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特事官ロバート。

 


 あの後はスッキリした気持ちで、辺境の街ラジャーナから帝都に戻り、花屋に帰る途中、ボーッと大通りの街並みを眺めていた。


(これからどうしよう…ずっと帝都で暮らす? 何処かへ旅に? …生活の基盤が出来ると離れたくなくなるなぁ…)


 ため息を付きながら、空を見上げる。

 夕焼けの空が綺麗、ただそれだけだった。



「はぁ~…」

「あの、そこの少年」


「…帰ろう」

「そこの少年、待ってくれ!」


 目の前に立ちはだかる男。少年…私か。身綺麗な格好で清潔感がある。真っ直ぐと見る視線は自信を表す…イケメンオジサン…渋いな。

 役人か経営者かな?害は無さそうだけれど、逃げられる準備はしよう。



「…何か?」


「あ、いや…さっき…ラジャーナで君の魔法を見てな。興味が出たんだ」


 見られた。見られたからってどうという事は無いけれど。興味か…確かに持つか…あんな魔法。


「…そうですか。用件は?」


「いや、警戒させてすまない。私はこういう者だ」


 小さな紙を渡される。特事官ロバート・スーザ。騎士団の判子が押されているから身元は確かかな?

 それにしても騎士団か…帝国の騎士団って何人居るんだろうなー。



「私はアスティです…」


「アスティ。ロバートと呼んでくれ。少し、話をしたいのだが時間を貰えるか?」


「…そこの大通りにある人気店『パンケーキのお店パンパン』のクリームパンケーキを奢ってくれるなら時間が出来そうです」


「…あのフリフリとしたピンクの店か…」


 ロバートさんが悩んでいる。それは無理も無い…人気店だけれど値段が高いし、お客さんは女の子かカップルしか居ない。

 おじさんが入るにはレベルが高い外観と内装。

 私も入るにはレベルが高い。フラムちゃんを道連れにすれば行けそうだけれど…


 少し悩んだ末にロバートさんは了承。

 そこまでして話をしたいなら聞いてみようと思った。



 二人で大通りを歩き、人気店パンパンに到着。ピンク色の壁に『パンケーキのお店パンパン』と可愛い文字の看板が目立つ。

 窓から見える内装は可愛らしい。

 ロバートさんの顔が引きつっていた。


「…本当にここで良いのか?」

「はい、ここに入るのが憧れだったので」

「…そうか」


 諦めた表情のロバートさんと共に中に入ると、店員さんがお出迎え。中は外観よりも凄まじい程に可愛い。

 ピンク色の壁、フリフリとしたレースのカーテン、ハート型のシャンデリア、店員さんもピンク色のメイド服…可愛い…着てみたい…



「いらっしゃいませー!お二人ですかぁ?」


「あ、あぁ二人だ。個室とかはあるか?」


「半個室ならありますよぉ?」

「あぁ…そこでお願いする」


「はい、ご案内しますねぇ! 二名様ご案内しまーす! いらっしゃいませー!」


「「「いらっしゃいませー!」」」


 恥ずかしい。そんなに大きな声で案内しないで欲しい。チラリと見ると、ロバートさんの顔が少し赤い。やっぱり恥ずかしかったんだな…


 衝立のある席に案内され、クリームパンケーキを二人分と紅茶を頼んだ。


「ロバートさんも食べたかったんですか?」


「今度、娘と来ようと思ってな。味を確認しておかないと」


「じゃあ娘さんと来る時は誘って下さい。そして奢って下さい」


「…機会があればな」


 パンケーキが来るまで、軽く自己紹介。ロバート・スーザ30歳。既婚者で七歳の息子と五歳の娘が居る。


 私も軽く自己紹介。ゴンザレス店長の元で働いていると伝えると驚いていた。やっぱり店長は有名人かな?



「お待たせしましたー!」


 自己紹介をしていると、店員さんがクリームパンケーキを持ってきた。

 バターで焼いたパンケーキの上にクリームがドンッ! と乗っている。美味しそう…ハート型に切られたフルーツも可愛い。


「いただこうか…」

「はい! いただきまーす!」


 パンケーキをナイフで切って一口頬張る。あぁ…クリームがパンケーキに染み込んで美味しい…毎食食べられるくらいの完成度。


 ロバートさんもこれは美味いと感心する程。



「美味しいですね!」


「あぁ、確かに人気なのが解るな」


 黙々と食べ、パンケーキはあっという間に食べてしまった。用件あるんじゃないの? と思ったけど食べながら話す内容じゃないのかな?


