お手紙です。この想い…受け取って下さい!
……ダグラス君、なんでまだ居るの?
邪魔なんだけれど。
……暇じゃないでしょ?
あぁ…レジンさんがアスティに付いていてやれって言ったんだろうね。
まぁ良いか。
ダグラス君が居てくれた方がそれっぽく見えるし。
「じゃあ付いて来て貰って良い?」
「ん? 良いぞー」
再びアース王国の控え室へ。
表彰式が終わって直ぐだからまだ居る筈だと……おっ、丁度出てくる所だった。
「すっ、すみません!」
「何かしら?」
「あの! ファンなんです! これ読んで下さい!」
「手紙? ふふっ、ありがとうね。小さな騎士様」
よし! 受け取った!
目的は達したからアース王女は無視で良いや。慌てた様子を装って一礼して走り去る。ダグラス君も一礼して私の後ろから付いてきた。
ふぅー。緊張した。
もう変な感覚には慣れたから、面と向かっても大丈夫だったから安心。
「アスティ、お前良い匂いするな」
「いきなりそんな事言われると気持ち悪くて吐きそうだよ」
「うん、俺も今言って後悔している」
ダグラス君、私の身体に顔を近付けないでくれるかな?
思わず殴ってしまいそうになるよ。
とりあえず、私の用事は済んだから帰ろうっと。
* * * * * *
「ラブレターなんてモテモテね。なんて書いてあるの?」
「姫様、そういう事は聞かないものですよ」
「だって私には目もくれていなかったのよ? 地味な奴だったから別に良いけど」
「……えっ……なんで……」
「ん? どうしたの?」
「いえ……申し訳ありませんが、夜に用事が出来ました。代わりの護衛を付けますので宜しくお願いします」
「用事って何?」
「…」
* * * * * *
一時帰宅。
「ただいまー」
「「「おかえりー」」」
「みんなごめん、夜に用事が出来そうだから…終わったら帰って来るね」
「そっかぁ…早く帰って来てね」
「うん、起きて待っているね」
「今から寝てアスティちゃんが帰ってきたら起きるね」
多分そんなに時間は掛からないと思うよ。
多分……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
手紙で時間と待ち合わせ場所をしておいたけれど…本当に来るかな?
手紙の内容は……『フーツー王国の王女を殺してどんな気持ちですか? 黒騎士様。』という普通の日常会話。
今居る場所は、帝都の外。
月明かりが眩しい明るい夜。
人の来ないような場所だけれど…迷っていたら来ないだろうな。
「っと、そんな心配は不要か」
帝都の方から向かってくる気配。
よく抜け出せたね。
「……ふふっ、物騒ですね。私は話をしたかっただけですよ?」
帝都からやって来た黒髪の女性。
防具を装備し、剣を所持。いつでも闘える状態だった。
まぁ…私も似たような状態だけれど。
「……君は、何者?」
「何者でも無いです。あなたのファンですよ」
「それは…嘘ね」
あぁ…こうして向かい合うと解る。
言葉を交わせば解る。
この人が私の運命を変えた。
「…運命なんですよ」
「……何?」
「そう…私の運命を変えてくれたあなたは、私の運命を導く鍵であった。心から感謝すべき恩人です」
「…何を言ってる」
気分が高揚してくる。
私の中から、何かが這い出して来るような…ゾワゾワとする感覚が増してきた。
闘いたい。
闘えば…私は高みへ行ける。
「勝負しましょう。黒騎士様……いえ、勇者ミズキ様」
「…闘う理由は無い」
「私には、あるんですよ。ふふっ…くふふ…私の中の何かが……あなたを倒せと叫んでいるんです。理由なんて、それで充分ですよ」
あぁ…右目が熱い。
力が地の底から湧き出すようにどんどん漲ってくる。
これが、私の魔眼か……
やばいなぁ……この……全能感。
「この…魔力…本当に人間?」
「人間ですよ。人間から産まれましたから。ふふっ…子供だからって気を抜いては…死にますよ。私は…強いですから」
眼鏡は…まだ外さない。
ハンデ? 違う。楽しみは後で…ね。
「君は…危険だ…」
「ふふっ…くふふ…何言っているんですか? この世界の人間じゃない癖に」
「……君に何が解る」
お互いに、剣を抜く。
敵意を向けられると、ビリビリと身体の芯まで響く。
勇者…最強の代名詞。
普段の私なら、相手にもされずに殺されるけれど……今は違う。
「あなたの深淵を…覗かせて下さい」
正直…負ける気がしない。




