平民同士の喧嘩ですよ。
残り少ない時間…少しでも闘っておきたい。
私が望んでも、この先は会ってくれないと思うから。
「私に…あなたの力を見せて下さい。無元流・乱れ桜」
「――光咲連撃!」
ガガガガッ!――
頭、足、肩、腹と不規則な連撃をミズキは焦った様子で弾いていく。
初見殺しの技を全て弾くなんて…剣技だけなら爺やとまともに撃ち合える。
タイミングをずらした攻撃は後退し、光の刃を放ってきた。
「――閃弾き」
ギャリッ!――
光の刃を弾いた瞬間に魔力を溜めている。
上手い闘い方…
私よりも死線を潜っている…
それは当然か。
「光よ! シャイニングアロー!」
キュインッ!――
ミズキの頭上から展開された光の矢が迫る。
数が凄い…
まぁでも…
「――深淵の瞳」
ギュゥゥウ!――
迫る矢を全て右目で吸収。
この能力も問題無く使える。
光を吸収する程の闇…
生半可な攻撃は効かないよ。
「――っ! 光を吸収した…」
「ごちそうさまでした。私に光魔法は効きません…本気で撃ち込んでみたらどうですか?」
光の攻撃を視れば視る程に、吸収すればする程に私の糧となるのだけれど、直ぐには使えない。
使い方が解っても出来るかどうかは別物だから。
ミズキが意を決したように光剣を天に向ける。
キイィィイ!――
ミズキから光の柱が立ち昇る。
うねりを上げて魔力の奔流がビリビリと私の顔に当たっている。
強いな。
私のソルレーザーよりも強い光の魔法。
夜の時間でここまでの力を引き出せるなんて…
「天空の光よ! 勝利へと導く輝きの道! シャイニングロード・ペガサス!」
ギュィィイイ!――
遥か上空から飛来する光の道が私に向かって降りてくる。
光の道は私の眼前で停止。
そして、遥か上空から光の道を掛け降りる何かが見えた。
ヒヒィーン!――
翼の生えた馬…光のペガサス。
これは、超級魔法か。
翼を羽ばたかせ、高速で掛け降りる姿は美しく、
圧倒的な力を感じる。
ふふっ、面白い。
それなら私も…さっき頭に入って来た魔法を使おう。
「――深淵魔法・アビスフレイム」
ゴオォオォオ!――
光のペガサスが黒い炎に呑み込まれる。
ヒヒィーン!――
ごめんね。ペガサスさん。
……黒い炎が消え去り、ペガサスは光の道と共に消え去った。
「はぁ…はぁ…そんな…超級魔法が…」
なるほど…私が光と闇以外の属性がショボイ理由……解った気がした。
私には…合っていないんだ。
この世界の魔法が。
まぁ…それについては…追々考えよう。
後回しにする事案が多い気がするけれど、情報が多すぎて混乱しているから…ね。
「そろそろ…時間切れです。楽しい時間をありがとうございました。深淵の瞳」
ビキィ――
深淵の瞳を発動…闇を操りミズキを拘束。
「くっ…身体が…」
ミズキの身体の自由を奪った。
とりあえず、眼鏡を掛けよう。
邪魔者に顔を見られる訳にはいかないからね。
噂をすれば、なんとやら…
「――ミズキ! ――アイシクルエッジ!」
ガッ!――
後方から飛来した氷の刃をわざと受ける。
背中にライトシールドを仕込んでいるからダメージは無いのだけれど、攻撃は無駄だというアピールをしてみる。
「効かない…くっ…あなたは何をしているのか解っているの! ――っ! あなたは…昼間の地味な奴…」
「何をって、平民同士の喧嘩ですよ。邪魔をしないで欲しいですねぇ…えーっと……アース王国の王族さん」
名前なんだっけ? ヘンナエッテ? ヘンナエッタ? ヘンナエッチ…近くなってきた気がする…それで良いか。
護衛も居る…邪魔だから拘束しておくか。深淵の瞳がんばれー。
「勇者を害する者は万死に値する…許されない事をした自覚はあるの?」
「ここは帝国ですよ? 勇者の称号が有効なのは、アース王国の中だけ。ここでは正直平民以下の女性です。そして私も平民…平民同士の喧嘩に他国の王族が介入する方が問題ですね」
「うるさいわね…私は次期皇帝の妻となる最高の王女よ? お前ごときが発言する権利は無い…直ぐに処刑してやるわ…」
ん? 何が発言する権利だよ…会話してんじゃん。
次期皇帝ってあのナルシスト第二皇子がなれんの?
その前に最高の王女なら法律を勉強しろよ。
なんかイメージ崩れた。
もっとクールな奴だと思ったのに。
普通だな……ん?
……リアちゃん……来ていたならさ……なんで遠くから見ているの? 早く近くにおいでよ。ニヤニヤしないでよ。深淵の瞳で視力がやたら上がっているからよく見える。早くおいでよー。
んー…どうしようかな。
殺すか? いや、殺しては駄目だ。殺したら誰がナルシストと結婚してくれるんだ。ヘンナエッチが結婚する気満々だから丁重にお帰り願わないと……
「処刑と言うけれど、何罪ですか? 勇者を虐めた罪ですか? そうなると勇者を倒した私が英雄扱いですよ? それ以前に法律の勉強でもしたらどうですか? ありきたりな感情論だけでは私の心に何一つ響きませんよ?」
「……貴様」
煽ってどうする私よ!
深淵の瞳を発動してから口が悪くなっているよ!
普段は良い子だよ! いやそうではなくて……あっ、深淵の瞳で枷を付ければ良いか。
「――深淵の瞳」
「うっ……」
「姫様! 何をした!……なんだ…名前が言えない」
ミズキにも枷を付けている。
私に関する情報を外に漏らさないようにね。
だからこのヘンナエッチも私に関する情報を口に出来ない。
ふっ、私は悪い女さ。
少し整理すると、深淵の瞳の能力は…
対象の深淵を視る事が出来る。
技や魔法の視取り。
光と闇の攻撃を吸収。
深淵魔法。
心に攻撃や干渉を行う事が出来る。
ざっくり言うとこんな感じだけれど、明らかに悪者の能力だよね。
「殺されないだけ、ましだと思った方が良いですよ?」
心の弱い、心に隙のある人間は深淵を覗きやすい。
だから、心の奥に潜む感情や記憶が視られる。
「私の魔眼で、あなた方の記憶を覗かせていただきます。私には、その権利がありますからね」
という事で、アレスティア王女殺人事件の真相でも探りますかぁ……リアちゃんが知りたそうだし。
「――深淵の瞳」