 紅茶を飲みながら、ロバートさんは私を真っ直ぐ見る。本題に入る様だ。



「実はな。将来有望な者をスカウトしているんだ。特事班という部署なんだが、見学に来ないか?」


「見学? 騎士団ですか?」


「あぁ、簡単に言うと騎士団の中の部署だな。特殊な事件、事案、事象を扱う。

 騎士団と民間の中間だから、騎士団学校から入りたいと言う者はかなり少ない…理由はお察しで」


 特事班は一定の権力はあるが、昇進は滅多に無い。

 花形では無いが、ある程度の能力が必要だという。

 理由は、まぁ、騎士団学校に入ったのに、わざわざ半端な部署に入りたくないという事かな。



「そうなんですね。どんな事を扱うんですか?」


「怪奇事件だったり、魔物の分布や調査、貴族や役人への内部調査や雑用など様々。

 騎士って意外と忙しくてな。軍事訓練、帝都の見回り、事件の処理、報告書作成などの事務作業、警護や夜勤…」


 要するに騎士団がする仕事の中で、隙間にある仕事かな? 時間が掛かる仕事とか。地味な作業が多いか。



「そうですかぁ…店長に言ってみないと、何とも言えないですね」


「という事は、少し乗り気かな?」


「危険が無いならですけど?」


「あれだけの魔法が使えれば充分安全だよ。それに話して解ったが、その歳でよく頭が回る。適任だよ」


 それは危険があるという事か。そもそも私は12歳なんだけど…良いの? まぁ11歳で騎士団副団長補佐官に任命されたスーパー少年が居るらしいし、普通なのかな?



 特事班は中央区にあるけど、各区にある騎士団詰所に行けば通信の魔導具で連絡出来るらしい。


「来てくれる事を願っているよ。アスティ」


「前向きに考えてみます」


「ところで、失礼だがアスティは男なのか?」


「女の子ですよ。まぁ…危ないんで」


「ほう。そうなのか。なるほどなるほど」


 奢ってくれたロバートさんにお礼を言う。パンケーキの値段は銅貨3枚。鉄貨6枚で昼食が食べられると思ったらかなり高かった。


 薄暗い街から帰宅した私は、魔法の練習をしながら考える。



「良い話なのかな?…明日店長に聞いてみよう」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌朝。店長に昨日ロバートさんと話した事を伝えた。



