私の理想がどんどん高くなっている。
悔しいなぁ…全力を出したからこそ。
でも…改善点が見えた。
帰って修行だな。
『待て』
「…なんでしょうか」
折れた竜剣を拾って帰ろうとしたらバラスに呼び止められた。
戦意は無い。
なんだい? 私が帰ってしまうと寂しいかい?
『ここまで来たんだ。土産がある』
「土産?」
……何かくれるの?
バラスが後ろを向き歩き出した。
……付いて行けば良いのかな?
尻尾がフリフリしている…触りたい。
……向かう先は、小高い丘。
丘の頂点に辿り着いて…少し地面を掘っている。
何かを取り出して、口に咥えて私の所に持ってきた。
土で汚れているけれど…白い剣、かな。
手に取って見てみる。
軽いけれど、持ち手が男性用。
多分持ち手だけ変えれば使えるけれど……素材は何だろう?
『持っていけ』
「…剣、ですか。何の剣ですか?」
『お前達が白銀獅子と呼んでいる者で作った剣だ。昔、持ち主を返り討ちにしてな…武器になっている以上、使われた方が本望だろう』
白銀獅子の爪と前足の骨で造られた剣らしい。
真っ白い雪のような剣…
バラスの素材じゃ無さそうだな。
でも…形は違うけれど目的を達した訳か……
「この剣の素材は……知り合いの素材ですか?」
『……』
使わせて貰う以上、この剣の背景は聞きたい。
バラスは閉口。
教えてよ。
『……良いから使え』
「教えて下さい。この剣を知らなければ、使いこなせません」
渋るなぁ…
こればかりは譲らんよ。
大事にしたいんだから。
『……弟だ』
大事な物だろうが……なんで…私に…でも、貰わないと失礼か。
「……ありがたく、使わせて戴きます」
まさか…魔物に最敬礼をする日が来るなんてね。
……バラスが人間だったら、惚れてんな。
急に押し掛けて殺しに来た人間に、大事な物まであげて…
もう、バラスとは殺し合いは出来ない。
出来ないけれど、また会いに来よう。
「…お願いがあるんですが」
『…なんだ?』
「黒い木の所まで乗せていって下さい」
『……図々しいって言われないか?』
「疲れて動けません」
『……乗れ』
よっしゃぁ!
ピョンッと飛び乗ると、呆れた雰囲気。
あぁ…モフモフ……
連れて帰りたい……
少しひんやりした柔らかい毛並み。
戦闘は硬かった…多分魔力を通すと硬くなるのかな。
バラスが駆け足で進み出す。
速い速い!
凄いなぁ…
『何故…力を求める?』
「最強種を倒して、世界で一番強くなってみたいんですよ」
『そうか…お前なら出来るかもな』
「アスティって呼んで下さい。バラスさん」
『……分かった、アスティ』
名前を呼ばれると嬉しい。
夢を肯定してくれるなんて…本当に嬉しい。
いやーほんと、人になってくれないかなぁ…
きっとバラスが人だったら猛アタックしているよ。
まっ、人に成る方法があったとしてもバラスは人に成らない。
誇りを持っているから。
バラスみたいな男性なら、お付き合いしてみたいけれど…居ないだろうなぁ……
私より強くて、私の我が儘を聞いてくれて、包容力があって、優しくて、器がでかい。バラスよりも。
……私の理想がどんどん高くなっているけれど、妥協はしない。
「ねぇ…バラスさん…」
『なんだ?』
「お友達になってくれませんか?」
『……断ってもまた来るのだろう?』
「はい、押し掛けますよ。断られても諦めません。私はしつこい女なので」
『…はぁ…分かった』
やったー!
またモフモフを堪能出来る!
いや、そうでは無くて…環境魔法を教えて貰いたい。
人の身で出来るか解らないけれど、やってみたい。
自分の世界に引き込むなんて、格好良いし。
黒い木までは、あっという間に着いた。
バラスとは、ここでお別れ。
またねー。
次の目的は、御先祖様の夢を見る事。
だから、時間ギリギリまでここで眠るつもり。
周囲の監視は傀儡人形に任せる。
多分バラスも見守っているし…甘えよう。
御先祖様があれからどうなったか知りたいし、力の根源も知りたい。何も見られなかったらそれまでだけれど、この木の下なら見れる筈。
という事で……おやすみなさい。




