。
徐々に範囲を広げて闇溜まりを消している。
どんな技でも対応してくれる……凄いや。
さぁ…リック、これを躱せるかな。
「ライトソード」
――ブォン
リックが雷炎の包まれている間に準備をしよう。
アビス・セイヴァーを解除してライトソードを展開。
「ライト」
――ポンッポンッポンッポンッ!
リックの周囲に百を超えるライトを展開。
雷炎大樹が消え、リックが周囲の異変に気付いた。
気付いた頃には、ほとんど準備は出来ている。
「はぁ…はぁ…ライト…か」
「最近編み出した必殺技だよ。勝利へと導く輝きの道! シャイニングロード! 連結!」
ライトとライトを繋ぐ光の道が走る。
一瞬にして張り巡らされた輝きの道に…リックの表情が引きつる。
これを見て解るなんて、流石。
「こりゃ…やべぇな…」
「躱してみてよ。…光速剣」
近くのライトに飛び込む。
――ザシュッ!
「ぐっ…」
光の速度で刃を立てる。
リックの左腕が宙を舞った。
追撃。
――ガガガガ!
雷炎の鎧を光速で何回も何回も斬り裂く。
一秒で…百を超える斬撃。
その気になれば千まで届くけれど、身体が持たない。
ついに、雷炎の鎧を剥ぎ取った。
「……がっ…ふっ……はぁ…はぁ……アスティ、降参だ」
「…ありがとうございました」
リックはとても悔しそうだ。
でも、そこに暗い感情は無い。
子供のような笑顔を私に向けて、楽しかった…と一言。
――バタンッ。
そのまま仰向けに倒れこんだ。
「お爺様!」
シエラが駆け寄り、リックの容態をみている。
左腕切断に身体中の裂傷、魔力不足で割りと危険な状態。
ちょっとどいて。
左腕を繋げて…と。
「グレーターヒール」
……よし、左腕が繋がって傷が回復した。
魔力不足は少し休んだら治るし、意識はあるから大丈夫かな。
「はははっ、悪いな。回復までしてもらって」
「騎士の情けって奴かな」
リックは仰向けのまま、空を見上げている。全力を出してやりきった顔。
「いやー、負けちまったなぁ……最後のあれは卑怯だぞ。強すぎだ」
「ふふっ、あの技は燃費が最悪だから切り札なんだ」
「…誰に剣を教わったんだ?」
「……」
うーん…言ってしまうと色々繋がるからなぁ。
「…誰にも言わねえ、誇りに賭けて。シエラ、そうだろ?」
「はっ、はい! 誇りに賭けて!」
誇りに賭けて…言ってしまうと剣を捨てるという事か。
まぁ嘘は言っていないし、私も嘘は言いたくない。
「…ディアボロス・アタラクシア」
「っ! んだと…」
「知り合い?」
「あぁ…古い仲だ…今…あいつは何処に居るんだ?」
「フーツー王国のお城で執事をしている」
……爺やと知り合いか。
リックは懐かしそうに目に涙を溜めている。
仲良しだったのかな。
「アスティ、お前は何者だ?」
それに執事と聞いたら、当然私の関係が気になるよね。
執事は忙しいから城の外はほとんど出られない。
ここまでの剣技を習得するには、ほぼ毎日会う必要がある。
地味メガネのアレスモードをオフ。
纏めていた髪をほどいて、女の子に早変わり。
「えっ……」
どや。可愛くて驚いたか? シエラちゃん。
リックは何かを感じたのか、起き上がって私を見詰めている。
「元…フーツー王国第一王女、アレスティア・フーツー・ミリスタンと申します。以後…お見知り置きを」
可愛くポーズ。
シエラは口を開けて茫然と私を見詰め…
リックも目を開いて驚き…事実と受け止め豪快に笑いだした。
「――はっはっは! ……こりゃ…傑作だ」
やっぱり堪らないねぇ…この瞬間も。