「あらぁー、特事班にスカウトされたのね?」


「はい。店長の意見も聞きたかったので」


 少し驚いた様子で笑っている。私の歳でスカウトは珍しいらしい。



「危険と言えば危険ねー。でも良いんじゃない? 良い経験だし、やってみたら?」


「止められるかと思いました。でもここで働く時間が減りそうで…」


「良いのよ。週1日でも良いし。それに騎士団の男を捕まえるチャンスじゃない? 安定収入よ?」


 確かに騎士団は国から雇われているから安定収入。でも、今は恋愛なんてする気は無いかな。まぁそれ以前に男性と付き合う事は出来ないけれどね。

 特事班は週何日なんだろう? 聞きそびれたな…



「じゃあ、見学だけでもしてみますね。明日大丈夫なら行ってきます」


「行ってらっしゃい。ロバートは良い男だから安心して案内されなさい」


 店長はロバートさんと知り合いだけれど、冒険者時代一緒に仕事をしたらしい。どんな仕事かは言わなかったけれど、懐かしむ顔が印象に残った。



 今日は店頭に立って接客。今日は黄色い制服を着てお花を並べていく。沢山のお花の匂いが心をウキウキさせる。


「アスティちゃん! こんにちは!」

「あっフラムちゃんこんにちは! 来てくれたんだね!」


 友達のフラムちゃんがお昼にやって来た。赤い髪が太陽に反射して綺麗。今日も可愛いな。

 学校が午前中に終わったから遊びに来てくれた。

 学校かぁ…良いなぁ…


「今日も可愛いね。アスティちゃん」

「ありがと。フラムちゃんも可愛いよ!」


 えへへと笑い合って手を取り合う。ギューッてしたいけど仕事中だから我慢しなきゃ。フラムちゃん時間あるなら、お喋りしながら仕事したいなぁ。



「そうだ! このベンチに座ってて良いよ! お客さんが居ない時は喋り相手になって欲しいな!」


「良いの? やった。アスティちゃんとお喋りしたかったんだ!」


 店頭にあるベンチは小さな机もある。フラムちゃんが座り、お茶を入れてあげたら喜んでくれた。

 可愛い…部屋に連れ込みたいな。


 フラムちゃんとお喋りしながら、お客さんが来たら接客。なんて良い職場なんだ。

 いつものおばちゃんもフラムちゃんとお喋りして楽しそう。


「アスティちゃん。店長怖いからあまりここに近付かなかったけど、良いお店だねー。お花の匂いに癒されるし」


「でしょ? フラムちゃんもここで働いてみる?」


「アスティちゃんとお花屋さんで一緒に…良いかも…」


 店長は忙しいので、私以外にも人手が欲しいと思う。フラムちゃんなら大歓迎。しかもフラムちゃんが居ると男の子が寄って来ない。



「フラムちゃんが居ると男の子が来ないから、仕事が楽だなぁ」


「あぁ…多分私を怖がって来ないんだと思う。私って口悪いから…」


 フラムちゃんは剣術道場でも同世代では強い方らしい。だから剣術で勝てなくて口でも勝てなかったら、そりゃ怖がるか。

 男の子ってメンタル弱いし。


「私は好きだよ。フラムちゃんの事」

「アスティちゃん…私も…好きだよ」


 可愛いー。少し恥ずかしがっている姿が尚良し。男の子達もこの魅力に気付くのは時間の問題だと思うけど。あと数年したらモテモテだろうなぁ。


 雑談しながら仕事をしていると、やっぱりバランがやって来た。でも途中で立ち止まってフラムちゃんを見ている。


 私は無視して他のお客さんの対応をする。バランとは話したくない。


「あっ、クソバラン。アスティちゃんに何の用?」


「フラム、アスティと友達なのか?」


「そうだよ。仲良しなの。何の用? それとアスティなんて呼び捨てにしないで、アスティちゃんが穢れる」


「いや…アスティに会いに来たんだ」


「はぁー。あんたねぇ…この前私が居た時の、女二人連れてデートしてるのアスティちゃんにバッチリ見られてたよ。

 かなり嫌われてる自覚ある? いい加減諦めな」


 バランが精神ダメージを受けて落ち込んでいる。フラムちゃんありがとう!

 フラムちゃんが危険な目にあったのは忘れない。私の中ではもうバランのせいになっていた。


「それなら! みんなとはもう会わない!」


「バカなの? そんな事したらアスティちゃんが女の子に嫌がらせされるじゃない。私、そんな事になったら絶対許さないよ」


「…ぐっ」


「それに、目も合わせてくれないなら望みは0ね。さようならクソバラン。これ以上仕事の邪魔したら店長呼ぶわよ」


 悔しそうな顔をして、バランは去っていった。

 凄い…フラムシールド。

 もう貴女を手離したくない…でもそれを言うと気持ち悪いって思われちゃうかな。


「フラムちゃん…ありがとう」


「良いの。ああいう奴はまた来るから、来る度にボコボコにしないと付け上がるからね」


 今日はフラムちゃんが居たから売上も良かった。やっぱり可愛い女の子が居ると集客になるよね。


「じゃあ私帰るね。楽しかった」


「うん! ありがとう! このお店の上に住んでいるから、今度遊びに来て欲しいなぁ」


「ほんと? 行く行く! またねー!」


 やった。これでフラムちゃんを部屋に連れ込める。抱き締めながら本読みたい。妄想が広がる。




 ______




 翌日。大通りにある騎士団詰所にやって来た。


「どうされました?」

「あの、アスティと言います。ロバート・スーザさんに面会したいのですが」


 先日渡された名刺と、私の身分証を提示。連絡してくれるそうだ。



「確認が取れました。ロバート特事官が直接こちらに来られるそうなので、あちらでお待ち下さい」


「はい。ありがとうございます」



 しばらく待合室で待っていると、イケメンオジサンのロバートさんがやって来た。


「やあアスティ。連絡待っていたよ。では行こうか」


「はい。ちょっと緊張しますね」


「はははっ、そうだな。中々出来ない経験だから仕方無いさ」


 ロバートさんと共に、中央区にある特事班の本部へ向かう。

 中央区に入るのは初めてだけど、奥にある貴族街までは行かないらしい。正直助かる。

 もしかしたら私の顔を知ってる人とか居そうだし。居ないよね?



「あの、私と同じくらいの子って居ますか?」


「いや、居ないな。18歳が最年少だったが、もし12歳が入ったら記録更新だな」


「それは、ちょっと不安ですね。見学だけで終わったらすみません」


「あぁ、大丈夫だよ。因みに、帝国中の事件とか魔物図鑑とか観覧出来るから退屈しないぞ?」


「へぇーそんなんですか。それは楽しみですね!



 事件かぁ…私を刺した奴の事も調べられるかな?





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